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第23話 図書室にて-別視点- 2

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『騎士王レオンハルトの大冒険』
 勇猛果敢ゆうもうかかん大胆不敵だいたんふてきな王様の冒険小説である。
 そもそも一国の王が何故冒険しているのか、治世はどうした? などのツッコミどころがあるが、そこは子供向けの本ということでご愛嬌あいきょうということにしておこう。

 一言でいうとレオンハルトとが物凄く強い……物理的に、そして国民に大人気である。
 王様ということで冒険には一応兵を率いて行ってるが、レオンハルトが真っ先に戦う。
 ガンガン敵を倒す。指揮官的にはダメじゃないのかと思うがのだが……まぁコレも主人公だということで深く追及するのはやめよう。
 大人気という部分だがレオンハルトが冒険を終えて帰ってくると、これでもかというほど熱狂的に国民たちが迎えるわけだ。
 まるであらかじめ準備されていたかのように国をあげての祭りを始めるのである。
 ……これも演出だな、子供向けの本なのだから絵的な華やかさが必要なのだろうな、うん。

 まぁ、大体こんな感じの話だったわけだが読み終えたところで少し問題がある。
 リアは先程まで熱心にこの本を勧めてきたわけだが……その勧めてきたポイントがどこなのかさっぱり分からない部分だ……。

 一体何を持ってあれだけの熱意で勧めてきたというんだ…………ダメだ全く分からん。
 しかし先程まで言動を考えると正直に分からないと言った場合、なんだか面倒臭いことになるような予感がする。

 さて、どうしたものか……。
 悩みながら、そっとリアの様子を伺うと彼女は黙々と本に目を通している最中だった。
 ……うむ、それ自体は別に構わないし問題ないことだ。

 ただ気になる点がある……。

 早い、読むスピードがやたら早い。
 流し読みといっても多少の時間はかかるものだと思うが、ページを開いてから次をめくるまでに掛ける時間は約1秒ほどで、パッと全体を見たらもうページに移っている。
 必要そうな情報がないから、ページをドンドン飛ばしてるのだろうか?

 正直、そうとしか思えないスピードだ……。
 気になることが他にもある。リアの横には改めて積みなおしたと思われる本の山があるのだが……。
 まずそれらは最初に積んだ本の山よりキッチリと積んであるため全体の数が分かりやすい。だからこそ気になるのが、積み直したのであろう数十冊単位で構成される本の山がもう数個はあるという点だ……。

 …………やっぱりだいぶ早くないか?

 テキトーにページめくって本を積んでいるのではないかと心配になるレベルだぞ……!?

「あーっリア……?」

「はい、なんでしょうか」

 手を止めてリアが顔を上げる。

「その……横に積み上がっている本は?」

「コチラが後で読み直すもので、コチラが必要ないものですね」

 リアはキッチリと積み重なった本をそれぞれ指し示した。
 やっぱり、積み直してあるものは目を通したものらしい。

「内容はどの程度把握はあく出来ているんだ……?」

「ざっと見てるだけなので、あまり把握は出来ていませんが……」

 まぁあのスピードじゃ出来てなくて当然だろうが

「あっ……でもその著者がガードナー氏の本は読みやすそうな感じでしたよ、読み直さない方に入れちゃってるんですけどね」

 そういって山積みになっているうちの一冊の本を指さした。
 結構な量の本の中から場所を覚えていたように指さしたな……?

「内容は大精霊を含めた精霊全体の生態の分析で、なかなか興味深いものだったんですが今は必要ないので弾いてしまったんですよね。それ以外にも数冊その方の著書が混じっていましたが全部良さそうな本でしたよ……ちなみにその他はソコとソコとソコにソレですね」

 パッパッと流れるように積み上がった本の中から該当する本を指さしていく。

「……もしかしてこの積み上がった本の題名を全部言えたりするか?」

 いくつかある積み上がった本の山からテキトーなものを示して聞いてみる。
 ちなみにリアのいる位置からは背表紙が逆を向いていてとても見ることが出来なくなっている。

「はい、まぁ上から『大精霊逸話集』『大精霊の謎とその考察』『創世記と大精霊』それから後は……」

「……いや、もういい」

 最後は少し考え込んだものの、何でもないことのようにスラスラ本の題名を口にした。
 当初の懸念けねん通りでもしテキトーに目を通しているのなら、まず始めに焦るだろうし、そもそも本の題名を暗唱するなんて不可能だ。

 リアは本当にあのスピードで本に目を通してオマケに中身もしっかり把握しているらしい。
 ただ単なる児童書や童話好きだったわけではなかったのだな……。

「そういえば、お渡しした本の方は読み終わったのですか?」

 リアが期待を抑えられないという声音で問いかけてくる。

「ああ、まあな……」

 しまった!! 本の山の方に気を取られててそちらに付いては全く考えてなかった。

「では、何か気付いたりしていませんか?」

 何がだ……全く心当たりがないぞ。

「あ、分かりませんでしたか? じゃあ言ってしまってもいいですかね」

 リアは何故か説明したそうにうずうずしているような雰囲気で少し嫌な予感がするが……全く検討が付かないことを考えさせられるよりマシか。
 短い思案ののち私は頷いた。

「ふふーん、なんとですね……」

 勿体もったい付けた口調で一呼吸置いてリアは口を開いた。

「この作品の主人公のモデルは四代英雄クリスハルトなんですよ!」

「…………具体的にどこがだ」

 リアの声はたのしげだが、こちらは納得出来なすぎて一瞬声が出なかったぞ。

「色々ありますが一番は自ら先陣を切って戦う勇猛果敢な性格ですね!!」

 んー……確かにそう言われると、そんな気もしないでもないが……。
 嬉々した様子でそう語るリアの様子に引っかかりを感じた。

「……そもそもキミはクリスハルトが嫌いなのではないか?」

 そう問いかけると、リアは不思議そうにきょとんっとした様子で首をかしげた。
 それにしても先程からローブで隠れてて表情が見えないハズなのに感情が読み取れるってどういうことなんだ。

「別に嫌いではありませんよ。むしろ偉人の中でも人として好きな部類ですし!」

「いや、でもさっき読んだ本に文句を言ってただろう」

「先程のまとめ方に対しての文句であって、クリスハルト個人に文句を言ったわけじゃありませんよ……本の販売元へは言いたいことがいくらでもありますけれどね、販売元へは」

「ほう、そうなのか……」

 ところでなんなんだろうか、この子の本へ……特に児童書への熱いこだわりは……。

「まぁ、それはそれとしておいて……本についてのご感想を頂きたいのですが」

 ついにリアはヒシヒシと期待を感じさせる声音で明確に本の感想を求めてきた。

「ああ、そうだ……な」

 ここ一番で困る話題が来たぞ……!!
 あの本に対しての感想なんてどうしろというんだ。
 な、なにか無いか……そうだ!!

「そ、そこにある仕分け済みの本……!! 不要なものは私が先に片付けて置こう」

 リアが返事をするより早く、私は積まれた本を持って席を立った。

「あー、そうですね。よろしくお願いします」

 移動した私に少し遅れてリアの返事が聞こえてきた。

「キミはその間にまた作業を続けていてくれ」

 そう声を掛けつつチラリと横目でリアを見ると、再び本に目を落としページをめくることを再開していた。

 よし、どうにか切り抜けることが出来たな。
 追及されなかったことに安堵あんどしながらも、ぼんやりと考えた。

 ……感想考えて置かないとな。
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