貴方がいるから大丈夫〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

アレクシス様が奪われてしまう

サンドラ姫は、まるで自分の王宮で暮らしているかのように尊大に振る舞い、注文をつけて来るので、私は使用人とともに走り回って働いていた。

マリーさんは「稀人様であるカスミ様がこのように使われてしまうなど、わたくし悔しくてたまりませんわ！」と興奮気味に言ってくる。

「そうは言っても、普段からギリギリの人材しかいないのだから、私も働かないと間に合わないでしょ」

私は肩をすくめながら手を動かす。

今はサンドラ姫がご所望の芋料理を作るために、皮むきをしているのだ。

「ですが、サンドラ姫はカスミ様の婚約者である旦那様を夫にと宣言しているのでしょう？言わば恋のライバルではありませんか。芋の皮むきなどしている場合ではございませんわ」
マリーさんは納得いかない顔で反論した。

「そうは言ってもねぇ、隣国の王女様だもの。格下のアレクシス様からはっきりお断りすれば、国際問題に発展しても困るじゃないですか。だからアレクシス様も王宮に急ぎ手紙を出して、王様から隣国の王様に今回の意図を尋ねていただくよう手配したのよ。お返事が来るまでは、やんごとなきお方をおもてなしするしかないの」


あの後、アレクシス様は、サンドラ姫にはっきりと、私が婚約者であり、近いうちに結婚式を挙げる段取りもついていると仰ってくれたのだ。

けれどサンドラ姫は私をジロジロ見た後、「確かに見目は良い。が、それだけであろう？我と夫婦になれば、強国のリンドルと縁が繋がるのだぞ」

そう言った後、私に向かってこうのたまったのだ。

「カスミとやら。お前、不細工好きなのなら、我が兄君の元へ嫁げば良い。兄君も稀人で美女のそなたが妻になるなら大層お喜びになるであろう」

不細工好きって……。
Ｂ専じゃないわよ、私……。
でも、この世界でそれなりの不細工らしい隣国の王子様は、ちょっとだけ見たい気もするけれど……。

まあ、完全なる美貌のアレクシス様には敵わない事ははっきりしているわね。


私はそんなことよりも、この世界でアレクシス様のお顔を受け入れられる女性が、私の他にもいる事に動揺していた。

（容姿を受け入れられるなら、中身が素晴らしいアレクシス様を知って、サンドラ姫は本気になってしまうかもしれない。アレクシス様が奪われてしまう！）

マリーさんには冷静に振舞いながらも、心で動揺してしまう私だった。