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第52話 怒濤の資金責め
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宴から一週間後。テスラはクレルハラートの学校にいた。城郭都市化計画が軌道に乗ってからは、暇を見て各国を回り、見聞を広めると同時に、その町の若者から貴族まで、幅広い層に教鞭を執っていた。要するに講演会。
授業の内容は、これからの貴族と民のあり方。いまいちぱっとしないバルティアの町を、たった数年でトップクラスの都市へと築き上げたテスラの手腕に、誰もが注目している。今回の講演は、学生のみならず貴族や商人、大人から子供まで参加できるようにした。おかげで、広いはずの講堂は立ち見席ができるほどだった。
「民を富ませるのは簡単だ。貴族や富裕層の金を、どんどん民のために使えば良い。税金を安くし、医療費を与え、道をつくり、治安をよくするのだ。実にシンプルだろう」
受講していた市民が、挙手をして質問する。
「しかし、それだと貴族が貧するので、良く思わないのでは?」
「愚かな貴族は、そう思うだろうな。――ちなみに、きみたちは、民よりも貧乏な貴族や富豪を見たことがあるか?」
誰もが沈黙するので、テスラは苦笑気味に「いるわけないな。金を持っているから富豪と呼ばれているし、没落せずにいられるのだからな」と、言った。会場から、ほんのわずかに笑いがこぼれた。
「民が豊かになると、自然と大企業が儲かるような仕組みになっている。税金も不思議と集まるようになるのだよ。だから、シンプルに民を豊かにすれば良いだけなのだ」
ただ、それだけ。学生でもわかるように説明するテスラ。実に単純な話である。だが、どこぞの島国は、国民から税金を絞り上げているせいで、経済は発展しても暮らしはちっとも良くならない。それどころか、少子化が進んで、国自体が徐々に痩せ細っている始末である。
ちなみに、少子化ってかなりヤバいのだ。1億の人口が9000万になったら、実質的に経済が1割消し飛ぶことになる。店の売り上げも1割減る。そうなると、給料だって減らすしかない。税収だって下がる。負のループが始まるのだ。なのに、その島国は国の予算を増やすためと、税金をひたすら上げようとしている。
「バルティアの町は成功を持って、この手法の優位性を証明して見せた。となると、次の課題はいかに民衆を楽しませるかだ」
豊かになれば、それだけ仕事をしなくて済むようになる。そんなパラダイムシフトが起これば、民衆はどうやって暮らしていくのか困惑するのである。悪い方に向かってしまうと、ただただ毎日をぐーたらして時間を潰す毎日になってしまう。それでは、民は幸せにならない。
「これからは遊びが仕事になる。皆の中には、やり遂げたい夢や目標があるだろう。牧場を経営したいとか、出版したいとか、名刀をつくってみたいとか。そういうことを自由にやってもらいたいのだ。これからは遊びを一生懸命やる時代がくる。そして、その遊びを仕事に換えることが、我々の使命なのである――」
――公演後。
「テスラ、実に見事な講演でした」
講義室を出たところで、スピネイルと出会った。どうやら、こっそりと受講していたらしい。
「スピネイル、きていたのか」
「心が削られる思いだ。これからは、民の心を豊かにし、このクレルハラートをより良い町に変えていきたいと思います」
「言うは容易い。実行するのは根気がいるぞ」
「わかっています。だが、あなたの授業は面白かった。もしよかったら、我がクレルハラートの学生を、そちらで学ばせてやりたいのだが、いかがですか? 交換留学を検討してもらえないでしょうか?」
「良いな。我々としても、クレルハラートの研究に興味がある」
魔物に関しての知識量は世界一だ。それに、軍事力も極めて高い。スピネイルからも学ぶことはたくさんありそうだった。
「それはよかった」
と、にっこり笑顔を浮かべるスピネイル。
「ところでテスラ様。私も、城郭都市化計画に投資したいのだが、構わないですね? 10億ルクほどでどうでしょうか? 少ないかな?」
「10億……いや、そ、それは――」
うん。もう金は唸るほどある。使い切れないほど寄付金がある。もういらない。マジいらない。使い道がマジで見つからない。城壁を黄金でつくるとか、それぐらいしか思いつかない。っていうか、そんなブルジョワなことをしたら、各国どころか陛下からも大顰蹙を買うだろう。
「遠慮することはありません。城壁が完成すれば、魔法産業の時代が始まります。そのために協力は惜しみませんよ。それに、以前の迷惑料も含まれている。あなたには世話になりました。リークにもね」
そして、寄付は断ってはいけない。善意を拒むほど、不義理なことはない。ヤバい。かなりヤバい。この前も、コラットル家から寄付金が送られてきたし!
「テスラ様!」
講義室の方から、大勢の生徒たちが押し寄せてくる。
「自分は、バジェッタ学院の校長をしているのですが、ぜひとも寄付をさせてください!」「教会の者です、うちも寄付をさせてください!」「ギルドを運営しているのですが、テスラ様の教えに深く感銘を受けました! 寄付を!」「クロリオス商会です! 魔法産業解禁、期待していますよ! 一刻も早く城壁が完成するよう寄付を!」
「は、はは」
――もう、やめてくれ!
授業の内容は、これからの貴族と民のあり方。いまいちぱっとしないバルティアの町を、たった数年でトップクラスの都市へと築き上げたテスラの手腕に、誰もが注目している。今回の講演は、学生のみならず貴族や商人、大人から子供まで参加できるようにした。おかげで、広いはずの講堂は立ち見席ができるほどだった。
「民を富ませるのは簡単だ。貴族や富裕層の金を、どんどん民のために使えば良い。税金を安くし、医療費を与え、道をつくり、治安をよくするのだ。実にシンプルだろう」
受講していた市民が、挙手をして質問する。
「しかし、それだと貴族が貧するので、良く思わないのでは?」
「愚かな貴族は、そう思うだろうな。――ちなみに、きみたちは、民よりも貧乏な貴族や富豪を見たことがあるか?」
誰もが沈黙するので、テスラは苦笑気味に「いるわけないな。金を持っているから富豪と呼ばれているし、没落せずにいられるのだからな」と、言った。会場から、ほんのわずかに笑いがこぼれた。
「民が豊かになると、自然と大企業が儲かるような仕組みになっている。税金も不思議と集まるようになるのだよ。だから、シンプルに民を豊かにすれば良いだけなのだ」
ただ、それだけ。学生でもわかるように説明するテスラ。実に単純な話である。だが、どこぞの島国は、国民から税金を絞り上げているせいで、経済は発展しても暮らしはちっとも良くならない。それどころか、少子化が進んで、国自体が徐々に痩せ細っている始末である。
ちなみに、少子化ってかなりヤバいのだ。1億の人口が9000万になったら、実質的に経済が1割消し飛ぶことになる。店の売り上げも1割減る。そうなると、給料だって減らすしかない。税収だって下がる。負のループが始まるのだ。なのに、その島国は国の予算を増やすためと、税金をひたすら上げようとしている。
「バルティアの町は成功を持って、この手法の優位性を証明して見せた。となると、次の課題はいかに民衆を楽しませるかだ」
豊かになれば、それだけ仕事をしなくて済むようになる。そんなパラダイムシフトが起これば、民衆はどうやって暮らしていくのか困惑するのである。悪い方に向かってしまうと、ただただ毎日をぐーたらして時間を潰す毎日になってしまう。それでは、民は幸せにならない。
「これからは遊びが仕事になる。皆の中には、やり遂げたい夢や目標があるだろう。牧場を経営したいとか、出版したいとか、名刀をつくってみたいとか。そういうことを自由にやってもらいたいのだ。これからは遊びを一生懸命やる時代がくる。そして、その遊びを仕事に換えることが、我々の使命なのである――」
――公演後。
「テスラ、実に見事な講演でした」
講義室を出たところで、スピネイルと出会った。どうやら、こっそりと受講していたらしい。
「スピネイル、きていたのか」
「心が削られる思いだ。これからは、民の心を豊かにし、このクレルハラートをより良い町に変えていきたいと思います」
「言うは容易い。実行するのは根気がいるぞ」
「わかっています。だが、あなたの授業は面白かった。もしよかったら、我がクレルハラートの学生を、そちらで学ばせてやりたいのだが、いかがですか? 交換留学を検討してもらえないでしょうか?」
「良いな。我々としても、クレルハラートの研究に興味がある」
魔物に関しての知識量は世界一だ。それに、軍事力も極めて高い。スピネイルからも学ぶことはたくさんありそうだった。
「それはよかった」
と、にっこり笑顔を浮かべるスピネイル。
「ところでテスラ様。私も、城郭都市化計画に投資したいのだが、構わないですね? 10億ルクほどでどうでしょうか? 少ないかな?」
「10億……いや、そ、それは――」
うん。もう金は唸るほどある。使い切れないほど寄付金がある。もういらない。マジいらない。使い道がマジで見つからない。城壁を黄金でつくるとか、それぐらいしか思いつかない。っていうか、そんなブルジョワなことをしたら、各国どころか陛下からも大顰蹙を買うだろう。
「遠慮することはありません。城壁が完成すれば、魔法産業の時代が始まります。そのために協力は惜しみませんよ。それに、以前の迷惑料も含まれている。あなたには世話になりました。リークにもね」
そして、寄付は断ってはいけない。善意を拒むほど、不義理なことはない。ヤバい。かなりヤバい。この前も、コラットル家から寄付金が送られてきたし!
「テスラ様!」
講義室の方から、大勢の生徒たちが押し寄せてくる。
「自分は、バジェッタ学院の校長をしているのですが、ぜひとも寄付をさせてください!」「教会の者です、うちも寄付をさせてください!」「ギルドを運営しているのですが、テスラ様の教えに深く感銘を受けました! 寄付を!」「クロリオス商会です! 魔法産業解禁、期待していますよ! 一刻も早く城壁が完成するよう寄付を!」
「は、はは」
――もう、やめてくれ!
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