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離別

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私たちは何とか見つからず屋敷に戻る事ができた。
時間がなかったので、そのままふたりは別れた。

睡眠が取れなかった私は、体調が悪いふりをして午前中ベッドで過ごした。10歳の私は、意識は大人でも身体は無理がきかなかったのだ。

けれどレンシーはそんなことできるはずがない。悲しい気持ちを抱え、眠らず働くのだと思うと胸が痛んだ。必ず、私が大人になったら、レンシーを幸せにしたい。方法は思い浮かばないけれど、とにかくあの優しくて悲しい彼をなんとかしたいと強く思った。

それからも時々私たちは厩で会っていた。最近はお腹がよく空くと嘘をついてメイドに夜食のサンドイッチなどを頼み、レンシーに差し入れた。少しでも、悲しみが薄れるように、彼に何かしてあげたかった。




レンシーと会うようになって、もうじきひと月が来ようという頃、そんなふたりに突然別れが訪れた。

お嬢様の様子がなんだかおかしいと気付いていたメイドたちがアーシャの後をこっそりつけていたのだ。

報告を受けて、厩にいるところへ下働きの責任者と私の両親がやって来た。

「レンシー‼︎ お前、なんてことしてるんだっ‼︎ お嬢様を誑かして!」

下働きの責任者が拳をあげてレンシーを殴ろうとした。

私は庇うようにレンシーに被さって叫ぶ。

「レンシーは誑かしてなんていない!
私が誘ったのよ!殴るなら、私を殴ってよ!」

「アーシャ……いいんだ。庇ってくれてありがとう」

青ざめた私とは違い、レンシーは悟ったように静かな表情をしていた。

「身の程をわきまえず、申し訳ありませんでした」
レンシーは私の両親に土下座をした。私は悔しくて悔しくて、でも、どうする事も出来なかった。

ふたりはそのまま引き離された。
私は一週間、部屋に謹慎されただけで済んだ。

だが、謹慎が解けた後、レンシーが罰として奴隷として売られて行ったと知り、私は愕然としたのだった。
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