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平民のヒーロー

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私たちは、軽く朝食をとってから、公爵家の馬車に乗り込んだ。

今日は堅苦しい場所には行かないとの事で、お互いラフでシンプルな装いをしている。


10分も乗った辺りで広い公園が見えて来た。

「カスミ、少し公園を歩かないか?
……手を繋いで散歩するんだろう?」

「行きます!連れてって下さいアレクシス様!」

(こないだ言った、欲望ダダ漏れリクエストを覚えてくれてた!嬉しい~)

馬車には帰ってもらい、夕暮れにまた来てもらう事になった。

ふたりで芝生の上をゆっくり歩く。

公園にはたくさんの人々がいる。貴族もいるが、平民も多いみたいだ。

「あーっ、気持ちいい!外の空気は解放感でいっぱいです!」

私は子供のようにはしゃいでしまう。


「親子連れが多いですね。私も何年か後には、アレクシス様と、可愛い子どもと三人で来ているかもしれませんね……」

私は脳内妄想を膨らませてうっとりする。

「可愛い奥さんに似た、女の子だといいな」

アレクシス様は目を細めて言った。

「あら、私はアレクシス様に似た男の子も欲しいですよ?すっごく可愛いでしょうね!」

アレクシス様は少し視線を落として言った。

「私に似れば、苦労するだろうから複雑な気持ちになるな…… 」

「大丈夫です、アレクシス様!私たちが溢れる程の愛情を注いで育てれば、きっと愛される人になりますよ!絶対大丈夫!」

「カスミが言えば、本当にそんな気になるから不思議だな」

私たちはそれぞれの思いに耽りながら、歩いていた。

「仮面の旦那!おはようごぜえやす!」

後ろからふいに、声をかけられた。

振り返ってみると、1組の親子が立っていた。

20代後半くらいの男性と、20代前半くらいの女性。そして、可愛い女の子だ。

「やっぱり仮面の旦那だ!先日は俺たちの娘を救ってくれて、本当にありがとうごぜえやした!……お隣のベッピンさんは、コレで?」

男性は小指を立ててニヤリと口角を上げた。

「あ、ああ。まあな」

アレクシス様は戸惑いながらも答えた。

「さすが旦那だ!すげえ上玉じゃありやせんか!やはり、良い男には良い女が寄って来るんすね‼︎  」

平民のご家族みたいだ。アレクシス様が女の子を助けたのかな。

私はアレクシス様の隣でその様子を見ていたが、
小さな女の子が手に持っているクローバーをアレクシス様に向けているのに気づいた。

「アレクシス様、可愛いレディから贈り物があるようですよ?」
私が言うと、

女の子は、「ん、」と手を伸ばしている。可愛い~

アレクシス様は女の子の頭を撫でて、「レディ。どうもありがとう」
と言ってクローバーを受け取った。

女の子のお母さんはにっこり微笑んで、「ミナ。良かったわね~仮面の旦那様に撫でてもらえて。きっと良い事があるわよ~」と嬉しそうにしている。

「じゃあ、旦那、そろそろデートのお邪魔をしてもいけねえんで、俺らはここら辺で失礼しやす」

夫婦はペコリと挨拶をし、女の子は手を振って遠ざかって行った。

その後も何人かの平民に声をかけられたのだが、みんなアレクシス様に好意的な態度だった。

「アレクシス様ってば、平民のヒーローなんですね!私、また惚れ直しました‼︎  」


実は、外でデートするに当たって、少しだけ心配していた事があるのだ。

アレクシス様が仮面を被っている事で、へんな目で見られたり、心無い中傷にさらされやしないかと。

もちろん私はそんなこと気にはしないけれど、アレクシス様が傷つくんじゃないかと心配だったのだ。

「平民は貴族ほど、私の仮面を気にしないようだからな。騎士団の仕事で外回りをしているし、領地視察もしているから慣れているんだろう」
アレクシス様は謙虚にそう言った。

「アレクシス様がみんなを守ってくれて、良い人だって知っているんですね。私、そんなこと少しも知らなくて、今日知ることができて、とても嬉しいです。連れて来てくれてありがとうございます」

良かった。辛いばかりのアレクシス様の人生じゃなかった。わかる人にはわかってもらえてるんだよね!

これからもっと、アレクシス様がたくさんの人から愛されるように、私も頑張りたい、と強く思った。


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