貴方がいるから大丈夫〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

嵐のような王女

ある日突然、私の平穏は崩れ去った。


「我はリンドル王国から参った第２王女のサンドラだ。アレクシス・ローランドを呼んで参れ」

豪奢な馬車から降り立ったその王女は、不敵な笑みを浮かべていた。

それを迎えた執事のセバスさんは、いつものポーカーフェイスを貫くので必死だった。

「こ、これはこれは……。すぐに我が主人を呼んで参りますので、客間でお待ちいただけますか」

セバスさんは、マリーさんにお茶をお出しするよう素早く指示を出すと、急ぎ足で私たちの元へやって来た。

「旦那様、大変でございます！」

珍しく息を切らせたセバスさんが言った。

私とアレクシス様は、アレクシス様のお部屋でふたり並んでソファに座り、まったりと本を読んでいるところだった。

「どうしたんだ、セバスらしくもなく慌てて」

領地経営の関連書物を読んでいたアレクシス様は本を膝に下ろして問うた。

「それが、何の前触れもなく、隣国のリンドル王国から第２王女のサンドラ姫がお越しになったのです。旦那様をご所望とのことです」

私とアレクシス様は思わず顔を見合わせた。

「とにかく、お待たせしていい相手ではない。すぐに行く」

アレクシス様が立ち上がったので、私も一緒に付いていく事にした。


ーーー


「大変お待たせ致しまして、申し訳ございません、サンドラ姫。私がここの主人のアレクシス・ローランドにございます」

アレクシス様は片膝を付き、右手を左胸に当て、恭しく挨拶をした。
私も両膝を付いて、右に習った。

サンドラ姫はスクとソファから立ち上がり、アレクシス様の前に立った。

「面を上げよ、アレクシス」

仮面を被ったアレクシス様は、片膝をついたままで顔を上げた。

「…… ‼︎  な、何をなさいます！姫君 ‼︎ 」

アレクシス様の焦った声に、私も顔を上げてしまった。

なんと、サンドラ姫は、アレクシス様から仮面を剥ぎ取ってしまったのだ。

サンドラ姫は一瞬目を見開き、大きな声で笑った。

「ハハハハハハハ！これは聞きしに勝る醜さよのう！不細工な我が兄君にも勝る有様じゃ！」

私達は何が起こっているのか困惑していると、サンドラ姫はニヤリと片方の口角を上げて言った。

「気に入った。アレクシスよ、お前、我が夫になれ！」

私とアレクシス様は顔を見合わせて、ただ呆けてしまった。

燃えるような赤髪に、赤褐色の瞳のサンドラ姫は、長い髪をかき上げながら言った。

「我は当面ここで過ごす。すぐに部屋を用意致せ」