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大切なボタンを切り取って
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私はお買い物を済ませたあと、ママさんがお茶に誘ってくれるのも断って、屋敷に戻った。
御守りなら、丁寧に作っても、数時間あればできると思ったから。
(引きこもり気味だった私は、読書の他、手芸や編み物などが得意なのだ)
早くセディにプレゼントしたくて、お昼ご飯も断って、自分の部屋に戻った。
時折クッキーを摘んだりしながら御守りを作る。
丈夫にするために二重の袋にして、飾りを付けて、下げるための紐も編み込んで更に丈夫にした。
それだけやっても夕方には完成したのだけれど......。
それに入れる、自分の持ち物ーー。
私は、この世界に転移した時のパジャマを出して見つめた。
木綿と化繊の混合の生地に、うさぎさんのアップリケがついている。
首が通しやすいように前に切り込みがあり、そこに木目調のプラスチックのボタンがひとつ付いている。
私はそのボタンを取って、セディの御守り袋に入れようと思ったのだ。
だけど、その行為は、前の世界から自分を切り離す行為のように思えた。
私はまた、家族のことや学校のことなどをつらつらと思い返していた。
こちらへ来てもう半年近くなる。友達の顔も、朧げになった。
急に心細くなる。
でも、そんな時、セディの顔が私の脳裏に浮かんだ。
セディはこの世界では醜いと認識されているようだけど、私にとっては超絶美形で、性格もとても素敵な人だ。
私には本来なら、手の届かない雲の上のような人なのだ。
そんな人が、王様の前で、命に代えても私を守ると騎士の誓いを立ててくれた。
前の世界の、たったひとつの形見のようなこのボタンを、切り取っても良いと思えるだけの大切な人だ。
私はゆっくりと、ボタンを留めている糸に鋏を入れた。
取れたボタンを両手で握りしめ、深呼吸をする。
「神様。どうか私の大切なセディを守ってください。私はこの世界で、セディがいなければとても生きてはいけません。神様が私をここへお導きなったのなら、どうかセディをあらゆる危険からお守りください」
そう祈りを捧げて、御守袋にボタンを入れると私のお腹が鳴った。
時計を見ると夜の9時。
「いけない。もうこんな時間になってた」
私は独り言を呟いて、ママさんがサンドイッチを作って食堂に置いてくれているのを思い出した。
「お腹空いたな。だけど、こんな夜遅く、ひとりで食堂に行くの怖いかも......。こんな時、セディがいてくれたらいいのにな。結局御守りも、早く渡すつもりが明日になっちゃったし......」
そう言いながらも、空腹には勝てなくて、扉を開けて食堂へ向かおうとした、その時。
「えっ、セディ⁈ 」
会いたいと思った本人が目の前にいたので驚いてしまった。
セディは慌てふためいた様子で何やら言っているけれど、私は気持ちが通じたみたいで嬉しかった。
「あいたいとおもってたらきてくれた」
そう言うと、セディは何か用事かと聞いてきた。
事情を話すと快く食堂までついてきてくれる。
やっぱりセディは優しいな。
サンドイッチを持って部屋の前に戻ると、セディが帰ろうとした。
私は慌ててセディを引き止める。
せっかくだから、今、御守りを渡してしまおう。
私はセディを部屋に招き入れる。
セディのことは信用しているので、今回は私が自ら扉をきちんと閉めた。
御守りなら、丁寧に作っても、数時間あればできると思ったから。
(引きこもり気味だった私は、読書の他、手芸や編み物などが得意なのだ)
早くセディにプレゼントしたくて、お昼ご飯も断って、自分の部屋に戻った。
時折クッキーを摘んだりしながら御守りを作る。
丈夫にするために二重の袋にして、飾りを付けて、下げるための紐も編み込んで更に丈夫にした。
それだけやっても夕方には完成したのだけれど......。
それに入れる、自分の持ち物ーー。
私は、この世界に転移した時のパジャマを出して見つめた。
木綿と化繊の混合の生地に、うさぎさんのアップリケがついている。
首が通しやすいように前に切り込みがあり、そこに木目調のプラスチックのボタンがひとつ付いている。
私はそのボタンを取って、セディの御守り袋に入れようと思ったのだ。
だけど、その行為は、前の世界から自分を切り離す行為のように思えた。
私はまた、家族のことや学校のことなどをつらつらと思い返していた。
こちらへ来てもう半年近くなる。友達の顔も、朧げになった。
急に心細くなる。
でも、そんな時、セディの顔が私の脳裏に浮かんだ。
セディはこの世界では醜いと認識されているようだけど、私にとっては超絶美形で、性格もとても素敵な人だ。
私には本来なら、手の届かない雲の上のような人なのだ。
そんな人が、王様の前で、命に代えても私を守ると騎士の誓いを立ててくれた。
前の世界の、たったひとつの形見のようなこのボタンを、切り取っても良いと思えるだけの大切な人だ。
私はゆっくりと、ボタンを留めている糸に鋏を入れた。
取れたボタンを両手で握りしめ、深呼吸をする。
「神様。どうか私の大切なセディを守ってください。私はこの世界で、セディがいなければとても生きてはいけません。神様が私をここへお導きなったのなら、どうかセディをあらゆる危険からお守りください」
そう祈りを捧げて、御守袋にボタンを入れると私のお腹が鳴った。
時計を見ると夜の9時。
「いけない。もうこんな時間になってた」
私は独り言を呟いて、ママさんがサンドイッチを作って食堂に置いてくれているのを思い出した。
「お腹空いたな。だけど、こんな夜遅く、ひとりで食堂に行くの怖いかも......。こんな時、セディがいてくれたらいいのにな。結局御守りも、早く渡すつもりが明日になっちゃったし......」
そう言いながらも、空腹には勝てなくて、扉を開けて食堂へ向かおうとした、その時。
「えっ、セディ⁈ 」
会いたいと思った本人が目の前にいたので驚いてしまった。
セディは慌てふためいた様子で何やら言っているけれど、私は気持ちが通じたみたいで嬉しかった。
「あいたいとおもってたらきてくれた」
そう言うと、セディは何か用事かと聞いてきた。
事情を話すと快く食堂までついてきてくれる。
やっぱりセディは優しいな。
サンドイッチを持って部屋の前に戻ると、セディが帰ろうとした。
私は慌ててセディを引き止める。
せっかくだから、今、御守りを渡してしまおう。
私はセディを部屋に招き入れる。
セディのことは信用しているので、今回は私が自ら扉をきちんと閉めた。
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