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リル兄さんは私のもの!
しおりを挟む「ただいま、ユリ……?」
学園から帰ってユリを探したが、やはりどこにもいなかった。
部屋の片隅に、ユリがいつも丸まっていた、犬用のベッドがあるだけだ。
「やはり消えてしまったのか…… 」
いつもの部屋はがらんともの寂しく、広すぎるように感じた。
もう、仮の器に入れない状態だったのだろうと察してはいたが、ユリはどうなってしまったのだろうか。
本物の器があって、また会えることを、俺は願うしかない。
◇◇◇
俺は今、鈴蘭学園の3年生になっている。
あれから俺は、ユリを失った虚無感を紛らわすため、より一層勉学と研究に没頭していた。
あの、2年生だった一年間は、特別な時間だった。今振り返ると、全て夢だった気がする。
「よう、シリル。さっき先生に呼び出されてたけど、何かあったのか?」
3年になり、無事白組に入れたアーサー様が声をかけて来た。
3年では、俺はクラス委員を押し付けられることもなく、アーサー様とメイベル様が推薦を受けてやってくれている。
「はい、研究の論文についてと、魔法実技のことについて話がありました」
「やっぱりか。いくらお前が優秀でも、魔法実技が3年でも赤点なんじゃあ、卒業資格が危ないのか?」
「はい……。1年と2年の時は、3年で挽回すればいいからと免除扱いだったんですが……。今までは、先生からわずかばかり魔力をもらって、0点だけは免れてきましたが、流石に卒業試験では、全く足りないので…… 」
「で?どうするんだ?」
この世界では、魔力の譲渡はかなり難しく、手と手を合わせて渡せる魔力は少ないし時間がかかる。
一、二年では、担任の先生が、休み時間や放課後を使って、そのようにして魔力を受け取っていた。
何とか基礎中の基礎的な実技をクリアし、赤点ながらも三年で挽回すればいいからと言われていた。
三年で挽回と言うのは……。
魔力譲渡は相手からの体液摂取によりまとまった量の受け渡しができる。
(※手と手を合わせるやり方は時間がかかる充電的で、体液を直にもらうのはガソリンを投入される感じである)
要するに、経口的に他人からもらわなければならない。
なので基本的に魔力を貰える相手は伴侶や恋人のみだ。
だから以前、メイベル様が俺に魔力をくれると言ったが辞退したのだ。
(彼女もアーサー様の気を引くために言っただけで、くれるつもりもなかったのだが)
「……魔力譲渡館で貰って来るよう言われました…… 」
「お前の想い人からはもらえないのか?」
「はい…… 」
アーサー様には、以前俺の想い人がいる事を話していたから、詳しく聞きたいのだろうが、俺はあえて短く返事をした。
アーサー様は俺を気遣ったのだろう、それ以上追及しては来なかった。
魔力譲渡館利用については、性的な行為に準じる場なので、やむを得ず利用する学生は、保護者に同意書を貰い、学園に提出する必要がある。
魔力を貰い受けると、髪色が変化するので内緒で利用するとすぐバレるのだ。
俺は、魔力譲渡館など利用したくはなかったが、卒業するためには仕方がない。しかし、ハーフエルフの俺の相手をしてくれる人がいるかも疑問だった。
とりあえず、貰えるかどうかはわからないが、村長にその旨手紙で書いて、同意書を同封した。
◇◇◇
「リリア!大変じゃ。シリルが魔力譲渡館に行くから同意書を書いて欲しいと手紙が来たぞ」
「何ですって⁈ ダメよ、絶対‼︎ 魔力なら、私がいくらでもあげますから!おじいちゃん、リル兄さんに夏休みは絶対帰ってきてと返事を書いて。同意書なんて破り捨てちゃってよ!」
そう。
私はリリアの中にいる。
……ううん、正しくは、私はリリアだったのだ。
あの時、リリアの身体に触れた瞬間、物凄い勢いで魂が取り込まれ、私は身体と魂がカチリとはまり込んだような感覚を覚えた。
その後は凄かった。
走馬灯のように、魂が刻んだ沢山の生の長い長い記憶が、無声映画のように流れていった(私が体に入って意識が戻るのに3日かかっていた)。その中で、子供を抱いた優しそうな旦那さんと寄り添う百合さんも見た。
百合さんは私の前世だけど、前世の百合さんがリル兄さんと恋をしたってことじゃない。
リリアとしての人格や記憶が身体に引っ張られて弱まっていたため、魂となっていた私が百合の性格と記憶を借りていたって事だと思う。
だから、メイベルでいた頃は百合さんの性格が多分に出ていたのだけれど、リル兄さんへの想いを自覚したあたりから、その性格は私のものに変化したように思う。
そんなわけで、間違いなくリル兄さんにプロポーズされたのは、百合さんではなく私だ!小さい頃から大好きだったリル兄さんは私のものよ!
よその女性から唾液をもらうなんて許さないからっ!
私は今すぐにでも、リル兄さんの元に行きたかったのだけど、何しろ三年も身体から離れていたものだから、魂との整合性が取れなくて、今はおじいちゃんの家に戻ってリハビリをしているのだ。
リル兄さんが来る夏休みまでには元に戻してみせるから。待っていて、愛しのリル兄さん!
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