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古から愛し合うふたつの魂〜アレクシス視点

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カスミとの穏やかな日々をかき乱す、小さな嵐のような姫君がやって来た。

私の仮面をいきなり取りあげ、醜いと言って笑ったのだが、私は案外憎めなかった。

私の素顔を見て、笑っていられたのは、異世界人のカスミを除けば初めての女性だからだ。

この顔を見ても夫になれと言われ、正直悪い気はしなかった。

だがもちろん、私にはカスミ以外に愛せる女性などいない。

なんとか穏便に帰っていただかなくてはと、私には婚約者がいて、式も近いうちにあげる手筈もついている、と言ったのだが、姫君はあろうことか、婚約者であるカスミに、兄君に嫁げば良いと言ったのだ。

今まで男前に靡かぬカスミだが、案外私と同類の不細工には心が動いてしまうやもしれぬ。

そう思うと決して隣国にカスミを取られてなるものかと対策を急いだ。

まずは国王である父上に至急の手紙を送った。姫君の意思は、リンドル国の意思であるのか確認する必要があった。

姫君の個人的な酔狂ならばいいのだが、隣国の意思であるとすれば、姫君が私を夫にしたいと言うよりは、カスミをリンドル国の王子にもらいうけるために、婚約者の私を姫君に当てがって来た可能性が否めない。

そうだとすれば、やっかいな話になる……。


そう案じていた私だが、翌日からの姫君の態度で、恐らく隣国の意思ではなかろうと予測できた。

なぜなら姫君は、私をカスミから引き離すため、当てがってきた女とは思えない姫君だったからだ。

色恋など無縁そうな、剣の魅力に取り憑かれた姫君は、わがままに見えるが、実はただの天真爛漫な子供なのだ。

隣国の陰謀なら、私を籠絡させるため、もっと妖艶な女を用意するだろうと思えた。

そんなわけで毎日剣の修行に付き合っていただけなのだが、そのおかげでカスミへの邪なモヤモヤを解消できている事に気付いた。

愛らしく美しいカスミが傍にいてくれると、嬉しいばかりだった自分が、カスミに触れて以来、手を伸ばしそうになり、堪えるのに苦労するようになっていたのだ。

それでつい、カスミへのフォローがおざなりになっていたのだが、そのことが、カスミに大きな変化をもたらすとは思いもしなかったーー。


カスミは以前、私を大切で他とは替えが効かない必要な存在だと言ってくれた。そしてただ傍にいさせて欲しいと願った。だが、その感情が、恋なのか、愛なのかわからないとも言っていたのだ。

おそらく、敬愛とか、執着とかに近かったのではなかろうか。

だが、身近に私を求める女性が現れた事で、カスミに大きな変化をもたらしたようだ。

姫君に嫉妬し、私を独占したいと願い、愛を理解したカスミは、まるで
蕾だった花が美しく開花したかのように、私の目の前で、匂い立つようにその魅力を放ったのである。

「私のアレクシス様でないと嫌なんです、愛しているんです」と言ったのを聞いた時は、目眩がした。

このまま、感情の昂りと共に、カスミをかき抱いて、私のものにする事が出来ればどんなに幸せだろう。

いまにも手を伸ばしそうになるのを今まで鍛えた精神力でグッとこらえた。今はまだ、その時ではないと。

カスミを初めて抱いていいのは結婚式の後の初夜だけだ。

私は誤解を晴らすために、勢いで済ませてはならないとただ甘い辛苦に耐えるのだった。

ーーー

その翌日、父上から書簡が届いた。
予測していた通り、隣国との事は心配いらないと分かった。

それよりも驚いたのは、書簡の後半の内容だ。

私は自分が先祖帰りで醜いのだという事と、醜く生まれた王子は神力を宿すものが多いという事、異世界から時折稀人がやって来ることくらいしか教えられていないのだ。

稀人に関しては、そのほとんどが秘匿されているためだ。

私の神力というのは、禁足の地に侵入する者があれば察知できる能力と、剣を振るう際に、常人より先に剣の流れが読める能力、運動能力、記憶力、理解力など一通り他より優れていることも力の影響だと考えている。

最近分かったのは、カスミが危機に晒されると感知できる能力だ。

それら全てが、初代国王ラインハルトより伝わる力らしい。

そしてラインハルトの妻が異世界からの稀人であり、醜くかった彼を支えたのだろう。彼を強く愛した紫ーユカリーが、彼の生まれ変わりがある時は、相応しい女性を異世界から送り込んできているというのだ。

これはあくまでも国王である父上の仮説であるから真実はわからない。
だが、この世に亡き後も、初代国王ラインハルトの魂と、紫の魂が今でも愛し合い、私たちを見守っているのかもしれないのだーー。


ーーー

それを知った夜、私は夢を見た。

カスミの姿をした、けれどカスミではない女人が、私を妖艶にいだく。

(私の愛しいラインハルト……。可愛いラインハルトの生まれ変わりよ、幸せにおなり……)

そう囁きながら、私の額に口付けたーー。


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