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第91話 ある意味ベストなタイミング-別視点-
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「あ、一応ノックもしたのですが、返事がないので勝手に入ってしまいました。何か不都合がございましたら申し訳ありません」
そう言ってリア様は頭を下げる。が、一方で声を掛けられている張本人であるアルフォンス殿下は、リア様と目を合わせてから微動だにすることもなく固まっている。
それもそのはず、今までの殿下の言動は、とてもリア様に見せられるようなものではありませんでしたからね……。
そうしてやや不自然な間を開けた後に、アルフォンス殿下は恐る恐るといった様子で声を出した。
「…………り、リア」
「はい、何でしょうか」
「……一体いつからそこにいたんだ?」
どうにか絞り出すように問いかけたアルフォンス殿下に対し、リア様は少しだけ眉を寄せ考える素振りを見せながら口を開いた。
「ええっと、ほんの少し前……確かアルフォンス様が『しかし、私はリアが』と仰ってからですね」
「っっ!! ああ、そうか……」
リア様のその答えを聞いた瞬間、アルフォンス殿下は分かりやすく安堵したご様子で、胸を撫で下ろされた。
そんなに露骨だと、今度はその行動で不審がられる気もするのですが……いえ、なんでもありません。
先程のあれを聞かれていなくて、本当によかったですね……本当に。
「しかし、よくここが分かったな」
安心から緊張がゆるんだご様子のアルフォンス殿下は、今度は何の気もなさそうにリア様へそう話を振られた。
「ええ、実はたまたま廊下で行き合った、いつも一緒にいらっしゃるお三方にここを教えて頂いたんです」
お三方って……あの侍女三人組、わざわざリア様に場所を教えたのですね。
何をしているのか……。
そう思っていたところ、リア様が「そう言えば」と口にしつつ顔に手を当ててこう続けた。
「少し含みのある様子で『私なら大丈夫だろう』と仰っていたのですが……やはり何か不都合がございましたか?」
そう言いながら僅かに不安そうな表情をするリア様。それをみたアルフォンス殿下は、慌てたように首を振って否定する。
「いや、全然不都合などないっっ!! だから君がそのようなことを気にする必要はないぞ!?」
「そうですか、ならよかったです」
その瞬間、リア様はさながら花が綻ぶような笑顔を浮かべた。
それはもう誰もが見とれてしまうような、可憐さと不思議な力を持った笑顔であり……あ、これはマズい。
そう気付いて、私がアルフォンス殿下の方を見やると案の定、殿下は顔を抑えてプルプルと小さく震えていた。
いや、ちょっと殿下……!!
「アルフォンス様どうかされましたか!?」
ほら流石に、リア様もおかしいと気付いてしまいましたよ!?
せっかく誤魔化せたのに、一体何をなさってるんですか……。
「いや、ただ顔を抑えたい気分なんだ……だから気にしないでくれ」
はぁ!? 一体どんな気分ですかそれは、そんな言い訳通るわけ……。
「あら、そうだったのですね、全然分からなくて驚いてしまいましたよー」
と、通った!? え、リア様はそれで納得するのですか……まぁ、するようですね。
なんというか、リア様においても想像以上になかなかのお方ようで。
そんなことを思いつつ私がお二人を見ていると、笑っていたリア様が「あっ」と何かを思い出した様子で、再び口を開いた。
「ところで先程の話題ですが、私の名前を出されていたことは一体どうかしたのですか?」
そう問いかけられた瞬間、殿下は顔を抑えたまま、露骨にギクリと身体を震わせた。
ああ、確かにリア様としては、どうしても気になる部分ではあるでしょうね……。
「いや、別になんでもない……たまたま話題に出ただけだ、だから気にしないでくれ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、そうだ……」
……本当のことを言うわけにも、いかないことは分かっておりますが、長々と愚痴に付き合わされた私の身としてはどうしても『嘘ですよね?』とツッコミを入れたくなりますね。
あと、ところで殿下はいつまで顔を抑えたままなのですか? どうして、そのまま会話を続けているのでしょうか。
「あー、それよりもリア……もう用件というのは済んだのか?」
そう口にしつつ、ようやく顔を抑えていた手を放してリア様の方を見るアルフォンス殿下。
あ、ようやく顔から手を離されましたね。
しかし、この問いかけは……。
本心では先程リア様とカイアス様のお二人の話した内容。ひいてはお二人の詳細な関係性が気になっているものの、そのようなことをハッキリ聞くわけにはいかないので、このような聞き方になってしまったというところでしょうか。
その証拠に、アルフォンス殿下はそう口にしてから妙にソワソワされていらっしゃいますし。
まったく面倒くさ……いえ、難儀なものです。
そんなアルフォンス殿下に対してリア様は「はい、どうにか」と頷いたものの、そこから神妙な表情を浮かべて更にこう続けた。
「しかしそれに関連して、先程はあのような形で席を立ってしまい大変申し訳ありません」
そうしてそう言い終えると、リア様は深々と頭を下げた。
ああ、なるほどアルフォンス殿下も散々失礼だと仰っておりましたが、リア様の方もそれを感じていたみたいですね……。
「いや、あれに関して君は悪くないぞ!? だから気にしないでくれ」
一方でリア様の謝罪を予想していなかったであろう、アルフォンス殿下はかなり慌てたご様子だ。
しかし何と言いますか……わざわざ『君は』と仰る辺り、カイアス様のことは非難したいという気持ちが滲んでおりますね。
「いえ、すぐに彼を注意出来なかった私の責任もありますので……申し訳ありません」
「いや、本当に気にしないでくれ。別になんとも思ってないし、この件で私が何か責めるようなことをするつもりはない」
頭をあげてもいまだ不安げな表情で「本当ですか?」と聞き返すリア様にアルフォンス殿下は穏やかに頷く。
一見とってもいい場面に見えますが……あの、今『なんとも思ってない』と仰っておりますが、先程まで物凄く愚痴っていらっしゃいましたよね?
あれ、もしかして私は長い間幻覚でも見ていたのでしょうか……。
「ありがとうございます、アルフォンス様は本当にお優しいですね」
「別に、そんなことはない……」
そんなやり取りの末リア様に褒められて、謙遜しつつもまんざらでもないご様子の殿下。
本当にさっきまでの重苦しい雰囲気が嘘のようですね。
その点に関してだけは本当によかったと思います。はい、その点に関してだけは……。
しかし、ここで残った問題は『ややすればアルフォンス殿下がまた、リア様とカイアス様の関係性でイジイジし出しそうなこと』と、先程まで散々殿下が非難していた『カイアス様の無礼な行動を、リア様を擁護する流れで許してしまった部分』なのですが……。
この二つに関しては、不本意ながらまた後で話をしなければならない気がするのですよね。だってほぼ間違いなく、アルフォンス殿下ご自身が掘り返しそうですから……。
そんなことを考えながら、私はリア様へ嬉しそうな顔を向けるアルフォンス殿下のお姿を見て、静かにため息をついたのであった。
そう言ってリア様は頭を下げる。が、一方で声を掛けられている張本人であるアルフォンス殿下は、リア様と目を合わせてから微動だにすることもなく固まっている。
それもそのはず、今までの殿下の言動は、とてもリア様に見せられるようなものではありませんでしたからね……。
そうしてやや不自然な間を開けた後に、アルフォンス殿下は恐る恐るといった様子で声を出した。
「…………り、リア」
「はい、何でしょうか」
「……一体いつからそこにいたんだ?」
どうにか絞り出すように問いかけたアルフォンス殿下に対し、リア様は少しだけ眉を寄せ考える素振りを見せながら口を開いた。
「ええっと、ほんの少し前……確かアルフォンス様が『しかし、私はリアが』と仰ってからですね」
「っっ!! ああ、そうか……」
リア様のその答えを聞いた瞬間、アルフォンス殿下は分かりやすく安堵したご様子で、胸を撫で下ろされた。
そんなに露骨だと、今度はその行動で不審がられる気もするのですが……いえ、なんでもありません。
先程のあれを聞かれていなくて、本当によかったですね……本当に。
「しかし、よくここが分かったな」
安心から緊張がゆるんだご様子のアルフォンス殿下は、今度は何の気もなさそうにリア様へそう話を振られた。
「ええ、実はたまたま廊下で行き合った、いつも一緒にいらっしゃるお三方にここを教えて頂いたんです」
お三方って……あの侍女三人組、わざわざリア様に場所を教えたのですね。
何をしているのか……。
そう思っていたところ、リア様が「そう言えば」と口にしつつ顔に手を当ててこう続けた。
「少し含みのある様子で『私なら大丈夫だろう』と仰っていたのですが……やはり何か不都合がございましたか?」
そう言いながら僅かに不安そうな表情をするリア様。それをみたアルフォンス殿下は、慌てたように首を振って否定する。
「いや、全然不都合などないっっ!! だから君がそのようなことを気にする必要はないぞ!?」
「そうですか、ならよかったです」
その瞬間、リア様はさながら花が綻ぶような笑顔を浮かべた。
それはもう誰もが見とれてしまうような、可憐さと不思議な力を持った笑顔であり……あ、これはマズい。
そう気付いて、私がアルフォンス殿下の方を見やると案の定、殿下は顔を抑えてプルプルと小さく震えていた。
いや、ちょっと殿下……!!
「アルフォンス様どうかされましたか!?」
ほら流石に、リア様もおかしいと気付いてしまいましたよ!?
せっかく誤魔化せたのに、一体何をなさってるんですか……。
「いや、ただ顔を抑えたい気分なんだ……だから気にしないでくれ」
はぁ!? 一体どんな気分ですかそれは、そんな言い訳通るわけ……。
「あら、そうだったのですね、全然分からなくて驚いてしまいましたよー」
と、通った!? え、リア様はそれで納得するのですか……まぁ、するようですね。
なんというか、リア様においても想像以上になかなかのお方ようで。
そんなことを思いつつ私がお二人を見ていると、笑っていたリア様が「あっ」と何かを思い出した様子で、再び口を開いた。
「ところで先程の話題ですが、私の名前を出されていたことは一体どうかしたのですか?」
そう問いかけられた瞬間、殿下は顔を抑えたまま、露骨にギクリと身体を震わせた。
ああ、確かにリア様としては、どうしても気になる部分ではあるでしょうね……。
「いや、別になんでもない……たまたま話題に出ただけだ、だから気にしないでくれ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、そうだ……」
……本当のことを言うわけにも、いかないことは分かっておりますが、長々と愚痴に付き合わされた私の身としてはどうしても『嘘ですよね?』とツッコミを入れたくなりますね。
あと、ところで殿下はいつまで顔を抑えたままなのですか? どうして、そのまま会話を続けているのでしょうか。
「あー、それよりもリア……もう用件というのは済んだのか?」
そう口にしつつ、ようやく顔を抑えていた手を放してリア様の方を見るアルフォンス殿下。
あ、ようやく顔から手を離されましたね。
しかし、この問いかけは……。
本心では先程リア様とカイアス様のお二人の話した内容。ひいてはお二人の詳細な関係性が気になっているものの、そのようなことをハッキリ聞くわけにはいかないので、このような聞き方になってしまったというところでしょうか。
その証拠に、アルフォンス殿下はそう口にしてから妙にソワソワされていらっしゃいますし。
まったく面倒くさ……いえ、難儀なものです。
そんなアルフォンス殿下に対してリア様は「はい、どうにか」と頷いたものの、そこから神妙な表情を浮かべて更にこう続けた。
「しかしそれに関連して、先程はあのような形で席を立ってしまい大変申し訳ありません」
そうしてそう言い終えると、リア様は深々と頭を下げた。
ああ、なるほどアルフォンス殿下も散々失礼だと仰っておりましたが、リア様の方もそれを感じていたみたいですね……。
「いや、あれに関して君は悪くないぞ!? だから気にしないでくれ」
一方でリア様の謝罪を予想していなかったであろう、アルフォンス殿下はかなり慌てたご様子だ。
しかし何と言いますか……わざわざ『君は』と仰る辺り、カイアス様のことは非難したいという気持ちが滲んでおりますね。
「いえ、すぐに彼を注意出来なかった私の責任もありますので……申し訳ありません」
「いや、本当に気にしないでくれ。別になんとも思ってないし、この件で私が何か責めるようなことをするつもりはない」
頭をあげてもいまだ不安げな表情で「本当ですか?」と聞き返すリア様にアルフォンス殿下は穏やかに頷く。
一見とってもいい場面に見えますが……あの、今『なんとも思ってない』と仰っておりますが、先程まで物凄く愚痴っていらっしゃいましたよね?
あれ、もしかして私は長い間幻覚でも見ていたのでしょうか……。
「ありがとうございます、アルフォンス様は本当にお優しいですね」
「別に、そんなことはない……」
そんなやり取りの末リア様に褒められて、謙遜しつつもまんざらでもないご様子の殿下。
本当にさっきまでの重苦しい雰囲気が嘘のようですね。
その点に関してだけは本当によかったと思います。はい、その点に関してだけは……。
しかし、ここで残った問題は『ややすればアルフォンス殿下がまた、リア様とカイアス様の関係性でイジイジし出しそうなこと』と、先程まで散々殿下が非難していた『カイアス様の無礼な行動を、リア様を擁護する流れで許してしまった部分』なのですが……。
この二つに関しては、不本意ながらまた後で話をしなければならない気がするのですよね。だってほぼ間違いなく、アルフォンス殿下ご自身が掘り返しそうですから……。
そんなことを考えながら、私はリア様へ嬉しそうな顔を向けるアルフォンス殿下のお姿を見て、静かにため息をついたのであった。
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