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俺は貴女に何を返せばいいですか

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話が済んで、今は奥様と俺のふたりきりだ。俺の部屋へ案内してくれている。
俺はさっきの会話で気になっていた
事を言う事にした。
「奥様、あの、昨夜の事ですが……俺は決して貴女を振った訳ではありません。もし、傷つけてしまったなら、申し訳ありません」
俺は、俺のような者で初めてを経験して欲しくなかっただけで……。

奥様は少し目を見開いて、静かに微笑んだ。
「……レン、ごめんね。私、あなたが奴隷でいるなんて絶対嫌だったのに、奴隷のあなたを買ってしまった。奴隷じゃなくなったら、あなたはきっと私を抱いてくれないと思ったから、一度だけと思ったのだけど。あんな要求をして、あなたが嫌な思いをするって、考えればわかるはずだったのに。こんな私だから、断られて当然よ」

「奥様、俺は嫌なんかじゃなかったですよ……  」
そうだ。奥様が求めてくれるなら、今すぐにだって優しく抱いてあげたい。

だが奥様は旦那様の奥様で、俺は助けてもらったただの平民だ……。言葉に出来ない思いが胸を締め付けた。

「ん。わかった。ありがとう、レン」
奥様は、にっこり笑ってそれだけ言った。



「レン。着いたよ。ここがあなたのお部屋。私の隣だから、何か用事があったり、困った事があったらいつでも訪ねて来ていいからね。移動で疲れたでしょうから、少し休むといいわ。夕食ができたら呼びに来るね」

そう言って去って行こうとした奥様を、思わず引き止める。

「奥様……!なぜ、貴女はここまで俺にしてくれるんですか?俺は貴女に、何を返せばいいんですか……?」

これだけの恩を、どうやって返せばいいのかわからない。

少し翳りのある笑顔で、奥様は言った。
「私に恩など感じる必要はないわ。私はあなたに幸せになって欲しいだけ。あなたがこれからすることは、自分で考えて、自由に選んだらいいの。そのための手伝いが必要なら、いつでも私を頼って」

そう言って去って行った。


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