俺の最愛の妻は浮気性

花野はる

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話し合い(一方的?)

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 ~時は少し遡り、出張から帰った翌日~


 出張から帰って三日後が結婚式だったので、俺は美春と式の確認をしたり、同居のための段取りをしたりしなければならなかった。そのため帰って来た翌日、仕事は半日勤務にしてもらい、出張の報告をして家へ帰ってきた。美春もそれに合わせて休みをもらっていて、俺のマンションで合流して式の最終チェックをしに出かけた。



「あの、チーフアドバイザーさん、かっこいいです。素敵......」

 美春は式の確認に行った先でも、いつものように浮気な言葉を口にした。

 だが、よく見てみると、美春はその男なんか見ていなかった。視線が少しズレているのだ。

「......青山って男より、彼の方が好みなの?」

 俺はなんとなく、そう美春に尋ねた。

「いいえ。私は青山さんの方が好きです。彼も好みですが、青山さんは、本当にかっこいい人ですから。私の憧れの人なんです」

 本当は女性である青山という職場の先輩の方がかっこいいなら、そんなに妬くこともないだろう。確かに俺から見ても、彼は渋い感じでかっこいいと思うから、ただ客観的に見て言葉にしたのだろう。

「美春、俺は見た目では彼らに負けるかもしれないが、美春を想う気持ちは余裕で勝ってる。歳を取っても俺と結婚して良かったと思わせるから、俺の方を見ていて」

 周りに人がいるので、いつものように口付けることができない。だから俺は言葉で美春の意識をこちらに向けた。

 美春は俺を見て顔を赤くし、瞳を揺らして俯いた。何かをこらえるように、ぐっと口を引結んでいる。俺は、心の中で悶えているだろう美春に、追い討ちをかけるように彼女の耳元に口を寄せ、こっそりと囁いた。

「愛してる......美春」

 美春は「はひゅっ!」と悲鳴のような声をあげ、赤い顔を更に濃くして立ち上がった。

「ぁあのっ、私、ちょっとお手洗いに......行ってきますっ!」

 挙動不審な動きでトイレに行こうとする美春を逃さず手を握った。俺から逃げようとしてもダメだ。

「近くまで送っていくよ。君が他の男に捕まったら大変だから」

「ええっ、そ、それは大丈夫ではないかと......。ここはみんなパートナーがいる方ばかりですから」

「美春のことが心配なんだ。だからついていく」

 俺がそう言ってトイレの方へ向かって美春の手を引くと、美春は俯いて黙ってついてきた。

 美春の表情をこっそり横から伺い見ると、美春は顔を赤くしたまま、嬉しそうに唇に弧を描いているのがわかった。

 あんなに浮気性な彼女を心配していたのに、今では彼女の気持ちが手に取るようにわかってしまう。俺は美春の愛らしさに、さらに彼女が好きになった。










「美春......君はもともと綺麗だが、今日の君は特別に綺麗だった。俺の奥さんになってくれてありがとう」

 俺は式を終えたその日の夜、美春と話し合う決意をしていた。俺はベッドの上で美春に軽いキスを落とし、美春に話を切り出した。

「私こそ......、冬誠さんに感謝しています。性格の悪い私と、結婚してくれてありがとうございます」

「美春、そのことなんだが......。俺は美春にお願いしたいことがあるんだ」

 美春はなんだろうという風に、首を傾げ俺の言葉の続きを待っている。

「美春、今夜から、俺と君は一緒に暮らす。籍の上でも、世間にも俺たちは夫婦になるんだ。だから、これからは、美春の浮気性は封印してはくれないか?」

「えっ......」

 美春は驚いたように目を見開いた。

「だって、考えてみてくれ。これから俺たちは子どもを作って家庭を築いていくんだろ? 君がお母さんになった時、子供の前でお父さんより別の男を見つめて褒めるお母さんってどう思う? 下手したら、子供が人間不信になって非行に走ってしまうかもしれないだろ?」

「あ......」

 美春は言葉を失って俯いてしまった。

「......て言うのは理屈だ。本当は、俺がそうして欲しいんだ。俺はお互いだけを特別に思って愛し合う夫婦が理想だと思ってる。だから、美春には俺だけを見て、俺だけを愛して欲しい。もちろん俺も死ぬまで美春一筋で生きる。そういう夫婦のあり方は、美春には重いだろうか?」

 美春は涙ぐんで、首を横に振った。

「でも......」

 美春は何か言いたげだけど、続きは出て来ない。

「美春は俺のこと、信じられない? 俺は美春が浮気をやめると言ってくれたら信じるよ」

 美春はしばらく俺の目を見つめていたから、俺も真剣に見つめ返した。

「......信じます......。もう、浮気、しません......」

「本当か?」

 俺が確認をするように問うと、美春は戸惑ったように返事をした。

「はい......多分? ですが」

「絶対しないって言って、美春。でないと美春を信じることができないだろう?」

 美春は目を泳がせていたが、ギュッとつむり、決意したように目をまっすぐ俺へ向け、はっきりと答えた。

「浮気は絶対しません」


「やった! 美春、ありがとう」

 俺は美春をぎゅっと抱きしめた。そして一度美春を離し、強い視線で見つめた。

「美春、じゃあ、今夜から美春は俺一筋だ。これから毎日、美春は俺に愛を囁いてくれ」

「ええっ?! そ、そんなの私、無理ですっ......!」

 美春は真っ赤になって、イヤイヤと首を横に振った。

「そんで、うっかり浮気なことを言ったらお仕置きな」

「ええっ、お仕置きって、いったいどんな......?」

 美春は顔を青くして問うてきた。俺は悪い顔して微笑んだ。

「愛の責め苦を。恐ろしいぞ、美春~」

「ひゃあぁっ! しません! 絶対浮気しませんからぁ!」

 そして俺は可愛い奥さんに、その日から愛を囁く練習をさせたのだった。



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