マーメイド・コスモス

咲良きま

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第24話

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学校の校門を出たところで森田君の携帯に電話をかけてみる。コール音が虚しく響くだけで、彼は電話にでなかった。あれから、正気に戻ると私はすぐに教室に戻り森田君の分と私の分のカバンを二つ手にして出てきたのだ。

まさか、森田君まで食べられたりしていないよね。

私は不安で、けれど何をしたらいいのか分からずにどうてんしていた。パニックに陥る。私にはかつて人間離れした力があったと森田君は言った。それが本当なのなら私は今、その力が欲しかった。森田君を守れる力が。

どんどん悪い方へと考えが及ぶ。もし、森田君がすでに食べられていたら?そうしたら、コスモスは新たな怪物を腹へ宿すのだろうか?己の命と肉体とを引き換えにして。

ミキの苦痛に満ちた表情が頭をよぎる。

おぞましかった。恐ろしかった。

私は自転車に飛び乗って、こぎ出す。目的地はなかった。

ただ、こいだ。

こいで、こいで、こいだ!

全てのやっかいごとから逃げ出したかった。

景色はどんどん変わっていく。私はとりつかれたように自転車をこぐ。無我夢中になってひたすらこいでいく。

やがて太陽が傾いて、街頭に明かりがともるころ、私は郊外の畑が広がる場所へ、見たこともないところへと来ていた。

お腹がすいた。どうして、こんな時にもお腹がすくのだろう。くたくたで、しみじみと悲しくなる。近くでカラスが嫌な鳴き声を出す。私はびくっとした。心細くなる。そして、怖かった。けれど、コスモスが待っている家はもっと恐ろしかった。

「八方ふさがりだなぁ。」

とつぶやいてみる。

突然、携帯の着信音がなって心臓が大きくはねる。

私は緩慢な動作で、びくびくしながら着信表示を確認する。

森田君だった!

「はい。

森田君?無事なの?」

「うん。なんとか。二ノ宮、悪いんだけど今いるところをあと30分くらいまっすぐ進んでくれないかな?」

「…え?」

「待ってる。」

いきなり、電話は切れた。

私はわけが分からなかったけれど、言われたとおり、ただひたすらまっすぐ進む。30分ってどれくらい行けばいいんだろうか。

様々な疑問が浮かんだ。

さっきの声は、本当に森田君なのか。どうして、私の居場所を知っているのか。どうやって、あの弾丸のようなスピードで追いかけてきたコスモスから逃れることができたのか。

これは、罠じゃないのか。

だけど、考えたところで答えがでるわけもなく、私にできることといったら指示通りにただ前へと進むことだけ。しばらくして、もっと心細くなるような山道になってきたころで着信音が鳴り響く。急いで自転車を止め携帯をとりだす。

表示には公衆電話と出ている。

どうして、公衆電話からなんだろう。

出るべきなのかどうか逡巡していると、森田君の声がした。

「出ちゃだめだよ。コスモスに居場所を知られてしまうから。

でも、電波を追ってくるからここを知られるのも時間の問題かもしれない。

二ノ宮、とりあえず携帯の電源、切って。」

私は着信音が途切れるのを待って、電源を切る。顔をあげると近距離に森田君がいる。気配を感じなかった。私は、無意識に一歩後ずさる。

「…本当に森田君?」

「そうだよ。」

そう言って笑う森田君の瞳は赤かった。街頭はまばらなので辺りは暗い。赤い瞳はらんらんと輝いてそこだけ、くっきりと浮かび上がってみえる。

「こんなところに来るとしみじみ感じるよね。」

「何を?」

彼は人さし指で空を示す。

「月の明るさ。」

そう言われて、私は空をちらっと見やる。確かに、月が見える。けれど、今はそれよりも森田君が気になってしょうがない。

「そんなにびくつかないでよ。」

森田君は異常に明るい声で言う。

「だって、怖いんだもん。」

私は正直に言う。

「はは。まいったなぁ。」

森田君はほがらかに笑った。

「ごめん。ここまで君を誘導したんだ。僕のことを心配してくれていたでしょ?だから、二ノ宮をここまで導くのは簡単だった。…悪いとは思ったんだけどね。

あ、自転車はここに置いて行こう。」

私は細い道の端に邪魔にならないように自転車をねかせるように止めてかぎをかける。

「かばんはどうする?このままかごに置いて行く?」

「うん。せっかく持ってきてもらったけど、今はいらないから。」

山道なのだろうか、彼の進もうとする方向には街灯もなく、道の先は暗くてよく見えない。先行き不安な今の状況を暗示しているようで、なんとも嫌な感じだ。

「ねぇ。一体、どこに、何しに行くの?」

「あとかたづけに、行くんだよ。」

「あとかたづけ?」

「そう。」

私は不安になって、あいまいにほほ笑む。
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