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貴婦人に買われた

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朝、俺が目覚めると、隣で包み込むような優しい眼差しで見つめるマリアーヌ様がいた。まるで聖母のような微笑みで、「おはよう、レン」と言った。

そうだ、昨夜は一晩中、この貴婦人に買われたのだった。そしてハッとする。性奴隷としての役割を果たせなかったのだ。通常の3倍も金を払ってくれた客人に。

「マリアーヌ様、私は、貴女様のご要望にお応えできませんでした。大変申し訳ありませんでした」

慌ててベッドから降りてひれ伏そうとしたら、腕を掴まれて「やめて」と言われた。

「それよりね、レン。私、貴方と一緒に朝ごはんが食べたいの。追加料金払うから頼んで来てくれる?それからここの責任者に話があるから、呼んで来て」

マリアーヌ様はそう言って微笑んだ。

何だ?責任者って。
俺が命令に反した事を咎められるのだろうか?でも、そんな表情には見えなかったが。

けれど、3倍も金を払ってもらって、キスのひとつもしなかったのだ。私から主に話して、この貴婦人に金を返金して貰おう。後できつい罰を食らうだろうが、仕方ない。

俺はため息をついて部屋を出た。


朝食は久しぶりに食べた。
パンにスープ、サラダにベーコンエッグと軽いものだった。

マリアーヌ様はにこにこしながら「レンと食べると、すごく美味しい」と言った。なんなんだろう、この感じ……。戸惑う。

しばらくして主とバロンが来た。
主は手を揉みながら恭しく挨拶をした。
「おはようございます、マダム。
あの~、うちの奴隷が何か粗相でも致しましたでしょうか?」バロンが鞭を持ってこちらを睨んでいる。

俺は先に言ってしまおうと、口を開いた。
「主、申し訳ありません。大切なお客様のご要望にお応えできませんでした。どうか、お金をお客様に返して差し上げて下さい」

「53番!貴様っ‼︎ なんてことを」
バロンが鞭を振り上げた。

「おやめなさい!」

凛とした声が響き、バロンはそのまま固まった。

「レンを傷つける事は、私が許しません。責任者はあなたですか?」

あの可愛らしかったマリアーヌ様が、気高い貴婦人になって場を制した。

「は、はい。バロン、手を下げなさい」

主は冷や汗をかきながら低頭した。
バロンも青い顔をして鞭を下ろした。

「レンは今から私が連れて帰ります。手続きをすぐにしてください。
それから、まともな服を、レンに着せてちょうだい」

主は驚いた顔をして、
「あの、この者を、お買い上げされるんで?失礼とは思いますが、此奴は人気商品なので、かなりお高いですがよろしいので?」

「レンを、商品などと言わないでちょうだい。いくら払えば良いの?」
睨むようにマリアーヌ様が言った。

「◯◯ペイでございますが……」
主はさらに低頭して言った。

マリアーヌ様はバッグから小切手を取り出し、サラサラと書き込んだ。
ビリっと破いて主に渡す。

主はそれを見て、目を見開いた。
「こんなに……!よろしいので?」

「レンはこんな金額では足りない価値があるけれど、もっと出しましょうか?」
威圧感を持って、マリアーヌ様が主に聞いた。

主はこれ以上言ったらまずいと思ったのだろう。顔を青くして、「ありがとうございます!すぐに手続きしますので、少々お待ちくださいませ」と言って出て行った。

バロンはマリアーヌ様に「身支度させて参ります」と言って俺を部屋から連れ出した。

マリアーヌ様は俺に向かってニコリと笑い、「また後でね」と言った。



「おい、どうなっているんだ?」
廊下でバロンが聞いてくる。

「俺も何が何だか分からない」
肩をすくめてみせる。

本当に、なんだと言うんだ。俺は彼女に気に入られる事など何もしていないのに。
しかし、ついに個人の奴隷になるのか、と複雑な気持ちになった。
マリアーヌ様がご主人様なら悪くない、とも思った。


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