15 / 18
15
しおりを挟む
「史郎さん、史郎さん」
ジュンの声が遠く聞こえる。そんなはずはない、ジュンは今授賞式に……
「風邪引きますよ!」
大きめの声でそう言われて、はっと我に返った。さんさんと陽が降り注いでいたはずの窓からは、夜の帳が覗いていた。
「あ、ああ……お帰り」
「え、あれっ、史郎さん、泣いてたんですか?」
「え?」
「目、真っ赤だし、ほっぺにも……」
ジュンの指先が史郎の頬にそっと触れた。触れられた場所から全身へ、一斉に電流が走ったような感覚に襲われる。
「涙の跡、どうしたんですか?」
「なんでもないよ、悲しい夢でも見てたのかな」
「ただいまです」
「お帰り。授賞式見てたよ」
「え! 見てたんですか! やだな恥ずかしいなあもう」
ジュンはひとしきり慌てふためいた後、授賞式に臨んだ心境や壇上での緊張、中継には映らなかった裏話などを、いつもの流れるような口調で史郎に話して聞かせた。まだ興奮冷めやらぬ様子で、大きな身振り手振りを加えて。そしてその勢いのまま、とんでもないことを言い出した。
「それでね史郎さん、僕オーストラリアに行こうと思って」
「オーストラリア?」
「審査員の方と話してるとき、ほぼ独学だって話したら、きちんと勉強した方がいいって言われて。あっちの学校とのやりとりとか手続きとか、住むところとか面倒見てくれるって言うから」
そんな話怪しいだろ、と真っ先に思ったが、よく聞いてみると相手は史郎もよく知る社会的に信用のおける人物で、これまでにも多くの写真家を世に送り出した実績があることも知っている。
巣立ちの時、か。
思ったより早かったな。
史郎が現実を受け入れようと懸命に自分に言い聞かせていると、
「だから、待っててくださいね」
ジュンが満面の笑みで、史郎の手を取った。
「え?」
「半年間の留学ですよ、史郎さん今『今生の別れ』みたいな顔してるけど、違いますからね!」
「そう、なの……?」
ぽかんと脱力しきった史郎の間抜け面に、ジュンが笑い出す。
「そうですよ! ちゃんと待ってて下さいね、僕の帰る場所は、ここです」
「……よかった……」
「僕が自分から史郎さんの元を離れるわけないじゃないですか」
「ジュンくん……ジュンくん……っ!」
気づいたときには抱きしめ、抱きしめられていた。初めて重なった胸と胸は、互いの熱を、鼓動を確かめ合うように密着した。
「史郎さん」
「賞を獲ったから、とかじゃなくて」
「うん」
「僕はもう、ずっと前から、君に恋してるよ、もうずっと」
ジュンの声が遠く聞こえる。そんなはずはない、ジュンは今授賞式に……
「風邪引きますよ!」
大きめの声でそう言われて、はっと我に返った。さんさんと陽が降り注いでいたはずの窓からは、夜の帳が覗いていた。
「あ、ああ……お帰り」
「え、あれっ、史郎さん、泣いてたんですか?」
「え?」
「目、真っ赤だし、ほっぺにも……」
ジュンの指先が史郎の頬にそっと触れた。触れられた場所から全身へ、一斉に電流が走ったような感覚に襲われる。
「涙の跡、どうしたんですか?」
「なんでもないよ、悲しい夢でも見てたのかな」
「ただいまです」
「お帰り。授賞式見てたよ」
「え! 見てたんですか! やだな恥ずかしいなあもう」
ジュンはひとしきり慌てふためいた後、授賞式に臨んだ心境や壇上での緊張、中継には映らなかった裏話などを、いつもの流れるような口調で史郎に話して聞かせた。まだ興奮冷めやらぬ様子で、大きな身振り手振りを加えて。そしてその勢いのまま、とんでもないことを言い出した。
「それでね史郎さん、僕オーストラリアに行こうと思って」
「オーストラリア?」
「審査員の方と話してるとき、ほぼ独学だって話したら、きちんと勉強した方がいいって言われて。あっちの学校とのやりとりとか手続きとか、住むところとか面倒見てくれるって言うから」
そんな話怪しいだろ、と真っ先に思ったが、よく聞いてみると相手は史郎もよく知る社会的に信用のおける人物で、これまでにも多くの写真家を世に送り出した実績があることも知っている。
巣立ちの時、か。
思ったより早かったな。
史郎が現実を受け入れようと懸命に自分に言い聞かせていると、
「だから、待っててくださいね」
ジュンが満面の笑みで、史郎の手を取った。
「え?」
「半年間の留学ですよ、史郎さん今『今生の別れ』みたいな顔してるけど、違いますからね!」
「そう、なの……?」
ぽかんと脱力しきった史郎の間抜け面に、ジュンが笑い出す。
「そうですよ! ちゃんと待ってて下さいね、僕の帰る場所は、ここです」
「……よかった……」
「僕が自分から史郎さんの元を離れるわけないじゃないですか」
「ジュンくん……ジュンくん……っ!」
気づいたときには抱きしめ、抱きしめられていた。初めて重なった胸と胸は、互いの熱を、鼓動を確かめ合うように密着した。
「史郎さん」
「賞を獲ったから、とかじゃなくて」
「うん」
「僕はもう、ずっと前から、君に恋してるよ、もうずっと」
20
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
はじまりの恋
葉月めいこ
BL
生徒×教師/僕らの出逢いはきっと必然だった。
あの日くれた好きという言葉
それがすべてのはじまりだった
好きになるのに理由も時間もいらない
僕たちのはじまりとそれから
高校教師の西岡佐樹は
生徒の藤堂優哉に告白をされる。
突然のことに驚き戸惑う佐樹だが
藤堂の真っ直ぐな想いに
少しずつ心を動かされていく。
どうしてこんなに
彼のことが気になるのだろう。
いままでになかった想いが胸に広がる。
これは二人の出会いと日常
それからを描く純愛ストーリー
優しさばかりではない、切なく苦しい困難がたくさん待ち受けています。
二人は二人の選んだ道を信じて前に進んでいく。
※作中にて視点変更されるシーンが多々あります。
※素敵な表紙、挿絵イラストは朔羽ゆきさんに描いていただきました。
※挿絵「想い03」「邂逅10」「邂逅12」「夏日13」「夏日48」「別離01」「別離34」「始まり06」
漢方薬局「泡影堂」調剤録
珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。
キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。
高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。
メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。
馬鹿な先輩と後輩くん
ぽぽ
BL
美形新人×平凡上司
新人の教育係を任された主人公。しかし彼は自分が教える事も必要が無いほど完璧だった。だけど愛想は悪い。一方、主人公は愛想は良いがミスばかりをする。そんな凸凹な二人の話。
━━━━━━━━━━━━━━━
作者は飲み会を経験した事ないので誤った物を書いているかもしれませんがご了承ください。
本来は二次創作にて登場させたモブでしたが余りにもタイプだったのでモブルートを書いた所ただの創作BLになってました。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる