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過去の女性がヨリを戻しに来たらしい。
しおりを挟む「......それで、セディがノミモノかってくれるって、いなくなったよ。そしたら、しらないオトコのヒト3にんきた。いやだいうのに、あそびにいこうって、しつこい。それで、ひとり、わたしのウデ、つかんだよ。そしたら、セディがかえってきて、そのオトコのウデ、つかんでこう、せなかにぎゅってしたよ。それから、なにかみせて、イマスグタチサレ!ってすごんだよ。すっごーく、かっこよかったのデス」
私はマリーさんとアランに、デートはどうだったか聞かれたので、動物園でナンパされて助けてもらった話を聞かせていた。
「んー、コトバがヘタだけど、わかったか?」
私は上手く言えた気がしないので、二人に理解の確認を問うた。
なぜか本当に言葉が上手くならない。
必要最低限の日常生活はなんとか話せるけれど、こういう会話をするのはとっても大変なのだ。
言葉がなじまないのは、まるで私の存在が、この世界に適していないと言われているみたいだ。
私がそんなことを考えていると、マリーさんは私が言ったことを確認するように要約した。
「要するに、ナンパされた相手を、副団長が捻じ上げて、国家の紋章を見せて追い払ったのね?」
「コッカのモンショウ?」
私が尋ねると、アランが教えてくれる。
「国家の紋章は、守り人が託される国の紋所だ。それを持つのは国の要人を守る専属騎士だけ。お忍びなどで高貴な方がお出かけになられる時などに専属護衛が持ち歩くんだ。それを見せて言うことを聞かなかったものは、問答無用でこれになるんだよ」
そう言って、アランは自分の首を手で切る仕草をした。
要するに、水戸黄門の葵の御紋みたいなものなのね。
私も国家に守られる存在だから、セディが託されているんだわ。
「俺もそれを使ってみたかったから、ゆいちゃんの専属護衛になりたかったんだがな~。国家の紋章は、騎士たちの憧れなんだから」
そう言うと、マリーさんがアランに
「もっと腕を上げて、王女殿下の専属護衛になるしかないわね」
と言った。
王女殿下は御年8歳で、10歳になると専属護衛をつけるのだそうだ。
私たちはそんな雑談をしながら何をしているかと言うと、騎士団の敷地の草むしりをしているのだ。
私には何の特技もないからこんなことくらいでも役に立ちたい。
セディが護衛につけない間、私のお守りをしなければならない二人には、付き合わせて申し訳ないけれど、遊んでばかりいるのは嫌なのだ。
草をプチプチ抜きながら三人は話を続ける。
「ゆい様、それじゃ、その後のデートは甘々だったのではないですか?」
「んー。それが、セディはとてもシンシだから。わたしはもうすこし、ドキドキをキタイしていたんだけど...... 」
ちょっと残念そうに私が言うと、目を釣り上げたマリーさんが怒ったように言った。
「まー。副団長ったらヘタレですわねー。ゆい様にこんなこと言わせるなんて」
「まあ、そう言ってやるなよ。あいつも過去の経験から、慎重にならざるを得ないんだろ」
アランが言うと、マリーさんが眉を下げて黙り込んだ。
「カコのケイケンって?」
私が問うと、アランは戸惑いながらも
「あいつは自分からゆいちゃんには話さないだろうし、話しておいたほうがいいよな......?」
マリーさんに向かって尋ねる。
マリーさんは肩をすくめて「私はわからないわ」と言った。
そのやりとりで分かった。
デートの時、セディが言った言葉で引っかかったこと。
(俺は数えるほどしかまともなデートをしたことがないから)
あの言い方は、過去にセディには彼女がいたってことを示しているわよね。
「あらん、おねがい。セディのことならしっておきたい。おしえて?」
手を組んでおねだりポーズをしてみせると、アランは観念したように話してくれた。
◇◇◇
「......と言うわけだ」
私はクレア男爵令嬢との話をアランから聞いて、怒りに震えた。
「酷い......!いくら家のためって言っても、それじゃあセディが悲しすぎるよ!今は好きになれないけど嫌がらない努力しますって言われて嬉しい人なんていないよ......!」
「それでもあいつにとったら、拒絶しないでくれた初めての女性だったんだ。何とか振り向いてもらおうと、周りが見ていて苦しくなるほど彼女に尽くしていたんだ。付き合いは半年ほど続いて、少し彼女が俺の容姿に慣れてきた気がすると言って喜んでいたんだが......。その後出かけて行ったデートの時、彼女の額に口付けようとしたら彼女に嘔吐されてしまったって......。それから、彼女が家のものに責められないように、あいつから婚約を取り消して、慰謝料と言って男爵家の借金まで払ってやったんだ......。俺はそれ以来、アイツのことを心のイケメンだと言って親友になったんだぜ。だから、ゆいちゃんがアイツを好きになってくれて、本当に心から応援しているんだ」
私は胸が痛くてしょうがなかった。
セディはすごく傷ついて辛かっただろうに、それでも最後まで彼女に尽くしたんだね......。
私はセディに尽くさせるんじゃなく、私がセディに尽くしたい。
私がセディを幸せにしてあげることができたら、と強く思った。
三人ともしんみりとしてしまった所に、何か騒がしい声が聞こえてきた。
「お願いです!セドリック様!もう一度、わたくしとやり直してはくださいませんか?今度こそ、わたくし、あなたに何をされてもガマンいたしますから!絶対に拒否したりしませんんから‼︎お願い、セドリック様......!」
噂をすれば何とやら。
あれが先ほど聞いた、セディの過去の女性なのだとピンときた。
(何なの?!何をされても我慢するって!嫌々されるってことじゃない!酷いわそんな言い方!セディがどんな気持ちで聞いているか分からないの?!)
私は彼女の前に飛び出そうとしたのだけど、アランに止められ近くの植木にしゃがむように手振りされた。
私は渋々従い、三人でふたりの経過を見守ることにした。
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