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第47話

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「上條君!」
なんとか追いついて、声をかける。
ゆっくりと振り返った上條君は、これと言って特徴のない『The モブ男子』だ。
極上の安心感に、自然と湧いてくる親近感。
同族意識を感じるなぁと、俺はほっこりする。
「昨日、銀子が上條君からノートを借りてくれたみたいで助かったよ。
 前回銀子が借りた時にもお礼が言えて無くて…今更なんだけど、本当にありがとう。」
「ああ、ノートか。いや、全然問題ないよ。
 むしろ、役得だった。
 僕なんかがあの山田さんと話す機会なんて、こんなきっかけでもないと皆無だから、ものすごくラッキーだった。」
ちょっと意味が分からない。
「え、銀子と話すことってラッキーなの?」
俺が腑に落ちないとばかりに聞くと、上條君はくわっと表情を変えて熱弁しだした。
「山根君、君ぐらいだよ!我が校一の美少女と、いともたやすく話ができるのは。
 なんであの山田さんにそんなに普通の態度がとれるのかちょっと信じられない。
 僕なんて感激のあまりまともに口も聞けないのに…。
 普通の男子はみんな緊張して固まるもんなんだよ。それなのに君は動じないどころか彼女と友達になってしまった。本当にすごいよね。
 だから、みんな陰で君のことを羨ましがって『モブの星』って呼んでいるんだよ!
 でも『ダンシングヒーロー』になったからには、もうモブじゃないのか。
 君はとうとうカースト上位の仲間入りをしちゃうんだね…。
 勝手ながら山根君に仲間意識を持っていたから、山根君がモブを卒業しちゃうのは寂しいよ。
 それはそうと、ノートのお蔭で間近に山田さんのご尊顔を拝謁することができて僕は感極まっているよ。
 なんたる恐悦至極!」
うっとりと話す上條君がちょっと怖い。
彼の人格がちょっと崩壊しかけているように見えるのは気のせいだよね?
俺にはすでに『モブの星』という二つ名があったのか…。
これ、確実にディスっているよな?
マジ、最悪だ。よくも俺の知らないところで好き勝手に言ってくれるよな。
そして、上條君まで『ダンシングヒーロー』を持ち出すのは止めて欲しい。
二つ名が上書きされたところで、ちっとも嬉しくない。
あっけにとられる俺を置いてきぼりに上條君の話は続く。
「山田さんって日本人離れした絶世の美少女じゃん。
 僕、間近で見て気づいちゃったんだけどさ。山田さん、目の光彩が金色だった。
 はちみつ色の瞳の中で金の光彩が光の加減でキラキラと輝いて…もう奇跡。
 彼女は地上に舞い降りた天使だ!
 山田さんは全てのパーツが完璧なんだけど、僕は特にあの神秘的な瞳がたまらなく美しいと思うんだ。
 もう、ずっと見ていたい。そして、あの瞳に吸い込まれたい。
 カーっ!尊い!
 だから、山根君!これからも、いつでも休んでくれてかまわないから。
 ノートなんていくらでも差し出すよ!
 むしろ、ご褒美だから!お礼を言うのはこっちだから!」
ものすごい勢いで、上條君が俺の右手を両手で握り一方的にぶんぶんと握手をする。
最終的に意味のわからないハグまでされた。彼の疾風怒濤の勢いに俺は成すすべがない。
変態チックで狂信的だ…。
俺、こんな上條君を知ったからにはもう簡単に学校を休めないな…。銀子に実害が出たら申し訳ないから。
上條君に比べると本山って、めちゃくちゃまともだったんだ…。
「マジで、ありがとう!」
俺に対して、逆に熱烈にお礼を言うと上條君は上機嫌でスキップしながら去って行く。
男子高校生が廊下で一人、ウキウキとスキップをしている…。シュールだ。
小さくなっていく上條君の背を呆然と眺めながら俺は瞳に呼びかけた。
「どういうことだよ。」
俺の不信と怒りを感じたのか瞳は出てこない。
いつも過剰に己の存在をアピールするくせに…。
都合が悪くなったら姿も現さずにだんまりかよ。
腹が立つなー。
するとシオンが、「まぁまぁ、お家に帰ってからお話合いをしようじゃないかー」と、ゆるーい物言いで俺をいなしてくる。
仕方なくモヤモヤする気持ちをかかえたまま、俺は帰路につく。
形容しがたい感情で俺の心は嵐のように荒れていた。
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