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シリル君と会話ができるようになった。

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(アルフォレさんー!私の欲望ダダ漏れどうにかならないの~?これじゃあ生き恥晒してるのと同じじゃない)

〈お前さんの持つ魔力とわしの霊性、それから奴はエルフの血が入っているからみっつの相互作用でこう言うことが起きているのかもしれんな。お前さんの欲望はとくに恥ずかしい類いだから確かに困るのう。わしが少し意識して、テレパシーを妨害してやってもいいが、わしが眠っている時は知らんぞ〉

私はシリル君の部屋に戻ると、シリル君からできるだけ離れた場所で小さくなっている。

自分の思考が全部好きな人に漏れてしまうなんて生き地獄だ。どうにかしないとこの体にはいられない。

「ユリ……?まだ気にしているのかい?俺は全然気にしてないし、むしろ嬉しいくらいだから、そんなに離れないでくれないか?」

「キューン」

私は優しいシリル君にほだされて、つい側に行ってしまった。

「クゥーン」

あれ?今度は言葉が犬語になってしまった。せっかく意識疎通ができていたのに、これはこれで切ないな……。

「ユリ?話せなくなってしまったのか?……少し残念だな」

シリル君が私の頭を撫でながら言う。


〈わしがテレパシーを妨害しているからこうなっておる。お前さんが彼に伝えたい時は、そう念じながら話せば、それだけ伝わるからやってみろ〉

(シリル君、聞こえる?)

「ああ。今のは聞こえるよ」

(変態ぽいこと言ったけど、私のこと嫌いになってない?)

「匂いを嗅いで、舐め回すヤツのこと?こんな可愛い犬にされてもどうってことないから大丈夫だよ。耳は噛み切らないでくれたら助かるかな」

(イヤー!シリル君の意地悪っ!)

私はまた離れた場所で拗ねた。

「ごめんごめん、冗談が過ぎて悪かったよ。俺はどんなユリでも好きだけど、花や虫だと抱きしめられないから、その姿でいてくれると嬉しいよ。ユリ、どうやったら、機嫌直してくれる?」

(……じゃあ、ハグしてくれる?そしたら機嫌直ると思うから)

「お安い御用だ。……おいで。ユリ」

私はおずおずとシリル君に近寄った。

シリル君はそっと私を抱き上げて両腕に抱え顔を私の体に寄せるようにして抱きしめた。

(シリル君のハグ……やっぱり幸せだ~)

私は蕩けるような幸福感に、恥ずかしさも流れていくのだった。



◇◇◇


この日から、私は日中もテレパシーでシリル君と会話ができるようになった。アルフォレさんはすっかり影に徹してくれているようで、存在を感じさせない。用があれば、呼べば返事をしてくれる。

私がこの姿になって一番嬉しかったのは、シリル君と一緒のお布団で眠れることだ。

初めはシリル君が、私専用の寝床を作ってくれたのだけど、私が一緒に寝たいと頼んだのだ。

初日にシリル君に全身を洗われたのは恥ずかしかったけど、一緒に寝る条件として提示された事だから恥を忍んで洗われた。

やっぱり森の中にいたら汚れているし、ノミやダニがついていたらいけないから仕方ないよね。私も痒いのはイヤだし。

そして、花や虫の時にはできなかった一緒にご飯を食べる、一緒にお散歩に行くなど、シリル君と一緒に行動できる場面が増えて幸せだ。

もういっそこのままアルフォレさんが私に体を譲ってくれないかな~なんて考えていると、

〈それはダメじゃ。少し貸すだけだぞい〉

と返事が来てしまった。

やっぱり聞いているんだなぁ、私の思考全部。

私は複雑な気持ちにはなるが、なぜかアルフォレさんなら聞かれてもいいやと思うのだった。



◇◇◇


シリル君は私の世話もしながら学園に通い、勉強も頑張ってとても大変だったと思うけれど、やっと夏期休暇に入った。


「おはようユリ。今朝も暑いけど、散歩頑張れるか?」

(おはよう、シリル君。今日から学園が休みだし、もっとゆっくり寝ててもいいんだよ?私の散歩なら、もう少し遅くても大丈夫だから)

「いや、これからはますます地面が熱くなるからね。ユリの足の裏が火傷するといけないだろう?」

やっぱりどこまでも優しいシリル君。私なら大丈夫だと言いたいけれど、借り物の体だし、大事に使わせてもらわないとね。

(ごめんね、シリル君。犬って世話が大変だよね。こんなことなら花に移った方が良かったかな)

「いや、大丈夫だよ。俺犬が好きだし、この姿だからユリとこうやって会話ができるのだろう?今までの中では一番ユリと一緒にいられるからその姿は気に入っているよ。さあ、管理人さんに見つかると大変だから、この中に入っておくれ」

私はケージに入り、更に大きな布袋のバッグに入れられる。

「ユリ、苦しくないか?」

(大丈夫)

シリル君は私を抱えると、玄関を出て歩き出す。

玄関口を掃除をしていた管理人さんに出会ってしまい、「大きな荷物だね、何を積んでいるんだい?」と聞かれていたけど、シリル君はポーカーフェイスで「本を。友人宅で勉強をするので」と答えていた。

少し歩き、ポプラ並木の前で私は外に出された。一応他人に見られていいように首輪とリードを付けている。

シリル君も運動不足解消のため、一緒に走る。しばらく行くと、草むらを見つけた。私はリードを外してとお願いをする。

(シリル君、あっち向いてて?)

私は草むらに隠れてトイレを済ませる。犬でいるのはこういうのが苦労するのだ。シリル君は犬なのだから恥ずかしがらなくていいと言ってくれるけど、想い人の前で堂々と用足しなんてできないのだ。

はあ、早く私の元の身体見つからないかなぁ。でも、どうやって探せばいいのかすら分からなくて途方に暮れる。そもそもない可能性だってあるのだから。

こうして朝夕散歩に付き合ってもらい、その他はシリル君は勉強や研究に明け暮れている。

シリル君が、平民用魔具を開発するに当たり、高価な魔石の代わりになる力はないかと悩んでいたので、日本にいた頃の知識で、太陽や風力、水力みたいな自然にある力を利用できないのと聞いてみたら、この世界にはない考え方だったようで随分驚かれた。

電力の発生のメカニズムなんかを説明できたら良かったのだけど、ただのおばさんの記憶しかない私には無理だった。

けれどそこは優秀なシリル君だから、私のヒントだけでいろいろ仮説を立てて実験しているようだった。

すごい集中力で研究にのめり込むシリル君を、私は邪魔しないようにただ見守って過ごした。




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