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第34話 俺ってば 縁の下の 力持ち

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 大勢の前で演説とか、あんまし得意じゃないんだよな。時期領主なんだから、そういうのもできるようにならないといけないんだけどさ。まあ、テスラのためにちょっとがんばってみるか。

「みんな、集まってくれ」

 翌日の夕方。作業が終わり、片付けも終了。まばらに人も帰っていこうとしていくタイミングで、俺は切り出された巨大なダルコニア石の上に立って、叫んだ。

「なんだなんだ」「どうしたんだ?」「リークさん、また宴ですか?」

 ぞろぞろと集まってきてくれる人々。彼らが静かになるのを待ってから、俺は語り始める。

「みんなには、明日から一週間の間、アルコールを自粛してもらいたい」

「ちょ、なんでですか!」「仕事のあとのいっぱいが楽しみだったのに!」「もしかして、最近飲み過ぎたせいで、町の酒がなくなっちまったんですかい!」

 あほか。そんなんで酒はなくならねえよ。

「明日からテスラ様が町を留守にする。テスラ様は、これまでその手腕というか腕力で、外敵から町を守ってくださっていた。テスラ様がいたからこそ、魔物も賊も寄りつかなかった。あの御方の存在は、まるで獅子。存在するだけで、ありとあらゆる外敵を寄せ付けない。近づけば死。まさに蚊取り線香である!」

 ああ、やっぱ大勢での前の演説って上手く話せねえ! なんだよ蚊取り線香って! っていうか、これをテスラが聞いたら、あとでげんこつ食らうんじゃねえのか?

 ――っていうか、テスラいるじゃねえか!

 気がつかなかったが、ふらりとやってきて、大衆に混ざって俺の演説を聴いてやがる。いるんならおまえが壇上に上がってくれ! あんた、そういうの得意でしょう!

 うっわ、すっげえいぶかしげに俺のことを見てる。げんこつくらうの? あとでお仕置きされるの? まあいいや。

「テスラ様に心配をかけないため、留守の間だけでも気を引き締めたいと思う。絶対に酒を飲むなと言うわけではない。ただ、みんなの意思でほんの少しだけ、できる範囲でいい。いつもより酒を控え、治安に目を光らせて欲しいんだ」

 強制するよりも、自らの意思で自粛した方がいいパターンもある。それは、民の意識が高い場合だ。要はやらされているか、自発的にやっているかによって、不満の多寡が違う。バルティアの民は、凄まじく意識が高いゆえに、こうやって説明するだけでも、きっと変わる。

「おお! テスラ様のためにならやるぜ」「リークに頼まれちゃ、しょうがねえよ」「酒、減らそうかな」「バッカ、禁酒しろ、禁酒」「この前の宴会で一年分は飲んだろ」

 ほら、反応は上々。さすがだね。

「――蚊取り線香などと、ずいぶんな扱いだな」

 大衆の中から、ほのかな笑みを浮かべてテスラが歩み出てくる。

「おお、テスラ様だ!」「遠征されるのですか?」「ご視察ですか? 旅行ですか?」

 壇上に上がってくるテスラ。

「外交だ。クランバルジュ領が、300周年を迎えるということで、パーティをやるそうだ。スピネイル卿に誘われたので、楽しんでこようと思う」

「おお! それはめでたい!」「しかし、スピネイルは、あまりいい噂を聞かないぞ?」「そうなのか?」「だって、魔侯爵とまで言われているぐらいだし」

 仲の悪い領主ということで、民の中から若干の不満と不安が漂い始める

「スピネイル卿は立派な御方である。滅多なことを言うな。今後、シルバンティアが栄えれば、諸侯との繋がりもより強固なものとなっていくだろう。すまんが、留守を頼むぞ。なあに、ここにいるリークは私と同じぐらい強い。何かあったら、真っ先にこいつが戦ってくれるからな」

「おお、リークの奴、そんなに強いのか?」「そりゃそうだろ。テスラ様が認めた男だぞ」「お任せくださいテスラ様!」「不在の間は、我々が町を守って見せます!」

「うむ。ならば、よし! 皆の意気込み、しかと受け取ったぞ。酒を控えろと誰かが言ったが、私はそうは思わん! 我らシルバンティアの民は優秀である。ようし、リーク。屋敷から酒を運べ! 今日は朝まで飲み明かせ!」

 わー。この人上手いなー。これだけしてあげたら、なにがなんでも領主様のためにがんばろうってみんな思うよ。うん。酒を控えなくてもいいとか言っても、明日からみんな控えちゃうよなー。

 俺のいいところを持ってかれちゃったような気がするけど、むしろ好都合。俺としても町の人たちの意識が向上してくれたら、それでいいわけだしね。それに、テスラやククルは、俺のこういう縁の下の力持ち的な部分もしっかりと見てくれているから。

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