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アーネストの面接

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護衛たちとは玄関前で別れ、俺とマリアーヌ様はグラント侯爵家の中に入った。

執事らしき者が出迎える。
「お帰りなさいませ、奥様」

「ただ今、ロイ。彼はレンよ。今日から私の従者をするからよろしくね」

執事はチラッとこちらを見て、
「かしこまりました」と頭を下げた。

俺は作法とか分からないから、
「よろしくお願いします」とだけ挨拶した。

「アーネスト様はどちらに?」
マリアーヌ様は執事に問う。

「自室にいらっしゃるかと思います」

「わかったわ。レン、一緒に来て」

そうして二階の部屋まで連れられて行った。

マリアーヌ様が扉をノックすると中から「どうぞ」と声がした。

中に入ると俺より少し年上らしいエリートっぽい男がいた。

「アーネスト様。ただ今帰りました。彼がレンです。今後、私の従者として旦那様のお世話を手伝ってもらおうと思います」

マリアーヌ様は俺に向かって男を
紹介した。
「レン。こちらはアーネスト様。夫のスペンサー様の甥御様で、グラントを継ぐ方です」

「レンです。よろしくお願いします」
俺が挨拶すると、アーネスト様は鋭い視線で俺を見た。

「なるほど。美しい男だな。マリアーヌが気に入ったのが納得だよ」

「はい。レンは美しいだけじゃありません。旦那様のお世話をするに値する人間性を持っています」

マリアーヌ様はほんの一晩俺といただけなのに、そんなことを言って大丈夫なのか?いや、俺は悪いことなどしないのだが。

そんなことを考えながら立っていると、アーネスト様は言った。
「彼は私が叔父さんに紹介するよ。マリアーヌは席を外していてくれ」

「えっ、でも…… 」

マリアーヌ様は言い淀んだが、
「わかりました。アーネスト様にお任せします。レン、大丈夫だからね。お話が済んだら、部屋に案内するからね」と言って退室した。


「さてと。叔父に紹介する前に、少し尋ねておきたい事がある。そこへ座りたまえ」

アーネスト様に言われた通り、ソファに座る。
まあ当然、調査されるよな。夫人のお気に入りってだけでは、高位貴族の使用人にはできまい。

俺は何を聞かれるのか緊張して待った。

「レン、と言ったか。君の経歴を聞かせてくれ」

「はい。俺は貧民の出で、10歳の時、父を亡くしました。貧しかったので、母の元にいられず、伯爵様のお館で下働きをしました。13歳の時、奴隷になって、奴隷商館に来ました。そこでは労働奴隷と性奴隷をしていました」

包み隠さず全て正直に話す。
俺は蔑まれても、自分に与えられた仕事を真面目にしただけだ。何も恥じることはないと思っている。
まっすぐアーネスト様を見て話した。

アーネスト様は尚も鋭い表情で俺を見ている。

「性奴隷をしていたらしいが、懇意にしている女性はいるのか?」

「いいえ、いません。仕事の付き合いだけです」

「好きな女は?」
一瞬、マリアーヌ様が思い浮かんだが、とんだ身分違いだと打ち消す。

「いません」
俺がそう答えると、アーネスト様は頷いて次の質問をした。

「伯爵家で働いていたのに、なぜ、奴隷になったのだ?」

一瞬言い淀んでしまったが、これも正直に答える。

「伯爵家のご令嬢と仲良くしてしまい、罰として奴隷にされました」

「お前から誘ったのか?」

俺は少し考えてから答えた。
「当時、俺は一番年が若い下働きで、仲間からよく嫌がらせを受けていました。お嬢様がそれを助けて下さって、気にかけて下さるうち、時々会うようになったのです」

「それでは、その令嬢が誘ったのだな。そのせいで君は奴隷に落とされる事になったのだから、とんだ災難だったね。その令嬢をさぞ憎んでいるだろうね?」

「いいえ、とんでもないです。俺はお嬢様が時々無事な顔を見せて欲しいと言ってくれたけど、身分違いだとわかっていたので会いにいきませんでした。だけど、俺の母親が危篤だと知らされ、責任者に頼んでも会いに行かせてもらえなくて、悲しくて、つい、お嬢様に会いに行ってしまったんです。お嬢様は一緒に行こうと言って下さって、ひとりでは勇気が出なかったけど、お嬢様のおかげで母を看取る事ができました。
お嬢様には感謝しても憎むなどあり得ません。その後も母を亡くした悲しみから、お嬢様に会いに行ってしまいました。でも、近いうち見つかる事は覚悟していました。もう家族も誰もいないから、処刑されてもいいと思っていたのです」

そこまで言って、小さくため息をつく。
「けれど、あの時、殴られそうな俺を庇って、殴るなら自分を殴れと言って泣いたお嬢様が忘れられません。俺と関わったばかりに、可哀想な事をしました」

アーネスト様はそこまで聞くと、ニヤリと笑んで、「合格だ」と言った。


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