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第8話 呪いをかけられた王子さま-前談-

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「……実は私には呪いがかけられている、気付いているかもしれないがこの城自体にもだ」

「やはりそうですか」

 予想通りの台詞だけど、神妙な顔をして頷いた。

「更にはキミが通ってきた森も、この呪いがかけられた時期から大きく姿を変えた」

「森もですか……!?」

 しかし森にも呪いが掛かっているというのは流石に予想外で語気が強くなってしまった。
 だって城ごと呪うだけでも呪いとしては規模が大きすぎるのに、更に広範囲の森ごと呪いをかけるなんて普通しない。まず、そこまで呪う意味も分からない……。

「そうだ、実際に呪いと関係があるかは不明だが、私が呪いを受けたあの日を境に、魔獣が増えていき今のような姿になってしまったのだ」

 魔獣を発生させる呪い……はじめて聞くものだ、話を聞けば聞くほど謎が増していく。

「じゃあ元々、魔獣が出る森ではなかったということですか?」

「ああ、この森は元々聖なる森と言われるほど神聖な場所だった」

「聖なる森というのは?」

「この辺りには、まず大精霊の住まう大森林というものがあるのだが、それからやや離れたこの森も大精霊が気に入っており大精霊の加護を賜った聖なる森とされていたのだ」

 精霊の存在は私もよく知っている。存在自体が魔術に深く通じている精霊は、魔術師の畏敬を集める存在だ。その中でも4柱しかいない大精霊は更に特別な存在であり、一説には自然界の摂理そのものを束ねているとさえ言われる。

「大精霊の加護ですか……」

「今じゃ全くそう見えないだろうが、この森の美しさ、特に、森の中心にある湖を気に入った精霊が森自体を聖地にしたという逸話が残る土地だったのだ」

 城全体に呪いをかけるだけでも大変なのに森まで……しかも大精霊の加護があるほどの神聖な土地に呪いをかけた?
 正直、信じられないような話だった……別にアルフォンス様が嘘ついてるとか言いたいわけじゃなくて。実行するには、信じられないほど馬鹿馬鹿しいレベルの力が必要なのよね。
 だって大精霊の力って自然そのものと言っていいくらいものもので、例えるならば海を真っ二つに割ってずっとそのままにするくらいの力がないと大精霊の加護をどうにかするのは無理。出来たら出来たで大事件なワケです。

「そもそも、その呪いは誰がかけたかものか分かりますか?」

 素直に疑問に思ったことを口に出して問いかけたところ、アルフォンス様はしばらく沈黙を経て口を開いた。

「……大精霊だ」

 なるほど、それなら確かに能力的な辻褄は合うね。納得した……って、いやいや待って欲しい。

「大精霊自身が呪いを?」

 それはそれで大事件よ。
 だって原則として大精霊は人に関わるようなことや、世界に大きな影響をもたらすようなことはしないことになっている。森に呪いをかけたにしても、アルフォンス様に呪いをかけたにしても不自然だ。
 ただキチンとした取り決めがあるわけではなく、暗黙の了解のようなものだが、それでも余程のことが無ければそれを破ることはない。

「少なくとも、呪いをかけた本人はそう名乗った」

「えーっと、その口振りだと直接大精霊に会ったように聞こえますが?」

 まず人前に姿を現すことすらない、大精霊に直接姿を晒したってだけで結構大ごとだけど……。

「そうだ、本人が直接私に呪いをかけたのだ」

 はぁぁ!? 内心で叫び声を上げてしまったが、実際に声に出すのはなんとか耐えた。
 ただ声に出さなかっただけで、態度で困惑はダダ漏れだったと思う。

「……それは一体どうして」

「まぁそう思うだろうな……」

 アルフォンス様は悲しそうな笑顔を浮かべると、視線を外して言葉を続けた。

「では昔話をしよう、もとより信じられないような話なので、嘘だと思って聞いてくれても構わない」

 そう告げる彼の顔はまるで痛みを我慢して泣き出す寸前の子供のようにも見えて、私は思わず何か言わなくちゃいけないと口を開いていた。

「……話を聞く前なのでなんとも言えませんが、少なくとも私はアルフォンス様が嘘をつくとは思ってはいませんよ」

「ありがとう……これは十年ほど前にあった大精霊の怒りに触れた愚か者の話だ」

 きっと本当は話したくはないのだろう。私の言葉に表情をやや和らげてもなお、彼の顔は辛そうだった。
 そうして彼は、その表情とは裏腹なおとぎ話を語るような口調で一つの物語を語りだしたのだった。
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