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3.潮時

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 掘り起こしてしまった、己の中の禁忌。
 オレは恐ろしかった。だからこの気持ちをなくそうとした。
 まあ、そうはいっても同じ家に住み、そこここに兄の気配がある。土台無理な話だと痛感し、せめて考えないようにするためにいっそう勉強に打ちこんだのだけれど……。
 結果はご覧の通り。オレの執着心が強いのか、はたまた距離が近すぎたのか……。年月を経ても慕情は消えてくれず。それどころか積み重なってゆき。
 気がつけばもう、今年で十年分くらいになるのか。

 なんでこんな想いを長く長く抱えることになってしまったのだろう……。兄が優しくて、格好いいのがいけないのだ。なんて責任転嫁か。
 一緒にテレビを見たりゲームをしたり、買い物をしたり……。勉強も教えてくれた。本の貸し借りもした。料理を作ってくれた。夢精で焦るオレに、真面目に性教育をしてくれた。
 出会わなければよかった、とは思いたくない。大切な記憶は、数えきれないほどあるのだ。兄と兄弟になれただけでも、オレは幸運だった。
 ……いつの日かは兄に。後ろめたい想いを抱かずに。真正面から顔を見て話せるようになれていたらいいけど。

 大学受験は第一志望に合格という嬉しい形で一段落し。オレはあと数日で県外へと引っ越す。別離が間近に迫る今が、兄への執着めいたそれを手放す絶好の機会、なのだろう。
 しかし今度こそ。オレはちゃんと諦めるよ、大丈夫……。などと殊勝に物わかりのいい言葉を心に浮かべてはみても。いっこうに行動に移せる気がしなかった。
 なにをすればいいのか。兄にもらった物を全て捨てる? いや、今後も家族として付き合っていくのだから困る。……本音は、思い出にとっておきたいだけ、だけど。あいだをとってあっちに着いたら、どこか目に触れない場所にしまっておこうか。
 あとできるのは。これからは極力兄のことを考えないようにして、自分から連絡をとらずにいる、くらいか……。

 そんなふうになるべく冷静を装いつらつら思考しつつも。
 だから、最後に……、なんて。相反する感情もまた、胸の奥底から芽生えてきてしまうのだった。
 そう、ありていに言ってしまえば。
 
 ――魔が、さしてしまった。

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