10 / 24
平民のヒーロー
しおりを挟む私たちは、軽く朝食をとってから、公爵家の馬車に乗り込んだ。
今日は堅苦しい場所には行かないとの事で、お互いラフでシンプルな装いをしている。
10分も乗った辺りで広い公園が見えて来た。
「カスミ、少し公園を歩かないか?
……手を繋いで散歩するんだろう?」
「行きます!連れてって下さいアレクシス様!」
(こないだ言った、欲望ダダ漏れリクエストを覚えてくれてた!嬉しい~)
馬車には帰ってもらい、夕暮れにまた来てもらう事になった。
ふたりで芝生の上をゆっくり歩く。
公園にはたくさんの人々がいる。貴族もいるが、平民も多いみたいだ。
「あーっ、気持ちいい!外の空気は解放感でいっぱいです!」
私は子供のようにはしゃいでしまう。
「親子連れが多いですね。私も何年か後には、アレクシス様と、可愛い子どもと三人で来ているかもしれませんね……」
私は脳内妄想を膨らませてうっとりする。
「可愛い奥さんに似た、女の子だといいな」
アレクシス様は目を細めて言った。
「あら、私はアレクシス様に似た男の子も欲しいですよ?すっごく可愛いでしょうね!」
アレクシス様は少し視線を落として言った。
「私に似れば、苦労するだろうから複雑な気持ちになるな…… 」
「大丈夫です、アレクシス様!私たちが溢れる程の愛情を注いで育てれば、きっと愛される人になりますよ!絶対大丈夫!」
「カスミが言えば、本当にそんな気になるから不思議だな」
私たちはそれぞれの思いに耽りながら、歩いていた。
「仮面の旦那!おはようごぜえやす!」
後ろからふいに、声をかけられた。
振り返ってみると、1組の親子が立っていた。
20代後半くらいの男性と、20代前半くらいの女性。そして、可愛い女の子だ。
「やっぱり仮面の旦那だ!先日は俺たちの娘を救ってくれて、本当にありがとうごぜえやした!……お隣のベッピンさんは、コレで?」
男性は小指を立ててニヤリと口角を上げた。
「あ、ああ。まあな」
アレクシス様は戸惑いながらも答えた。
「さすが旦那だ!すげえ上玉じゃありやせんか!やはり、良い男には良い女が寄って来るんすね‼︎ 」
平民のご家族みたいだ。アレクシス様が女の子を助けたのかな。
私はアレクシス様の隣でその様子を見ていたが、
小さな女の子が手に持っているクローバーをアレクシス様に向けているのに気づいた。
「アレクシス様、可愛いレディから贈り物があるようですよ?」
私が言うと、
女の子は、「ん、」と手を伸ばしている。可愛い~
アレクシス様は女の子の頭を撫でて、「レディ。どうもありがとう」
と言ってクローバーを受け取った。
女の子のお母さんはにっこり微笑んで、「ミナ。良かったわね~仮面の旦那様に撫でてもらえて。きっと良い事があるわよ~」と嬉しそうにしている。
「じゃあ、旦那、そろそろデートのお邪魔をしてもいけねえんで、俺らはここら辺で失礼しやす」
夫婦はペコリと挨拶をし、女の子は手を振って遠ざかって行った。
その後も何人かの平民に声をかけられたのだが、みんなアレクシス様に好意的な態度だった。
「アレクシス様ってば、平民のヒーローなんですね!私、また惚れ直しました‼︎ 」
実は、外でデートするに当たって、少しだけ心配していた事があるのだ。
アレクシス様が仮面を被っている事で、へんな目で見られたり、心無い中傷にさらされやしないかと。
もちろん私はそんなこと気にはしないけれど、アレクシス様が傷つくんじゃないかと心配だったのだ。
「平民は貴族ほど、私の仮面を気にしないようだからな。騎士団の仕事で外回りをしているし、領地視察もしているから慣れているんだろう」
アレクシス様は謙虚にそう言った。
「アレクシス様がみんなを守ってくれて、良い人だって知っているんですね。私、そんなこと少しも知らなくて、今日知ることができて、とても嬉しいです。連れて来てくれてありがとうございます」
良かった。辛いばかりのアレクシス様の人生じゃなかった。わかる人にはわかってもらえてるんだよね!
これからもっと、アレクシス様がたくさんの人から愛されるように、私も頑張りたい、と強く思った。
24
お気に入りに追加
1,185
あなたにおすすめの小説
ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人
花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。
そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。
森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。
孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。
初投稿です。よろしくお願いします。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。
花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。
フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。
王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。
王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。
そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。
そして王宮の離れに連れて来られた。
そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。
私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い!
そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。
ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。
気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。
sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。
気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。
※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。
!直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。
※小説家になろうさんでも投稿しています。
美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。
美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!
エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。
間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
女忍茜、西洋風異世界へ行く〜強面元騎士のお嫁様になります
花野はる
恋愛
悪の組織の依頼により、巫女姫の暗殺を命じられた女忍茜。
彼女は良心から任務を遂行できず、抜け忍となった。
仲間だった忍たちからの追撃に逃げ場をなくし、茜は激流の中へ身を投げた。
巫女姫の力により異世界へ飛ばされた茜は、強面で巨漢の元騎士と出会う。
この世界では、彼のようなタイプは女性から恐れられ、敬遠される存在だが、小柄で細身の忍ばかり見て来た茜は元騎士の男らしい容姿に見惚れてしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる