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第三十二話 挑戦②
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放課後の教室。凪沙が帰り支度を整えていると、そこへ紗夜が近付き声を掛けた。
「鎌倉さん」
「……高田さん。…………どうしたの?」
凪沙はつい先日、紗夜が凪介に対してかなり積極的に迫った場面を覗き見ていた事もあり、無自覚にも微かに剣呑な空気を漂わせて応じてしまう。
「……少しだけお話したいんだけど、いいかな?」
凪沙が纏う細やかな棘を潜ませた空気を敏感に感じ取った紗夜。はりぼての笑顔を作り凪沙に向ける。
「…………うん。大丈夫だよ。今からだよね?」
「うん。それとーー」
「兄さん?」
紗夜の言葉を最後まで聞くこと無く、意図を察した凪沙は大凡の見当を付けて紗夜に問う。
「…………うん。お願いできる?」
「分かった。連絡しておくね」
終始冷たい笑顔を貼り付けながら進められた静かな会話。それはこれから起こるであろう一波乱を予兆しているかのようだった。
*******
「なんか最近こういうの多い気がする……」
天井を仰ぎ見てパイプを蒸す壮年の男は独り零すと注文された三つのブレンドの準備に取り掛かる。
「まぁ、青春なんてこういうもんかね」
例によって馴染みの喫茶店である「relief」に鎌倉兄妹と高田紗夜は訪れていた。
今回は壁で仕切られた例の空間ではなく窓側に設けられた四人掛けの座席にて隣り合って座る凪沙と凪介に向き合う形で紗夜が座り、話し合いが行われていた。
「鎌倉先輩、今回は突然お呼び立てしてしまい、申し訳ありません。鎌倉さんも、急なお願いを聞いてくれてありがとう」
「俺は全然構わないよ」
「気にしてないから大丈夫」
「それで、話っていうのは?」
凪介から切り出された言葉に、紗夜は無言でスマートフォンを凪介達に向けて画面が見えるようテーブルの上に置いた。
凪介はその画面に映った画像を視界に入れるや否や目を見開いて固まってしまう。しかしそれとは真逆に、凪沙はその画像を見て取り乱すどころか一目見た後にすぐ紗夜へ淡々とした視線を向けた。
「…………悪趣味な真似をしたと自覚しています。お二人には不快な思いをさせてしまっていることも……。この画像はすぐに削除します。ただ確認したかっただけなんです」
「「…………」」
紗夜は口に出した通り、己のとった恥ずべき行為がどれほど醜悪なものか深く自覚していた。だからこそ、紗夜は目の前の二人の顔を先程から直視出来ないでいる。
だが、紗夜も一人の恋する女性だ。好きな男の想う相手が誰であるのか密かに気にかかっていた。それ故、毎度も断られてしまうお昼の時間は"その相手"と過ごしていると当たりを付けた紗夜は凪介を尾行し、確かめようと行動してしまった。そして、その結果、紗夜の想像を超えた相手であることを知るに至った。
「鎌倉先輩のおっしゃていた心に決めた人というのは、鎌倉さんのことなんですね?」
「…………うん。そうなんだ。俺は、凪沙が好きなんだ」
顔を上げて真剣な瞳で紗夜に見つめられた凪介は、軽く深呼吸をして答えた。
「……お二人はご兄妹のはずでは?」
「私達、小さい頃に親が再婚してて、その連れ子同士なの」
「……そう、だったんですね」
「…………」
紗夜は膝の上で両手をきゅっと握り視線を落として黙り込んでしまう。
「紗夜さん。この事は……」
「分かってます。誰にも言いません。……言えませんよ」
「……ありがとう」
俯く紗夜に凪介はどこかほっとした表情で礼を述べると、一呼吸置いて真剣な面持ちを作って空気を切り替えるようにして口を開く。
「紗夜さん。この前は、君の真剣な気持ちに対してきちんと向き合えなくてごめん。どうしても凪沙と付き合ってる事は知られるわけにはいかなかったんだ」
「…………」
「だから、良い機会だと思うから改めて俺の気持ちをきっちりと紗夜さんに伝えようと思う」
「…………」
「俺は凪沙が好きなんだ。ずっと一緒にいたいと思ってる。だから、紗夜さんの気持ちには答えられない。ごめんなさい」
紗夜は顔を伏せたまま凪介と目を合わせる事は無く、ただただ自らの実らない恋心を痛感させられる言葉を耳にしていた。
そして、最後に凪介が頭を下げると、紗夜は立ち上がり、コーヒー代を置いてreliefを後にした。
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
暫く更新出来ずに申し訳ありませんでした。
なかなか話の展開で納得のいく形を見出す事が出来ず、執筆が遅れてしまいました。
ですが、何とか目処が立ちました。
待ってくれていた皆様には大変なご迷惑をおかけしました。
今後ともよろしくお願いします!
「鎌倉さん」
「……高田さん。…………どうしたの?」
凪沙はつい先日、紗夜が凪介に対してかなり積極的に迫った場面を覗き見ていた事もあり、無自覚にも微かに剣呑な空気を漂わせて応じてしまう。
「……少しだけお話したいんだけど、いいかな?」
凪沙が纏う細やかな棘を潜ませた空気を敏感に感じ取った紗夜。はりぼての笑顔を作り凪沙に向ける。
「…………うん。大丈夫だよ。今からだよね?」
「うん。それとーー」
「兄さん?」
紗夜の言葉を最後まで聞くこと無く、意図を察した凪沙は大凡の見当を付けて紗夜に問う。
「…………うん。お願いできる?」
「分かった。連絡しておくね」
終始冷たい笑顔を貼り付けながら進められた静かな会話。それはこれから起こるであろう一波乱を予兆しているかのようだった。
*******
「なんか最近こういうの多い気がする……」
天井を仰ぎ見てパイプを蒸す壮年の男は独り零すと注文された三つのブレンドの準備に取り掛かる。
「まぁ、青春なんてこういうもんかね」
例によって馴染みの喫茶店である「relief」に鎌倉兄妹と高田紗夜は訪れていた。
今回は壁で仕切られた例の空間ではなく窓側に設けられた四人掛けの座席にて隣り合って座る凪沙と凪介に向き合う形で紗夜が座り、話し合いが行われていた。
「鎌倉先輩、今回は突然お呼び立てしてしまい、申し訳ありません。鎌倉さんも、急なお願いを聞いてくれてありがとう」
「俺は全然構わないよ」
「気にしてないから大丈夫」
「それで、話っていうのは?」
凪介から切り出された言葉に、紗夜は無言でスマートフォンを凪介達に向けて画面が見えるようテーブルの上に置いた。
凪介はその画面に映った画像を視界に入れるや否や目を見開いて固まってしまう。しかしそれとは真逆に、凪沙はその画像を見て取り乱すどころか一目見た後にすぐ紗夜へ淡々とした視線を向けた。
「…………悪趣味な真似をしたと自覚しています。お二人には不快な思いをさせてしまっていることも……。この画像はすぐに削除します。ただ確認したかっただけなんです」
「「…………」」
紗夜は口に出した通り、己のとった恥ずべき行為がどれほど醜悪なものか深く自覚していた。だからこそ、紗夜は目の前の二人の顔を先程から直視出来ないでいる。
だが、紗夜も一人の恋する女性だ。好きな男の想う相手が誰であるのか密かに気にかかっていた。それ故、毎度も断られてしまうお昼の時間は"その相手"と過ごしていると当たりを付けた紗夜は凪介を尾行し、確かめようと行動してしまった。そして、その結果、紗夜の想像を超えた相手であることを知るに至った。
「鎌倉先輩のおっしゃていた心に決めた人というのは、鎌倉さんのことなんですね?」
「…………うん。そうなんだ。俺は、凪沙が好きなんだ」
顔を上げて真剣な瞳で紗夜に見つめられた凪介は、軽く深呼吸をして答えた。
「……お二人はご兄妹のはずでは?」
「私達、小さい頃に親が再婚してて、その連れ子同士なの」
「……そう、だったんですね」
「…………」
紗夜は膝の上で両手をきゅっと握り視線を落として黙り込んでしまう。
「紗夜さん。この事は……」
「分かってます。誰にも言いません。……言えませんよ」
「……ありがとう」
俯く紗夜に凪介はどこかほっとした表情で礼を述べると、一呼吸置いて真剣な面持ちを作って空気を切り替えるようにして口を開く。
「紗夜さん。この前は、君の真剣な気持ちに対してきちんと向き合えなくてごめん。どうしても凪沙と付き合ってる事は知られるわけにはいかなかったんだ」
「…………」
「だから、良い機会だと思うから改めて俺の気持ちをきっちりと紗夜さんに伝えようと思う」
「…………」
「俺は凪沙が好きなんだ。ずっと一緒にいたいと思ってる。だから、紗夜さんの気持ちには答えられない。ごめんなさい」
紗夜は顔を伏せたまま凪介と目を合わせる事は無く、ただただ自らの実らない恋心を痛感させられる言葉を耳にしていた。
そして、最後に凪介が頭を下げると、紗夜は立ち上がり、コーヒー代を置いてreliefを後にした。
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暫く更新出来ずに申し訳ありませんでした。
なかなか話の展開で納得のいく形を見出す事が出来ず、執筆が遅れてしまいました。
ですが、何とか目処が立ちました。
待ってくれていた皆様には大変なご迷惑をおかけしました。
今後ともよろしくお願いします!
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