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ジェラルドのありふれた日常
ネリネは男爵令嬢クレア
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ラズベリー商会を経営するジェシカの元に、かつて楽園で一緒だった女性が尋ねて来た。
楽園で生活した期間が短く、殆どの時間をマリンと過ごしていたジェシカは、彼女の事を余り覚えていなかったが、相手は有名なジェシカの事を知っていて、藁にも縋る思いで来たらしい。
取り敢えず、ラズベリー商会の応接室へ通して、本当の名前を知らないジェシカは、楽園の名前で呼びかけた。
「それで、ネリネさん、今日はどんなご用件かしら?」
ネリネはピンク色の髪と瞳を持つ女性で、ジェシカと同年代か少し年下に見える。
彼女の顔は暗く影っていて、言い出し難いのか膝に置いた手をもじもじさせている。
「実は少しお金を借りられないかと思って…」
ジェシカは驚いた、面識があるだけで名前すら知らない女性から言われる事では無い、呆気に取られて黙り込む。
「………」
「ごめんなさい、急にこんな話をされても困りますよね?、私ったら本当にごめんなさい、今日は帰ります」
黙り込んだジェシカを見たネリネは、呆れた雰囲気を察したのか、慌てて謝ると逃げる様に出て行った。
「……何だったのかしら」
ジェシカが狐につままれた気分でいると、ケイティが紅茶を持って入室して来た。
「あれ、社長、お客様はどちらに?」
茶髪茶眼のケイティが部屋を見回す。
「帰られたわ。ケイティそれは一緒に飲みましょう」
「早いお帰りですね、先程の方はモルブライト男爵家のクレア様ですか?」
紅茶に口を付けていたジェシカは、ケイティが彼女を知っていた事に驚く。
「ケイティ、彼女の事を知っているの?、知っている事を教えて貰えるかしら」
「はい、詳しくは知りませんが、噂ではモルブライト家は借金を抱えていて、クレア様が金策に動かれているらしいです」
「借金?、金策?」
裕福な貴族であるジェシカには縁の無い言葉だが、ネリネが大変らしい事は分かった。
面識があるだけの自分にまで頼って来るとは、かなり切迫している様だ。
「彼女また来るかも知れないから、もう少し噂を集めておいて頂戴、ケイティお願いね」
ジェシカは彼女の事情を確認してから、お金の事を考える事にした。
「はい!、お客様にそれとなく聞いてみます、あっそれとホワイト夫人が先日のお詫びに来られました、来客中と伝えるとお菓子を置いて帰られました」
「………そう、有難うケイティ」
…… ホワイト夫人 ……
色々と迷惑を掛けてくる彼女は、もはやジェシカに取って鬼門に近い存在になっている、今後の為にも出来るだけ距離を取って置きたい。
お菓子は功労者のジェラルドに渡す事にした。
◆◇◆◇◆◇
夕食を終えて居室に戻ったジェシカは、ソファに座ってネリネの話をし始める、ジェラルドはホワイト夫人のお菓子を食べている。
「ねぇ、楽園に居たネリネの事を覚えている?」
「ネリネ?、誰だろう?」
彼はお菓子の皿を片手に考え込む、ジェラルドも殆どの時間をジェシカと過ごしていたせいか、覚えていないようだ。
「ピンクの髪と瞳の女性よ」
「ああ!、彼女か……」
ジェシカが容姿を説明すると思い出した。
「確かアイリスと仲が良かったな、彼女がどうかしたのか?」
その言葉を聞いたジェシカはムッとする、アイリスはジェラルドの誘拐を企て、ネリネは借金の申込み、とんでもない二人だ。
不機嫌を察したジェラルドがお菓子を置いてジェシカの方を向くと、クリームを指ですくってジェシカの唇につけた、そして舌で唇を舐めてくる。
「凄く美味しい、ジェシカの赤いベリーもクリームで飾ろう」
ソファに寝かされ服のボタンを外された、胸のベリーにクリームをつけられて、ジェラルドにじっくり舐められ食べられる。
「んっ、あっ、ジェラルド、駄目、まだ湯浴みしてないから、待って」
「だから良いんだ、どれだけクリーム塗れになっても後で綺麗に出来るだろう、それにとても美味しいよジェシカ」
この後もあちこちにクリームをつけられて味を確かめられたジェシカは、旦那様から精力的に愛されて女性としての幸福感に満たされた、そして不機嫌だった事は忘れた。
◆◇◆◇◆◇
翌日、ジェラルドはいつものカフェにいた。
一人の穏やかな時間を過ごしたり、知人や友人達と楽しい時間を過ごす馴染みの店だ。
そして今日も俺の前にはリーフとスカイがいる、食後のコーヒーを飲み始めると、俺は楽園で一緒だったリーフに話かけた。
「リーフ、楽園にいたネリネを覚えているか?」
聞いた途端にリーフの顔が少し赤くなる。
「覚えている、どうしてそんな事を聞いてくる?」
俺はその顔で色々と察した、前から相談されていたリーフの想い人がネリネだったのかと。
「ジェシカの店に来たらしい、でも俺もジェシカも彼女の事はあまり覚えていない、彼女はどんな娘だ?、教えてくれ」
「そうだな、ピンク色の髪と瞳をした静かな人だ」
人物紹介が凄く浅い。
「他には?、彼女の家族構成とか男爵家の領地の事とか、楽園の前後の暮らしとか、知ってる事を教えてくれ」
「……‥」
リーフは明後日の方を向いて黙り込んだ。
まさか何も知らないのだろうか、少しは彼女との仲が進展していた筈では?
俺はどういう事だとスカイを見た、それに気付いたスカイが爽やかに返してくる。
「彼は慎重派なんです、彼的には少しづつ進展しています」
……彼的には進展していても、彼女的に進展が無ければ、二人の関係は発展していないも同然ではないのか?……つまり何も進展していないと……
俺は疑問を飲み込んだ、深掘りするのはやめよう、リーフが堅物だという事は分かっている、気まずい空気に居た堪れず、俺は適当に相槌を打った。
「そうか、ああ、そうだな、そう、これからだ」
それからはネリネの事は忘れて話題を変え、いつものように雑談をして楽しい時間を過ごすと、暫くして二人は帰って行った。
二人と入れ違いに、最近この店でよく見かける白髪の老婦人が入店してくる。
穏やかで上品な彼女を見ていると、ジェラルドもいつも穏やかな気持ちになる。
やがて自分とジェシカが年老いた時、あの老婦人のように穏やかで満ち足りた空気を持ちたいと願う。
二人の未来に思いを馳せたジェラルドは、最愛の妻に会いたくなり彼女を迎えに行く事にした。
彼はいつもと同じで今日も妻にゾッコンだった。
楽園で生活した期間が短く、殆どの時間をマリンと過ごしていたジェシカは、彼女の事を余り覚えていなかったが、相手は有名なジェシカの事を知っていて、藁にも縋る思いで来たらしい。
取り敢えず、ラズベリー商会の応接室へ通して、本当の名前を知らないジェシカは、楽園の名前で呼びかけた。
「それで、ネリネさん、今日はどんなご用件かしら?」
ネリネはピンク色の髪と瞳を持つ女性で、ジェシカと同年代か少し年下に見える。
彼女の顔は暗く影っていて、言い出し難いのか膝に置いた手をもじもじさせている。
「実は少しお金を借りられないかと思って…」
ジェシカは驚いた、面識があるだけで名前すら知らない女性から言われる事では無い、呆気に取られて黙り込む。
「………」
「ごめんなさい、急にこんな話をされても困りますよね?、私ったら本当にごめんなさい、今日は帰ります」
黙り込んだジェシカを見たネリネは、呆れた雰囲気を察したのか、慌てて謝ると逃げる様に出て行った。
「……何だったのかしら」
ジェシカが狐につままれた気分でいると、ケイティが紅茶を持って入室して来た。
「あれ、社長、お客様はどちらに?」
茶髪茶眼のケイティが部屋を見回す。
「帰られたわ。ケイティそれは一緒に飲みましょう」
「早いお帰りですね、先程の方はモルブライト男爵家のクレア様ですか?」
紅茶に口を付けていたジェシカは、ケイティが彼女を知っていた事に驚く。
「ケイティ、彼女の事を知っているの?、知っている事を教えて貰えるかしら」
「はい、詳しくは知りませんが、噂ではモルブライト家は借金を抱えていて、クレア様が金策に動かれているらしいです」
「借金?、金策?」
裕福な貴族であるジェシカには縁の無い言葉だが、ネリネが大変らしい事は分かった。
面識があるだけの自分にまで頼って来るとは、かなり切迫している様だ。
「彼女また来るかも知れないから、もう少し噂を集めておいて頂戴、ケイティお願いね」
ジェシカは彼女の事情を確認してから、お金の事を考える事にした。
「はい!、お客様にそれとなく聞いてみます、あっそれとホワイト夫人が先日のお詫びに来られました、来客中と伝えるとお菓子を置いて帰られました」
「………そう、有難うケイティ」
…… ホワイト夫人 ……
色々と迷惑を掛けてくる彼女は、もはやジェシカに取って鬼門に近い存在になっている、今後の為にも出来るだけ距離を取って置きたい。
お菓子は功労者のジェラルドに渡す事にした。
◆◇◆◇◆◇
夕食を終えて居室に戻ったジェシカは、ソファに座ってネリネの話をし始める、ジェラルドはホワイト夫人のお菓子を食べている。
「ねぇ、楽園に居たネリネの事を覚えている?」
「ネリネ?、誰だろう?」
彼はお菓子の皿を片手に考え込む、ジェラルドも殆どの時間をジェシカと過ごしていたせいか、覚えていないようだ。
「ピンクの髪と瞳の女性よ」
「ああ!、彼女か……」
ジェシカが容姿を説明すると思い出した。
「確かアイリスと仲が良かったな、彼女がどうかしたのか?」
その言葉を聞いたジェシカはムッとする、アイリスはジェラルドの誘拐を企て、ネリネは借金の申込み、とんでもない二人だ。
不機嫌を察したジェラルドがお菓子を置いてジェシカの方を向くと、クリームを指ですくってジェシカの唇につけた、そして舌で唇を舐めてくる。
「凄く美味しい、ジェシカの赤いベリーもクリームで飾ろう」
ソファに寝かされ服のボタンを外された、胸のベリーにクリームをつけられて、ジェラルドにじっくり舐められ食べられる。
「んっ、あっ、ジェラルド、駄目、まだ湯浴みしてないから、待って」
「だから良いんだ、どれだけクリーム塗れになっても後で綺麗に出来るだろう、それにとても美味しいよジェシカ」
この後もあちこちにクリームをつけられて味を確かめられたジェシカは、旦那様から精力的に愛されて女性としての幸福感に満たされた、そして不機嫌だった事は忘れた。
◆◇◆◇◆◇
翌日、ジェラルドはいつものカフェにいた。
一人の穏やかな時間を過ごしたり、知人や友人達と楽しい時間を過ごす馴染みの店だ。
そして今日も俺の前にはリーフとスカイがいる、食後のコーヒーを飲み始めると、俺は楽園で一緒だったリーフに話かけた。
「リーフ、楽園にいたネリネを覚えているか?」
聞いた途端にリーフの顔が少し赤くなる。
「覚えている、どうしてそんな事を聞いてくる?」
俺はその顔で色々と察した、前から相談されていたリーフの想い人がネリネだったのかと。
「ジェシカの店に来たらしい、でも俺もジェシカも彼女の事はあまり覚えていない、彼女はどんな娘だ?、教えてくれ」
「そうだな、ピンク色の髪と瞳をした静かな人だ」
人物紹介が凄く浅い。
「他には?、彼女の家族構成とか男爵家の領地の事とか、楽園の前後の暮らしとか、知ってる事を教えてくれ」
「……‥」
リーフは明後日の方を向いて黙り込んだ。
まさか何も知らないのだろうか、少しは彼女との仲が進展していた筈では?
俺はどういう事だとスカイを見た、それに気付いたスカイが爽やかに返してくる。
「彼は慎重派なんです、彼的には少しづつ進展しています」
……彼的には進展していても、彼女的に進展が無ければ、二人の関係は発展していないも同然ではないのか?……つまり何も進展していないと……
俺は疑問を飲み込んだ、深掘りするのはやめよう、リーフが堅物だという事は分かっている、気まずい空気に居た堪れず、俺は適当に相槌を打った。
「そうか、ああ、そうだな、そう、これからだ」
それからはネリネの事は忘れて話題を変え、いつものように雑談をして楽しい時間を過ごすと、暫くして二人は帰って行った。
二人と入れ違いに、最近この店でよく見かける白髪の老婦人が入店してくる。
穏やかで上品な彼女を見ていると、ジェラルドもいつも穏やかな気持ちになる。
やがて自分とジェシカが年老いた時、あの老婦人のように穏やかで満ち足りた空気を持ちたいと願う。
二人の未来に思いを馳せたジェラルドは、最愛の妻に会いたくなり彼女を迎えに行く事にした。
彼はいつもと同じで今日も妻にゾッコンだった。
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