上 下
3 / 24

フィリップ・ハント公爵の来訪

しおりを挟む
「それじゃあ、行って来るよ」

アレクシス様は仕事にお出かけです。

「はい。……アレクシス様、おまじないをさせて頂いても?」

「あ、ああ」

ちょっと恥ずかしそうに、アレクシス様は左手を差し出して来た。

私は両手でその手を包み、おまじないを唱える。

「今日もどうかご無事で私の元に帰って来られますように」

そして、手の甲に軽いキスをして離した。

本当は、お出かけのキスをほっぺにして差し上げたいのだけれど、仮面を被っていらっしゃるのでかなわない。だから、手の甲で我慢だ。

「ありがとう。行って来る」

アレクシス様はお礼を言って、早速と歩いて行った。

私は姿が見えなくなるまで見送った後、マリーさんに話しかける。

「マリーさん、今日はミルシェさんが来てくれる日ですよね?」

「はい。もう半時ほどで来られるかと」

「それじゃあ、マリーさん。振袖を出しておきたいのだけれど、手伝ってもらえますか?」

「ええ。もちろんですわ」



◇◇◇


「まあ!なんて美しい衣装なのかしら!わたくし、このような生地は初めて見ましたわ。それに、このように華やかな絵柄や色使いも。素晴らしい民族衣装ですわねぇ。これなら結婚式に相応しい華やかさを演出できますわ」

ミルシェさんは振袖を見て大興奮している。美を追求する仕事柄、新しい物には目がないようだ。

「問題は帯なんです。着物自体はなんとなく着方が分かるのですが、帯はさっぱりわからなくて」

とりあえず着てみると、何となくそれらしく着られたのだけれど。

このまっすぐな帯が蝶のような形になったり四角く膨らんだりする不思議。ご先祖様の知恵って、ほんとすごいと思う。

私はミルシェさんの腰を借りて、帯をいろいろ折ってみるけどなかなか上手くいかない。

その内マリーさんも加わって、代わる代わる腰を変えてあーでもない、こーでもないと研究に耽っていた。


そろそろ三人とも煮詰まって、休憩にしようかとなった頃、ノックが鳴りセバスさんがやって来た。

「カスミ様……。カスミ様に客人が来られているのですが……。事前に旦那様の許可を取っていない方はお断りするところなんですが……」

セバスさんは困惑したように言う。

「簡単にお断りできないような、高貴な方なんですね?」

私は察してセバスさんに尋ねた。

「はい……いかがいたしましょう……」

「どういったお方なんですか?」

セバスさんは説明してくれた。

来訪者はフィリップ・ハント公爵という。

公爵というだけあり、王家に連なる遠縁筋に当たるそうで、大変な美丈夫なのだそう。議会の中でも権力を誇り、今をときめくお方なのだとか。

そんなお方が、なぜ私に会いに来られたのかしら?っていうか、大変な美丈夫と聞いた辺りから、嫌な予感しかしないのだけれど……。

「……仕方ないですね。会って、御用向きだけでもお伺いしましょう」

「しかし……未婚の男性と会うなど、旦那様が後で何と言われるか………」

「無碍にお帰り頂いたなら、アレクシス様にご迷惑がかかるかもしれません。セバスさんとマリーさんが一緒にいて下さるなら、ふたりきりということもないので大丈夫でしょう」

私は一抹の不安を抱きながらも、アレクシス様の妻になる身、この位の対応はできなければと自分に言い聞かせた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

王宮の片隅で、醜い王子と引きこもりライフ始めました(私にとってはイケメン)。

花野はる
恋愛
平凡で地味な暮らしをしている介護福祉士の鈴木美紅(20歳)は休日外出先で西洋風異世界へ転移した。 フィッティングルームから転移してしまったため、裸足だった美紅は、街中で親切そうなおばあさんに助けられる。しかしおばあさんの家でおじいさんに襲われそうになり、おばあさんに騙され王宮に売られてしまった。 王宮では乱暴な感じの宰相とゲスな王様にドン引き。 王妃様も優しそうなことを言っているが信用できない。 そんな中、奴隷同様な扱いで、誰もやりたがらない醜い第1王子の世話係をさせられる羽目に。 そして王宮の離れに連れて来られた。 そこにはコテージのような可愛らしい建物と専用の庭があり、美しい王子様がいた。 私はその専用スペースから出てはいけないと言われたが、元々仕事以外は引きこもりだったので、ゲスな人たちばかりの外よりここが断然良い! そうして醜い王子と異世界からきた乙女の楽しい引きこもりライフが始まった。 ふたりのタイプが違う引きこもりが、一緒に暮らして傷を癒し、外に出て行く話にするつもりです。

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!

エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。 間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

女忍茜、西洋風異世界へ行く〜強面元騎士のお嫁様になります

花野はる
恋愛
悪の組織の依頼により、巫女姫の暗殺を命じられた女忍茜。 彼女は良心から任務を遂行できず、抜け忍となった。 仲間だった忍たちからの追撃に逃げ場をなくし、茜は激流の中へ身を投げた。 巫女姫の力により異世界へ飛ばされた茜は、強面で巨漢の元騎士と出会う。 この世界では、彼のようなタイプは女性から恐れられ、敬遠される存在だが、小柄で細身の忍ばかり見て来た茜は元騎士の男らしい容姿に見惚れてしまう。

処理中です...