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第65話 ヒロインたちの後日談・躍進ぶりがヤバい

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 ラングリード兵舎。女性用サウナ。

 床にタオルを敷き、全裸であぐらをかいているフランシェがいた。

 両手は膝の上へと置き、背筋を伸ばして瞳を閉じている。即ち瞑想状態。低温でじっくり。身体を温めている。

「フランシェ……あなたまでサウナを極める必要があるのですか?」

 娘のサウナに付き合う、ラングリードの女王シフォンが、訝しげに尋ねた。彼女もまた、グラマラスなボディに汗を滲ませていた。

 ここ昨今、フランシェは連日のようにサウナに興じていた。元々サウナを楽しむ方ではあったが、その頻度は人並み。

 そもそもサウナというのはしっかり入れば一時間以上かかる。騎士団の総帥である彼女にとって時間は有限。楽しむ機会は限られていた。

 しかし、それではダメだと悟った。

 ――人は、仕事よりもサウナを優先すべきだ。

 仕事の合間にサウナに入るのではない。サウナの合間に仕事をするのである。それぐらいのサウナ愛がなければ、ベイルのようになれない。

「はい、老若男女、すべての人間がサウナに興じる必要があります。これは急務です」

「なにゆえ? 我々の役目は、ベイルがととのうまでの時間稼ぎ。サウナの外側にいるべき人間のハズでしょう?」

 フランシェは目を閉じたまま語る。

「……これからは人間と向き合わなければなりません」

「人間と向き合う……?」

 もはや魔物は敵ではない。次の課題は人間だ。世界が平和になると、今度は国同士の諍いに発展する。

「これから、サウナはもっと普及します。そうなると、世界中の人間がサウナーをめざし、隠れた才能が見つかっていくでしょう」

 ――それ即ち、戦力の上昇。

 世界中の兵の質が一気に膨れ上がる。膨大する戦力の行き着く先は戦争である。

 そうならないためにもラングリードはサウナ大国のお手本とならなければならない。フランシェも、騎士団もサウナの民としての力を示さなければならないのだ。

「なるほど……たしかに」

「ええ。団員の中には、飛躍的にサウナ力を上昇させている人たちも増えています。このままでは、追い抜かれます。ゆえに、この私が自らサウナの魅力を語れるようになる必要があるのです」

「立派です、フランシェ。どうやら、あなたに騎士団総帥を任せたのは、間違いではなかったようです」

 得心するシフォン。いつまでも騎士でいてはならない。ラングリードを守るためには騎士ではなく、サウナーにならなければならないのだ。

「しかし、フランシェ」

「なんですか?」

「大丈夫なのですか? 熱いの、苦手では?」

「……こ、このぐらい……平気です」

 サウナ開始3分。フランシェの前身からは滝のような汗が流れ落ち、床のタオルを完全に浸食していた。

 彼女の属性は氷。寒い環境に慣れた身体は、熱い環境は苦手。脱水症状になりそうなほどの汗。

「無理はいけまえん。サウナは気持ちよくなければいけないと、ベイルも言っているでしょう?」

「否……これは、気持ちよくなるための努力なので――ぁ……」

「あ、フランシェッ!」

 がんばりやの娘を助けるため、女王はタオルをはだけさせながら、サウナを飛び出して人を呼ぶのであった。

 ☆

 ラングリード郊外。
 この辺りは、工場地帯となっていて、ありとあらゆる会社の工場が乱立している地域である。

 装備品や食器、製鉄、食品加工などが多く行われている。こういった産業は鉄を打つ音や、匂いなどが酷いこともあるので、工場地帯として区画を分けた方が、国民の生活の質を上げることができるのだ。

 で、俺はというと、そんな工場地帯の一角にある新進気鋭の会社『メリア新薬』の社長室へときていた。窓から、会社所有の工場を眺め、感心したかのようにつぶやく。

「凄いことになってきたなぁ……」

 メリア新薬。名前を聞いてわかるとおり、メリアが創設した会社だ。此度の戦いで、サウナの重要性を、より一層国民は知ることになった。

 ともすれば、それにともなうグッズが注目を浴びることになったのだが、その中でとりわけ人気だったのが、オリポだ。

 メリアが開発したというオリポは、ブランドとなって国民から激しく求められた。

 ならばと、大勢の人に安く飲んでもらうために、騎士団からの出資を受けてメリア新薬という会社を創設したのである。引っ込み思案な彼女だが、人々のためになるのならと社長に就任したのである。

 うん、予想以上の大ヒット。

 通常商品『メリアのオリポ』に加えて、健康志向の『ダイエット・オリポ』や『ノンカフェイン・オリポ』なども続々開発。

 最近では、メリアのオリポを使った、カクテルやモクテル(ノンアルコールカクテル)なども次々に開発。サウナのお供というコトも忘れて、ピザやジャンクフードと一緒に、日常的に飲まれて国民的な飲料となってしまったのである。

「むむむむむ~」

 そんな社長室のデスクで、ビーカーとにらめっこしているメリア。天秤に粉薬を乗せたり、試験管に液体を数滴垂らしたりと、科学者みたいに仕事している。

 調合したそれらをフラスコに入れると、ようやく一段落したみたいた。「ふー」と、緩んだ様を垣間見せる。

「ごめんなさい、お待たせしました」

 ようやく一段落付いたようだ。メリアは白衣を脱ぐと、珈琲を淹れてくれた。

「ラングリード1の社長様が相手なんだ。こっちが待つのは当然だよ」

「あはは、そんなことを言わないでください。社長なんてガラじゃないですよ」

 世界が平和になってからというもの、メリアは自信を手に入れたようだった。いまでは国民から、いてもらわなくてはならない存在として崇められている。

「ビジネスの方は順調なようだな」

「今日は、どうしました?」

「ああ、アスティナから連絡があってな。オリポの輸入をしたいそうだ」

「じゃあ、輸入とは言わず、イエンサードに工場を造っちゃいましょうか。その方が、現地の人たちのお仕事も増えますし」

 うん、凄く経済のことも考えるようになってきている。きっと、魔王軍との戦いで、彼女も成長したのだろう。

「いまのおまえを見たら、きっとシノンさんも喜ぶだろうな」

「お母さんが? えへへ、そうかなぁ」

 後頭部を掻きながら、照れを見せるメリア。

「お母さん、どうしてるんだろ」

「手紙とかないのか?」

「手紙はあるんだけどね。最近会っていないから」

 そういや、俺の親父とお袋はどうしてるのかな。時折、手紙が送られてくるけど、居所は掴めない。暇なら魔王討伐に協力しろやとも思っていたが、まあ完全に代替わりしているし、国や王家とも関わる気がないようだ。

 けど、近いうちに会うことになるだろう。

 隠居したとはいえ、親父も生粋のサウナーだ。聖地たるホーリーヘッド温泉が登場したとなれば、黙ってはいられまい。

 俺たちが世間話をしていると、ふと廊下の方が騒がしくなった。

「社長、大変です!」

 ドアを破壊せんばかりに勢いよく開いて、部下の女性が入室してくる。彼女は、表情を青ざめさせてこう言った。

「ま、魔王軍の残党が攻めてきました!」
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