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殿下&イスマイルの会話→ミレーユ→メイベル (視点がコロコロ変わってすみません)

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「イスマイル、お前、なかなかの演技だったそうだな。メイベルが感心しておったぞ」

「は、不肖ながら、殿下の恋愛成就の為、恥を忍んでやらせていただきました」

「メイベルは良い女だから、お前も乗ってやれたのだろう?俺にはミレーユがいるから婚約者にはできぬが、お前によく似合うのではないか?見目、性格が良いだけでなく、仕事ぶりも良い。お前の側に置いて、補佐をさせたらどうか?」

「なっ、何を仰います⁈ 俺はただ、殿下の御為だけにやった事。揶揄うのは止して下さい!俺の連れ合いは、まだ必要ありません」

「そうか?少し、顔が赤いのではないか?」

「殿下‼︎ …… 俺を揶揄っている場合ではございませんぞ。次は殿下こそ、メイベル嬢を気に入ったとお話になり、ミレーユ様を動揺させる番でしょう?俺たちの恥を無駄にしないで下さいませ」




◇ミレーユ視点◇


わたくしミレーユは、殿下に共に散歩をしようと誘われ、学園の裏庭へと続く廊下を歩いております。

わたくしが、婚約の要請を辞退したいとお伝えしてから、初めてのお誘いに、少し緊張してしまいます。

「ミレーユ。最近はお前のクラスのメイベルがいろいろ目立っているようだな。最近ではあの堅物のイスマイルまでが彼女をいたく気に入っておる。先日も揶揄ってやったら顔を赤うしおってな。私も彼女は気に入っているのだが……ミレーユは、生徒会の仕事も共にしているようだが、お前から見て彼女をどう思う?」

「はい、殿下。彼女は見目も素晴らしく、人前で話をするのも堂々としており華があります。そして以前は平民を見下しておりましたが、今は平民の同級生を友人としているようです。その事で、謗りを受けましても折れない強さを持っていますわ。生徒会の仕事も頼まれた事を十分にこなすだけでなく、プラスαを必ず付け足す見事さです。彼女ならば、良き殿下の婚約者になりましょうし、ご成婚の暁には、国民から支持される正妃となれる器だと思います」

私が彼女の評価を述べると、殿下の眉毛は苦しそうに歪んだ。

「……ミレーユ。それは本心から言っているのか?お前が好きだと言っている、この俺に、彼女を娶れと言うのか?」

ジークフリード殿下は悲しげに私を見つめる。

「……そんな顔を、なさらないで下さい、殿下。何度も申し上げましたように、わたくしなど、貴方様には釣り合わないのです。妻としても、正妃としても」

お願いです。私をそのような瞳で見つめないで下さいーー。

私は自分の姿を鏡に映すたび、貴方に似合わない女だと思い知らされて来ました。

笑顔のない表情、愛らしさのかけらもない面。瘦せぎすで女性らしさのない貧相な身体。レースやフリルをあしらったドレスが滑稽な程似合わない。しかも、昔の事件でわたくしの身体にまで傷がついてしまった……。

女としての価値がない、わたくしなどが貴方の妻になれば、世間から嘲笑されるのは殿下なのです。国民とて、見栄えの良い妃が良いに決まっています。

「わたくしは、殿下に忠誠を捧げることは致しております。学問等で殿下のお役に立てることがありましたら、存分にお使い下さればと思っております。どうか、それでお許しいただけませんか、殿下…… 」

「なぜだ?なぜ、そなたが私に釣り合わないと思うのだ?私は誰よりもそなたが可愛くて愛しい。そして努力家で優秀な頭脳を持ち、貴族としての良い面でのプライドを持っている。そなたが人の悪口を言っているのを聞いた事がない。これ程、我が妻に相応しく、我が国の妃に相応しい者などいないではないか」

やめて下さい、殿下……!
なぜそんなにも、わたくしを想って下さるのですか?こんなわたくしを昔から一途に……!

わたくしが、貴方の美しさの半分でも持てていたなら、わたくしだって、貴方のお側にいたかった!

けれど、今の気持ちで殿下のお側にいれば、いずれ独りよがりなコンプレックスが自分を惨めにし、それが殿下を苦しめる事になりましょう。

「申し訳ございません……!殿下、お許し下さいまし……!」

わたくしは、殿下の想いが嬉しいのに苦しくて、その場に居ることができずに駆け出してしまった。

「ミレーユ……!」

背後から殿下の声が聞こえたけれど、わたくしの足と涙は止まらなかった。




◇メイベル視点◇


「……すまぬ。ミレーユを嫉妬させるどころか、メイベルが良い妃になると勧められる始末だ。私はミレーユも、私と同じ気持ちでいると信じているのだが、だんだん自信がなくなってしまった……」

ジークフリード殿下は溜息をついて項垂れている。

その姿すら絵画のようなのだから、外見に自信のないミレーユ様の気持ちがわからなくもないけれど……。

でも、こんなにも殿下に慕われるミレーユ様が羨ましいとも思う。どうか、覚悟を決めて、殿下に寄り添ってもらいたい。

今日の話し合いも、殿下とイスマイル様、私とドロシー様、そしてなぜかまた、呼んでないアーサー様がついて来た。

(キャロライン様とシリル君は、殿下に呼ばれてもいないのに畏れ多いからとついては来ない)

イスマイル様が必死に殿下をお慰めしている中、ドロシー様が口を開いた。

「ですが殿下。殿下のお話では、ミレーユ様の、メイベル様に対する人物認識が良すぎますわね?挑発的に煽ったり、シリルさんやイスマイル様ともただならぬ関係を見せつけて、悪役令嬢で魔性の女を演出したつもりですのに」

確かに。いくら自分が身を引くからと言って、節操無しな女を好きな男性にあてがうはずがない。

私がそう考えていると、ドロシー様が続けて言った。

「やはり、もう少し、魔性度を上げないと、メイベル様が殿下に相応しくない令嬢だと思わせられないのかも……。アーサー様、なんとかなりまして?」

「ああ?つまり、俺とメイベルが、かなり深い仲だって思わせれば良いんだな?俺はメイベルが少しくらい身体に触れても大丈夫って言うならやれないこともないけどよ?どうする?」

アーサー様が私を見ながら言ってきた。

「ここまで来て嫌だって言っても仕方ないでしょう。頑張りましょうね、アーサー様」

私は肩を竦めて同意した。

「お前!必要以上な事はするなよ⁈ご令嬢に傷がつかない、ギリギリのところまでだ。一線を越えたら許さんぞ!」

イスマイル様が厳しくアーサー様に釘を刺してくれた。意外と女性に思いやりあるんだ、イスマイル様。

私がにこりとイスマイル様に笑顔を向けていると、アーサー様が怒ったようにイスマイル様に言った。

「そんなの分かってますって!だけど、なぜそんな事をイスマイル様から言われなきゃならないんです?もしや、メイベルを相手に演技して、本気になったんじゃないんでしょうね?」

イスマイル様は眉を釣り上げて憤慨した。

「馬鹿な事を言うな!俺の本気は殿下にだけ向けられているのだ‼︎ 殿下の幸せを見届けるまでは、惚れた腫れたは無しと決めているのだからな!」

……私、イスマイル様のキャラなんか好きかも……。やっぱりドロシー様と彼のお話作りたい……。もちろんお相手は殿下です……。

私は実は、読んだ事のないBL小説に思いを巡らせながらも、今度こそ、ミレーユ様に目覚めて欲しいと願っていた。


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