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1章
3話「孤独を背負う領主の判断と行動」
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ローテアスル村、人口はルグの領地内に存在している村の中では中ぐらいの人数を誇るが殆どがエルフと人間が占めている村であった。その村に首都アルードを擁するアルード国に反乱を企む者達がいる……そんな内部告発の書かれた手紙がヘルグから読まれたのはつい最近の出来事。
それが真実かは不明だった事も含めてヘルグに真実に裏付けする証拠を集めるのを命じて今日で3日。ヘルグが言っていたリミットである日である。
朝からルグはメイドに用意してもらったシュトレーゼ水を飲んで頭を覚醒させてから執務室へと身体を移動させた。そして、ヘルグが報告の為に姿を見せたのはそれほど時間が経過してない早朝の時間だった。
「ルグ様」
「戻った? それでローテアスル村の内部告発は真実かい?」
「私も調べる為に村に向かいそれとなしに潜伏している者達を調べてみたのですが、村の者達ではありませんね」
「やはり外部的要因が……。どんな者達だった?」
「明らかに村の人間達を脅して反乱を仕込んでいたのは盗賊風の男が数名、それと従えていたのは間違いなくモンスターの子供でした。恐らく魔界から召喚したのだと思われます。村人の1人に話を聞いた所、村の女と子供をモンスターに食われたくなければ男達は老いていようか若かろうが協力するように脅されていると影でお話をしてもらえました。このままでは無抵抗の者達の命が散るのも時間の問題かと」
「……。仮にその盗賊風の男の種族が分からないなら手を打つけれど、言わないって事は人間、なんだね?」
「……ルグ様のお心が嫌になるのは承知の上です。ですが、アルード国王からこの領地を任されている以上手を出さないという訳には参りません。ご命令下されれば私達が始末しますので、もう少しだけ頑張って下さいませ」
ヘルグは深々と頭を下げてルグに懇願する。ヘルグも理解しているのだ、ルグがどうして人間をこんなにも関心を持たない、見下すようになった原因を。
だが、今ルグはこのアルード地方の領主として首都を擁するアルード国の国王陛下から直々に領地を預かる身。ここでもし村を見捨てて村人に害が及んだのが聞こえてしまったら立場上責任を背負わないといけない事もルグは理解している。
少し考えてルグはヘルグとシレッダをローテアスル村に派遣する事を決断する。方法の判断は現地に行く2人に任せるが領主としての決断の1つとしてルグは2人に言い聞かせる。
「最低でも村の子供達を無事に救出するように。村が仮に廃村になったとしても子供達は首都の孤児院で預ける事は出来る。未来を担う子供に罪はない。大人以外の存在は守り抜け。僕の名の下に……行け」
「「はっ」」
ルグの言葉を聞いてヘルグとシレッダは静かに屋敷から姿を消す。吸血鬼の者達は血に宿る魔力を使って空を飛ぶ事は容易い。
ヘルグとシレッダは空を飛んでローテアスル村へと向かったのを察してルグは残った資料に目を通す。そこにヘルグの教えを受けた若い執事がサポートとしてルグの執務を手伝う。
メイド達も主人であるルグのサポートや休憩時の紅茶などの準備に取り掛かる。ルグの中ではローテアスル村の人間達を助ける理由は本来ならば領主じゃなければない。
それだけ人間に対して冷たい印象を持っているし変えるつもりもない。だが、このまま見過ごして領主としての責任に問われて領地を去る事になれば、この屋敷に住んでいるメイドや執事達が路頭に迷う事も考えた。
だが、それだけではない。この屋敷は……父と実母の思い出が残るルグの生家でもある。未練がある訳ではないがそれはあくまでルグの話。異母妹のアベリアも生まれた場所でもある……アベリアの帰るべき場所を失う訳にはルグには出来なかった。
「ルグ様、ブルゾワースルを淹れました。少しお休み下さい」
「ありがとう。ヘルグの選んだ茶葉かい?」
「はい。ヘルグ様からルグ様の気分が優れない時にお出しするように指示を頂戴しております」
「そっか……。本当、皆がいるからまだ頑張れるんだ。ありがとう」
「我々をお救い下さったルグ様の為なら我々はどんな事でも致します。例え人間を敵に回したとしても」
「本当……どうして今を生きる人間達を僕達は滅ぼさないんだろうね……あんな非道な出来事を許す事を英断だとでもいうんだろうか」
ルグはメイドの淹れてくれた紅茶のブルゾワースルを飲みながら口当たりや優しく特に女性が好むこの茶葉をヘルグがチョイスした理由にも何となく察してしまう。ルグがまだ幼い頃からこんなに人間を嫌う事をしていた訳ではない。
そう、ルグが生まれて数年後に事は起きたのである……人間による吸血鬼狩り。その結果無抵抗の吸血鬼達は人間によって多くの同胞達が死に絶えて行った。
ルグの家族で被害に遭ったのは……ルグの母。母はルグを連れてアルード国のパレードに行っていた時に起こった吸血鬼狩りが原因でルグを守る為にその身を盾にしてルグを人間達の凶刃から守り通した。
結果、屋敷に戻ってすぐに父親がルグに言い聞かせたのは……。
『お母さんは誇りを持って虹の橋を渡った。決して人間を恨んではいけないよ』
「どうして!? 人間達は母さんを僕から奪ったんだよ!? 抵抗しない母さんを人間達は集まって切り刻んでいった……どうして人間を殺したらダメなの!? 僕の母さんを殺した事を許せって事なの!?」
『それでも、人間に手を出してはいけない。私達は誇り高き吸血鬼。誰にも汚されない誉れ高き種族なんだから……』
「そんなの僕には分からないよ!! 返してよ……僕の母さんを返してよー!!」
幼いルグには到底理解出来ない言葉を父はルグに言い聞かせた。母を失っても父は誇り高い種族だから復讐をするなと告げていた。
それがどんなに幼いルグを苦しめて壊して行ったか。父は死ぬ間際までその誇り高い種族である事を心の支えにしていた。
義母も同じだった……ルグには父の息子としての誇り、吸血鬼としての誇り、それらを心の砦にして生きるのを言い聞かせていた人だった。だが、アベリアを産んで義母は明らかに変わった。
幼いアベリアを抱いたままルグには目を向けず、静かにアベリアだけに愛情を注ぎ、父もルグには笑顔を見せる事もなく、最後の瞬間もルグではなくアベリアだけを呼び続けていた。その時に悟ったのだ……自分は母の面影を残している、それが父と義母には苦しかったんだと。
「……もう250年か……アベリアが義母さんに抱かれて出て行ったのが249年前、まだ生まれて1歳だったアベリアはここでの生活の記憶は持っていない……。でも僕にはアベリアがいつか帰ってくる……それを信じる事でしか生きる希望を持てない……」
ルグは椅子に深く座り込んで両手で顔を覆う。それは1人で生きてきたこの250年を考えれば深い孤独と共に生きてきた時間とでも言えるだろう。
だが、実母を亡くしたのは5歳の頃、今から375年前の頃である。380歳を迎えているルグにこの375年間は誰の愛情も貰う事も出来なかった少年期を過ごして青年期に入ったと言っていい。
5歳で最愛の母を奪われ、その直後に父からは愛情を貰えた記憶もなく、そして義母と父が再婚してアベリアが産まれてルグへの愛情は確実に無くなった。ただ、こうして異母妹のアベリアを探すのもアベリアなら孤独を癒してくれる、そんな予感がしている反面ルグの孤独を増長させる可能性もある訳で。
再会を望む反面アベリアを拒絶する事も考えておくべきなのはルグの心に微かに血を流させていた。だが、今はそれよりもこの領地で起ころうとしている反乱の芽を摘む事である。
「ケルベロス、いるか?」
『どうした?』
「ローテアスル村は分かるか?」
『あのエルフと人間達が多く占める村だろう? そこがどうした?』
「そこに飛んでくれ。ヘルグとシレッダも行っている。反乱を企てている人間が村人を脅して協力をさせているそうだ。ヘルグが上手くやってくれるとは思うがモンスターの子供を確認されている。子供モンスターならケルベロスのおやつにはなるだろう?」
『ほぅ……食らってもいいというんだな?』
「モンスターだけだけれどね。モンスターの残骸から大地は腐る事もある。地獄の番犬でもあるケルベロスの胃に収まればそんな事も杞憂になる。おやつ代わりに食べておいで」
『分かった。それでは何かあればアルガーフォを使え。いいな?』
「あぁ、分かっている。頼んだよ」
ルグの自室に黒い毛並みと頭が3頭ある犬が現れてルグの足元に腹ばいになって見上げながらルグの命令を聞いていた。そして、ルグが犬に行けと命じると窓が開いて犬は獄炎の炎を纏って空へと飛び出してローテアスル村へと走って行った。
地獄の番犬ケルベロス、ルグの使い魔でルグが初めて召喚した魔獣でもある。付き合いが長いケルベロスを屋敷内では普通の犬みたいに好きに生活させているのも信頼関係がしっかりと築いている証拠である。
しかし、ローテアスル村へと向かったケルベロスとヘルグとシレッダはルグが想定していた日数より早い日数で帰ってきた。ケルベロスは腹を膨らませてルグの執務室でルグの足元に寝そべって昼寝をしているが。
「早かったね」
「それが……」
「ケルベロス様の姿を見た盗賊達がモンスターを恐怖から村人に放ってしまい、村人を守る為の防壁を生成して攻撃を凌いでいる間にケルベロス様の尻尾を掴んだ男が怒りを買ってケルベロス様の胃に……」
「……モンスターだけにしなさい、って言わなかったケルベロス?」
『我の尻尾を掴むだけなら食いはせん。だがその人間、手に鋭利な刃を隠して我の尻尾を切り落とそうとしたのだ。許せん。食らったら仲間達も襲い掛かってきたので全員食らってやったわ』
「結果的に村人は守れました。子供達はケルベロス様に恐れもせずにお礼としてブラッシングまでしていた程です。大人もルグ様の判断に心より感謝を申し上げておりました」
「村人はアルード国に反乱をする気は毛頭無いと判断出来ます。ルグ様の事を慕うべき領主だとも認識しており、今後も安定的に酪農の生産を行って税を納めるでしょう」
「そう……、ご苦労様だったね。ヘルグもシレッダもしっかり休んでくれていい。どっちにしろ来週から1週間は皆に休暇を出す予定だから」
そこまで話をしたルグは椅子から立ち上がり空を見上げる。雨が降り続いていた空は綺麗な夕日が沈み始めている所だった。
ケルベロスはそのルグの横顔を見つめてこう思う。「我が主は本当に闇に愛されている」と――――。
それが真実かは不明だった事も含めてヘルグに真実に裏付けする証拠を集めるのを命じて今日で3日。ヘルグが言っていたリミットである日である。
朝からルグはメイドに用意してもらったシュトレーゼ水を飲んで頭を覚醒させてから執務室へと身体を移動させた。そして、ヘルグが報告の為に姿を見せたのはそれほど時間が経過してない早朝の時間だった。
「ルグ様」
「戻った? それでローテアスル村の内部告発は真実かい?」
「私も調べる為に村に向かいそれとなしに潜伏している者達を調べてみたのですが、村の者達ではありませんね」
「やはり外部的要因が……。どんな者達だった?」
「明らかに村の人間達を脅して反乱を仕込んでいたのは盗賊風の男が数名、それと従えていたのは間違いなくモンスターの子供でした。恐らく魔界から召喚したのだと思われます。村人の1人に話を聞いた所、村の女と子供をモンスターに食われたくなければ男達は老いていようか若かろうが協力するように脅されていると影でお話をしてもらえました。このままでは無抵抗の者達の命が散るのも時間の問題かと」
「……。仮にその盗賊風の男の種族が分からないなら手を打つけれど、言わないって事は人間、なんだね?」
「……ルグ様のお心が嫌になるのは承知の上です。ですが、アルード国王からこの領地を任されている以上手を出さないという訳には参りません。ご命令下されれば私達が始末しますので、もう少しだけ頑張って下さいませ」
ヘルグは深々と頭を下げてルグに懇願する。ヘルグも理解しているのだ、ルグがどうして人間をこんなにも関心を持たない、見下すようになった原因を。
だが、今ルグはこのアルード地方の領主として首都を擁するアルード国の国王陛下から直々に領地を預かる身。ここでもし村を見捨てて村人に害が及んだのが聞こえてしまったら立場上責任を背負わないといけない事もルグは理解している。
少し考えてルグはヘルグとシレッダをローテアスル村に派遣する事を決断する。方法の判断は現地に行く2人に任せるが領主としての決断の1つとしてルグは2人に言い聞かせる。
「最低でも村の子供達を無事に救出するように。村が仮に廃村になったとしても子供達は首都の孤児院で預ける事は出来る。未来を担う子供に罪はない。大人以外の存在は守り抜け。僕の名の下に……行け」
「「はっ」」
ルグの言葉を聞いてヘルグとシレッダは静かに屋敷から姿を消す。吸血鬼の者達は血に宿る魔力を使って空を飛ぶ事は容易い。
ヘルグとシレッダは空を飛んでローテアスル村へと向かったのを察してルグは残った資料に目を通す。そこにヘルグの教えを受けた若い執事がサポートとしてルグの執務を手伝う。
メイド達も主人であるルグのサポートや休憩時の紅茶などの準備に取り掛かる。ルグの中ではローテアスル村の人間達を助ける理由は本来ならば領主じゃなければない。
それだけ人間に対して冷たい印象を持っているし変えるつもりもない。だが、このまま見過ごして領主としての責任に問われて領地を去る事になれば、この屋敷に住んでいるメイドや執事達が路頭に迷う事も考えた。
だが、それだけではない。この屋敷は……父と実母の思い出が残るルグの生家でもある。未練がある訳ではないがそれはあくまでルグの話。異母妹のアベリアも生まれた場所でもある……アベリアの帰るべき場所を失う訳にはルグには出来なかった。
「ルグ様、ブルゾワースルを淹れました。少しお休み下さい」
「ありがとう。ヘルグの選んだ茶葉かい?」
「はい。ヘルグ様からルグ様の気分が優れない時にお出しするように指示を頂戴しております」
「そっか……。本当、皆がいるからまだ頑張れるんだ。ありがとう」
「我々をお救い下さったルグ様の為なら我々はどんな事でも致します。例え人間を敵に回したとしても」
「本当……どうして今を生きる人間達を僕達は滅ぼさないんだろうね……あんな非道な出来事を許す事を英断だとでもいうんだろうか」
ルグはメイドの淹れてくれた紅茶のブルゾワースルを飲みながら口当たりや優しく特に女性が好むこの茶葉をヘルグがチョイスした理由にも何となく察してしまう。ルグがまだ幼い頃からこんなに人間を嫌う事をしていた訳ではない。
そう、ルグが生まれて数年後に事は起きたのである……人間による吸血鬼狩り。その結果無抵抗の吸血鬼達は人間によって多くの同胞達が死に絶えて行った。
ルグの家族で被害に遭ったのは……ルグの母。母はルグを連れてアルード国のパレードに行っていた時に起こった吸血鬼狩りが原因でルグを守る為にその身を盾にしてルグを人間達の凶刃から守り通した。
結果、屋敷に戻ってすぐに父親がルグに言い聞かせたのは……。
『お母さんは誇りを持って虹の橋を渡った。決して人間を恨んではいけないよ』
「どうして!? 人間達は母さんを僕から奪ったんだよ!? 抵抗しない母さんを人間達は集まって切り刻んでいった……どうして人間を殺したらダメなの!? 僕の母さんを殺した事を許せって事なの!?」
『それでも、人間に手を出してはいけない。私達は誇り高き吸血鬼。誰にも汚されない誉れ高き種族なんだから……』
「そんなの僕には分からないよ!! 返してよ……僕の母さんを返してよー!!」
幼いルグには到底理解出来ない言葉を父はルグに言い聞かせた。母を失っても父は誇り高い種族だから復讐をするなと告げていた。
それがどんなに幼いルグを苦しめて壊して行ったか。父は死ぬ間際までその誇り高い種族である事を心の支えにしていた。
義母も同じだった……ルグには父の息子としての誇り、吸血鬼としての誇り、それらを心の砦にして生きるのを言い聞かせていた人だった。だが、アベリアを産んで義母は明らかに変わった。
幼いアベリアを抱いたままルグには目を向けず、静かにアベリアだけに愛情を注ぎ、父もルグには笑顔を見せる事もなく、最後の瞬間もルグではなくアベリアだけを呼び続けていた。その時に悟ったのだ……自分は母の面影を残している、それが父と義母には苦しかったんだと。
「……もう250年か……アベリアが義母さんに抱かれて出て行ったのが249年前、まだ生まれて1歳だったアベリアはここでの生活の記憶は持っていない……。でも僕にはアベリアがいつか帰ってくる……それを信じる事でしか生きる希望を持てない……」
ルグは椅子に深く座り込んで両手で顔を覆う。それは1人で生きてきたこの250年を考えれば深い孤独と共に生きてきた時間とでも言えるだろう。
だが、実母を亡くしたのは5歳の頃、今から375年前の頃である。380歳を迎えているルグにこの375年間は誰の愛情も貰う事も出来なかった少年期を過ごして青年期に入ったと言っていい。
5歳で最愛の母を奪われ、その直後に父からは愛情を貰えた記憶もなく、そして義母と父が再婚してアベリアが産まれてルグへの愛情は確実に無くなった。ただ、こうして異母妹のアベリアを探すのもアベリアなら孤独を癒してくれる、そんな予感がしている反面ルグの孤独を増長させる可能性もある訳で。
再会を望む反面アベリアを拒絶する事も考えておくべきなのはルグの心に微かに血を流させていた。だが、今はそれよりもこの領地で起ころうとしている反乱の芽を摘む事である。
「ケルベロス、いるか?」
『どうした?』
「ローテアスル村は分かるか?」
『あのエルフと人間達が多く占める村だろう? そこがどうした?』
「そこに飛んでくれ。ヘルグとシレッダも行っている。反乱を企てている人間が村人を脅して協力をさせているそうだ。ヘルグが上手くやってくれるとは思うがモンスターの子供を確認されている。子供モンスターならケルベロスのおやつにはなるだろう?」
『ほぅ……食らってもいいというんだな?』
「モンスターだけだけれどね。モンスターの残骸から大地は腐る事もある。地獄の番犬でもあるケルベロスの胃に収まればそんな事も杞憂になる。おやつ代わりに食べておいで」
『分かった。それでは何かあればアルガーフォを使え。いいな?』
「あぁ、分かっている。頼んだよ」
ルグの自室に黒い毛並みと頭が3頭ある犬が現れてルグの足元に腹ばいになって見上げながらルグの命令を聞いていた。そして、ルグが犬に行けと命じると窓が開いて犬は獄炎の炎を纏って空へと飛び出してローテアスル村へと走って行った。
地獄の番犬ケルベロス、ルグの使い魔でルグが初めて召喚した魔獣でもある。付き合いが長いケルベロスを屋敷内では普通の犬みたいに好きに生活させているのも信頼関係がしっかりと築いている証拠である。
しかし、ローテアスル村へと向かったケルベロスとヘルグとシレッダはルグが想定していた日数より早い日数で帰ってきた。ケルベロスは腹を膨らませてルグの執務室でルグの足元に寝そべって昼寝をしているが。
「早かったね」
「それが……」
「ケルベロス様の姿を見た盗賊達がモンスターを恐怖から村人に放ってしまい、村人を守る為の防壁を生成して攻撃を凌いでいる間にケルベロス様の尻尾を掴んだ男が怒りを買ってケルベロス様の胃に……」
「……モンスターだけにしなさい、って言わなかったケルベロス?」
『我の尻尾を掴むだけなら食いはせん。だがその人間、手に鋭利な刃を隠して我の尻尾を切り落とそうとしたのだ。許せん。食らったら仲間達も襲い掛かってきたので全員食らってやったわ』
「結果的に村人は守れました。子供達はケルベロス様に恐れもせずにお礼としてブラッシングまでしていた程です。大人もルグ様の判断に心より感謝を申し上げておりました」
「村人はアルード国に反乱をする気は毛頭無いと判断出来ます。ルグ様の事を慕うべき領主だとも認識しており、今後も安定的に酪農の生産を行って税を納めるでしょう」
「そう……、ご苦労様だったね。ヘルグもシレッダもしっかり休んでくれていい。どっちにしろ来週から1週間は皆に休暇を出す予定だから」
そこまで話をしたルグは椅子から立ち上がり空を見上げる。雨が降り続いていた空は綺麗な夕日が沈み始めている所だった。
ケルベロスはそのルグの横顔を見つめてこう思う。「我が主は本当に闇に愛されている」と――――。
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