マーメイド・コスモス

咲良きま

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第32話

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夢を見た。ぼんやりと、私は偉大な女王になってヤヒコと邂逅を果たす。

夢は断片的だった。

コスモスが繭の中で、目を覚ます。彼女は森田君に嬉しそうに口づけをする。幸せな表情のまま、その姿はかききえた。

ああ!!!

捕食されたのだ。

「二ノ宮、見ているのか。これが、僕らの愛し方だ。」

そう言って、森田君は悲痛に笑った。

「この渇望にはなかなか打ち勝てない。喪失感に苦しむと分かっているのに。

…だけど、あいつは違う。あいつにはこの渇望がない。

心底うらやましいよ。」

(あさひ?)

「ああ。」

(森田くんも子供を産むの?)

「いいや。今のはただの食事。だけど、僕らは愛する者しか食べられない。

姫巫女、聞こえている?

君に会えて、よかった。

君を食べなくてすんでよかった。

僕は、去るよ。」

心の中のどこかが、じんわり切なく、熱くなるのが分かった。これは私の感情ではない。私の中に眠る彼女の想い。

「うん。

伝わった。」

森田君は満足そうに、右手で心臓を押さえた。

ああ、なんて輝く笑顔。

唐突に場面は変わる。

私の意識は空高くふわふわ浮いている。夜が明けるのがみえる。

惨劇や、戦闘などなかったように森は静かに朝を迎える。魔法のように昨夜の爪痕は消されていた。ただ、自然がそこにある。鳥のさえずり、風にそよぐ木々の心地良い音。

「アサヒ。」

つぶやいてみる。けれど、返事はない。

「アサヒ。」

もう一度つぶやく。

彼らはすでに、去った後だった。

かわいい少年の笑顔が脳裏に蘇る。私は必死になって叫んだ。

「アサヒ!」

目覚めた私は涙をこぼしていた。やがてそれは号泣へと変わる。何に対してなのかは分からない。いろいろありすぎた。

一つはっきりしているのは、出会って間もないアサヒへの喪失感だ。執着と呼ぶのだろうか。

その感情が一番強かった。
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