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第41話 借金のカタは勇者様
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――数日前。
俺は玉座の間へと呼び出された。
そこにいたのは、この国の最高権力者であるシフォン・ラングリード女王陛下だった。勇者である俺も、彼女には敬意をはらっている。
親父の代から世話になっているし、俺自身も女王陛下のおかげで、様々な恩恵を受けていた。俺は恭しく跪いて礼儀を尽くしていた。
『勇者ベイル・アーキテクスタ。おもてをあげなさい』
厳しい目つきの女王陛下だ。ざっくりと胸元をあけた法衣を纏っており、色気たっぷりなのだが、自信のある言葉と振る舞いからは凜々しさを窺わせる。
『はっ』と、返事をして、ゆっくりと顔を上げる。
『フランシェから聞きました。ラングリードのために、資金を都合して欲しいと』
『……いま、ラングリードは経済戦争を仕掛けられております。相手は、あの天計のウルフィ。このままでは、いずれ彼女に支配されてしまうでしょう』
『彼女が魔王と繋がっている証拠はあるのですか? 袂を分かって、我々に助けを求めてきた難民なのでしょう?』
『俺のととのいを妨害されております。これは国防に繋がる大罪。連中が魔王に与しているのは明白かと』
『証拠はあるのですか? ダークエルフは、そんな話など知らぬ存ぜぬとのこと。馴染みのサウナが消えていくことを憂う、あなたの言いがかりではないのですか?』
『この勇者ベイルよりも、ダークエルフを信じているのですか?』
『勇者の言うことは、なにもかもが真実だと?』
さすがは女王陛下。聡明にして平等。様々な民族の集まる観光都市ゆえに、色眼鏡で人を見ない。融通が利かないのは悲しいが、むしろ信頼できる。
『女王陛下が万民を平等に愛しているお気持ちはわかります。ならば、勇者特権を使わせていただきたい』
『……願いは?』
『ラングリードを守るため、この勇者ベイルを信じ、お金を貸していただきたい』
『勇者特権……それほど切迫していると?』
『逸脱した要求なのは承知しております。ですが、民を未来を見据えた御判断を』
思案するシフォン女王陛下。
彼女は、ゆっくりと頷いた。
『……いいでしょう。あなたのお父上、勇者ヘルキスには御世話になりました。貴方自身にも、幾度となくこの国を救っていただいています。しかし、私とて、この国を統治する立場。用意できるお金にも限度があります。いくつか条件もつけさせていただきましょう』
『なんなりと』
『――あなたは『貸して欲しい』と言いましたね? ならば、いずれ返してもらうことになりますがよろしいですか?』
『もちろんです』
『ならば、無利子無担保で30億ゴールド用意しましょう』
『承知』
『そして、返せなかった場合……我が娘フランシェと結婚してもらいます』
『はっ! ……はぁ?』
ちょっと待て、いまこのおばさんなんて言った?
『借金持ちの勇者など、世間的に許されないでしょう。あなたのお父上ヘルキスにも顔向けできません。ゆえに、フランシェと結婚して、我が息子となっていただきます。息子の借金は親の借金。快く帳消しといたしましょう。――フランシェ』
『はい』
女王陛下が呼びかけると、玉座の裏からスゥとフランシェが登場。いつからそこにいたんだよ。もしかして仕組まれていたのか?
フランシェは、やれやれといった感じで言う。
『不本意ですが、これもお母様のご命令。世界の平和のために、このフランシェ・ラングリード。勇者ベイルの妻となって差し上げましょう』
『おまえ……これが狙いか?』
『狙い? これは民のための行動ではないのですか? ねぇ、あなた』
『あなた……じゃねえよ! まだ結婚してねえよ! 金を借りにきただけだよ!』
『はぁ……。勇者特権とはいえ、今回のお願いはあまりにも逸脱した要求。少しは、母上の胸中を察して、飲んであげてもよろしいのではないですか?』
『ぐ……』
たしかに、勇者特権は凄まじい効力を発揮する。とはいえ、今回のお願いはあまりに逸脱した規模。ともすれば、これは仕方がないのか?
『わ……わかりました』
返済さえすれば、結婚などしなくていい。この経済戦争は、きっと勝てる。いや、絶対に勝てる。
『この勇者ベイル。ラングリードのために必ずやこの経済戦争に勝利してみせます』
『ということです、お母様。我らがラングリード騎士団の活躍にご期待くださいませ』
そう言って、フランシェは俺の腕を絡めるように組んで、ピトリと身体を寄せる。
『おい! まだ夫婦になってねぇからな!』
☆
そんなわけで、俺はこの資金を使って、町中の温泉施設に協力をお願いした。生活費を補填する代わりに、営業内容に関してすべて騎士団に一任してもらえるように。
――だが、正直なところ苦しい。
城の観光課のオフィスで、資料を眺めている俺。
現状、ウルフィのお客を奪うことには成功している。だが、無料化の損失を飲食だけで補うのは難しく、赤字が続いている。
このままでは、ウルフィも俺も共倒れになる。
頭を悩ませていると、突如としてアスティナがやってくる。
「大変よ! ベイル!」
オフィスに響き渡るかのように声を荒げる彼女。
「どうした?」
「ウルフィが……仕掛けてきたわ」
俺は玉座の間へと呼び出された。
そこにいたのは、この国の最高権力者であるシフォン・ラングリード女王陛下だった。勇者である俺も、彼女には敬意をはらっている。
親父の代から世話になっているし、俺自身も女王陛下のおかげで、様々な恩恵を受けていた。俺は恭しく跪いて礼儀を尽くしていた。
『勇者ベイル・アーキテクスタ。おもてをあげなさい』
厳しい目つきの女王陛下だ。ざっくりと胸元をあけた法衣を纏っており、色気たっぷりなのだが、自信のある言葉と振る舞いからは凜々しさを窺わせる。
『はっ』と、返事をして、ゆっくりと顔を上げる。
『フランシェから聞きました。ラングリードのために、資金を都合して欲しいと』
『……いま、ラングリードは経済戦争を仕掛けられております。相手は、あの天計のウルフィ。このままでは、いずれ彼女に支配されてしまうでしょう』
『彼女が魔王と繋がっている証拠はあるのですか? 袂を分かって、我々に助けを求めてきた難民なのでしょう?』
『俺のととのいを妨害されております。これは国防に繋がる大罪。連中が魔王に与しているのは明白かと』
『証拠はあるのですか? ダークエルフは、そんな話など知らぬ存ぜぬとのこと。馴染みのサウナが消えていくことを憂う、あなたの言いがかりではないのですか?』
『この勇者ベイルよりも、ダークエルフを信じているのですか?』
『勇者の言うことは、なにもかもが真実だと?』
さすがは女王陛下。聡明にして平等。様々な民族の集まる観光都市ゆえに、色眼鏡で人を見ない。融通が利かないのは悲しいが、むしろ信頼できる。
『女王陛下が万民を平等に愛しているお気持ちはわかります。ならば、勇者特権を使わせていただきたい』
『……願いは?』
『ラングリードを守るため、この勇者ベイルを信じ、お金を貸していただきたい』
『勇者特権……それほど切迫していると?』
『逸脱した要求なのは承知しております。ですが、民を未来を見据えた御判断を』
思案するシフォン女王陛下。
彼女は、ゆっくりと頷いた。
『……いいでしょう。あなたのお父上、勇者ヘルキスには御世話になりました。貴方自身にも、幾度となくこの国を救っていただいています。しかし、私とて、この国を統治する立場。用意できるお金にも限度があります。いくつか条件もつけさせていただきましょう』
『なんなりと』
『――あなたは『貸して欲しい』と言いましたね? ならば、いずれ返してもらうことになりますがよろしいですか?』
『もちろんです』
『ならば、無利子無担保で30億ゴールド用意しましょう』
『承知』
『そして、返せなかった場合……我が娘フランシェと結婚してもらいます』
『はっ! ……はぁ?』
ちょっと待て、いまこのおばさんなんて言った?
『借金持ちの勇者など、世間的に許されないでしょう。あなたのお父上ヘルキスにも顔向けできません。ゆえに、フランシェと結婚して、我が息子となっていただきます。息子の借金は親の借金。快く帳消しといたしましょう。――フランシェ』
『はい』
女王陛下が呼びかけると、玉座の裏からスゥとフランシェが登場。いつからそこにいたんだよ。もしかして仕組まれていたのか?
フランシェは、やれやれといった感じで言う。
『不本意ですが、これもお母様のご命令。世界の平和のために、このフランシェ・ラングリード。勇者ベイルの妻となって差し上げましょう』
『おまえ……これが狙いか?』
『狙い? これは民のための行動ではないのですか? ねぇ、あなた』
『あなた……じゃねえよ! まだ結婚してねえよ! 金を借りにきただけだよ!』
『はぁ……。勇者特権とはいえ、今回のお願いはあまりにも逸脱した要求。少しは、母上の胸中を察して、飲んであげてもよろしいのではないですか?』
『ぐ……』
たしかに、勇者特権は凄まじい効力を発揮する。とはいえ、今回のお願いはあまりに逸脱した規模。ともすれば、これは仕方がないのか?
『わ……わかりました』
返済さえすれば、結婚などしなくていい。この経済戦争は、きっと勝てる。いや、絶対に勝てる。
『この勇者ベイル。ラングリードのために必ずやこの経済戦争に勝利してみせます』
『ということです、お母様。我らがラングリード騎士団の活躍にご期待くださいませ』
そう言って、フランシェは俺の腕を絡めるように組んで、ピトリと身体を寄せる。
『おい! まだ夫婦になってねぇからな!』
☆
そんなわけで、俺はこの資金を使って、町中の温泉施設に協力をお願いした。生活費を補填する代わりに、営業内容に関してすべて騎士団に一任してもらえるように。
――だが、正直なところ苦しい。
城の観光課のオフィスで、資料を眺めている俺。
現状、ウルフィのお客を奪うことには成功している。だが、無料化の損失を飲食だけで補うのは難しく、赤字が続いている。
このままでは、ウルフィも俺も共倒れになる。
頭を悩ませていると、突如としてアスティナがやってくる。
「大変よ! ベイル!」
オフィスに響き渡るかのように声を荒げる彼女。
「どうした?」
「ウルフィが……仕掛けてきたわ」
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