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不穏な足音〜シリル視点⑵
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毎日メイベル様が付いて来る。
俺が行くとこ行くとこ付いて来る。
俺の名を、嬉しそうに呼んでは付いて来る。
一度、トイレに行きたくて、やんわり付いて来ないでと伝えたところ、あからさまにしょんぼりとして可哀想になり、トイレに行くのだと言わざるを得なかった。
(恥ずかしかった)
◇◇◇
そんなメイベル様は、記憶喪失になってから、本当に人が変わってしまったようだ。
誰も俺と一緒にしたがらないクラス委員を引き受け、以前の仲間の中傷からも庇い、俺に土下座までして今までの行いを詫びてくれた。
正直、前の彼女から謝られた気がせず、俺は恨み辛みを吐く気など起きなかっただけなのだが、そのせいかメイベル様は俺を買い被ってしまわれたようだ。
俺と友達になりたいと言われ、嬉しく思ったが、現実を考えると無理な話だ。
身の程をわきまえずにいれば、必ず良からぬ事が起きると俺は本能的に感じていた。
蔑まれる存在の俺といる事で、今の可憐なメイベル様に迷惑が掛かるのは嫌だ。
だから関わらないでと忠告したのに、メイベル様は諦めないと言った。
それならやっぱりお前とは居たくないと言われるまで、この優しいメイベル様と過ごしてみたいと思ってしまった。
◇◇◇
そんなこんなで、メイベル様との和やかな日々が過ぎたある日。
その日の朝、俺はいつものように下宿先から歩いて学園に通っていた。
すると、門の手前でアンダーソン家の家紋が入った馬車が止まった。
「シリル君!おはようっ!」
そう言って、満面の笑みを讃えたメイベル様が馬車から飛び降りて来た。
まるで、天使が空から舞い降りて来たみたい。
「メイベルお嬢様!はしたのうございますよ‼︎ 」
馬車の中から侍女らしき人の叱咤が聞こえて来たが、メイベル様は気にもせず、俺の元にやって来た。
キラキラと光る双眸が俺を見つめる。
黒い宝石のように美しい。
「……メイベル様、あのように馬車から飛び降りたりしたら、足を挫いてしまいかねません。もう、危険な事はなさらないで下さい 」
俺がそう言うと、
「シリル君を見つけたら、嬉しくってつい。シリル君の言いつけなら、私、もうしないわ 」
そう言って破顔した。
俺はその顔に見惚れそうになり、咳払いをして歩き出す。
メイベル様は半歩後ろから付いて来る。その顔は、俺からは見えないのだが、きっと陽だまりのように暖かな笑顔を浮かべているに違いない。
そんな事を考える自分の顔も、つい緩んでしまう。
だが、そんな温かな時間は、学園の玄関で終わった。
やはり、俺の本能で感じた良からぬ事が起きてしまったのだ。
◇◇◇
下駄箱からシューズを取り出したメイベル様が、下履きを履き替えるでもなく立ち尽くしている。
「メイベル様、どうかしましたか? 」
俺はその手元にふと視線が行った。
「 ‼︎ 」
俺は思わず息を飲んだ。
メイベル様のシューズには、心無い落書きが山のように書かれていた。
〈悪趣味〉
〈はしたないご令嬢〉
〈誰でもOK、平民もOK〉
〈頭打ってオカシイ女〉
〈シリルとキス、気持ち悪~〉
〈エルフとエッチなことしてる〉
などなど……。
やはり、俺などと友達でいれば、こうなるのだ……。
「すみません、メイベル様。俺のせいでこんな…… 」
俺はどうしていいかわからず、それしか呟く事が出来なかった。
「 なんでシリル君が謝るの?シリル君は何も悪いことなんてしてないでしょ。謝らないでよ?ついでに言うと、私、こんな事くらいで、シリル君の友達やめないから、覚悟してね 」
メイベル様は不敵に笑って、落書きだらけのシューズを当たり前のように履いた。
俺が行くとこ行くとこ付いて来る。
俺の名を、嬉しそうに呼んでは付いて来る。
一度、トイレに行きたくて、やんわり付いて来ないでと伝えたところ、あからさまにしょんぼりとして可哀想になり、トイレに行くのだと言わざるを得なかった。
(恥ずかしかった)
◇◇◇
そんなメイベル様は、記憶喪失になってから、本当に人が変わってしまったようだ。
誰も俺と一緒にしたがらないクラス委員を引き受け、以前の仲間の中傷からも庇い、俺に土下座までして今までの行いを詫びてくれた。
正直、前の彼女から謝られた気がせず、俺は恨み辛みを吐く気など起きなかっただけなのだが、そのせいかメイベル様は俺を買い被ってしまわれたようだ。
俺と友達になりたいと言われ、嬉しく思ったが、現実を考えると無理な話だ。
身の程をわきまえずにいれば、必ず良からぬ事が起きると俺は本能的に感じていた。
蔑まれる存在の俺といる事で、今の可憐なメイベル様に迷惑が掛かるのは嫌だ。
だから関わらないでと忠告したのに、メイベル様は諦めないと言った。
それならやっぱりお前とは居たくないと言われるまで、この優しいメイベル様と過ごしてみたいと思ってしまった。
◇◇◇
そんなこんなで、メイベル様との和やかな日々が過ぎたある日。
その日の朝、俺はいつものように下宿先から歩いて学園に通っていた。
すると、門の手前でアンダーソン家の家紋が入った馬車が止まった。
「シリル君!おはようっ!」
そう言って、満面の笑みを讃えたメイベル様が馬車から飛び降りて来た。
まるで、天使が空から舞い降りて来たみたい。
「メイベルお嬢様!はしたのうございますよ‼︎ 」
馬車の中から侍女らしき人の叱咤が聞こえて来たが、メイベル様は気にもせず、俺の元にやって来た。
キラキラと光る双眸が俺を見つめる。
黒い宝石のように美しい。
「……メイベル様、あのように馬車から飛び降りたりしたら、足を挫いてしまいかねません。もう、危険な事はなさらないで下さい 」
俺がそう言うと、
「シリル君を見つけたら、嬉しくってつい。シリル君の言いつけなら、私、もうしないわ 」
そう言って破顔した。
俺はその顔に見惚れそうになり、咳払いをして歩き出す。
メイベル様は半歩後ろから付いて来る。その顔は、俺からは見えないのだが、きっと陽だまりのように暖かな笑顔を浮かべているに違いない。
そんな事を考える自分の顔も、つい緩んでしまう。
だが、そんな温かな時間は、学園の玄関で終わった。
やはり、俺の本能で感じた良からぬ事が起きてしまったのだ。
◇◇◇
下駄箱からシューズを取り出したメイベル様が、下履きを履き替えるでもなく立ち尽くしている。
「メイベル様、どうかしましたか? 」
俺はその手元にふと視線が行った。
「 ‼︎ 」
俺は思わず息を飲んだ。
メイベル様のシューズには、心無い落書きが山のように書かれていた。
〈悪趣味〉
〈はしたないご令嬢〉
〈誰でもOK、平民もOK〉
〈頭打ってオカシイ女〉
〈シリルとキス、気持ち悪~〉
〈エルフとエッチなことしてる〉
などなど……。
やはり、俺などと友達でいれば、こうなるのだ……。
「すみません、メイベル様。俺のせいでこんな…… 」
俺はどうしていいかわからず、それしか呟く事が出来なかった。
「 なんでシリル君が謝るの?シリル君は何も悪いことなんてしてないでしょ。謝らないでよ?ついでに言うと、私、こんな事くらいで、シリル君の友達やめないから、覚悟してね 」
メイベル様は不敵に笑って、落書きだらけのシューズを当たり前のように履いた。
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