撮り残した幸せ

海棠 楓

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 ジュンのことは忘れて、また一夜のお相手――恋人候補も視野に入れた――を探す史郎。一番よく使っていたアプリはジュンのせいで嫌なイメージがついてしまったため、別のアプリでお相手探しをしていた。年齢別に検索することも出来るが、もうなんだか信じられなくなっていた。ネットじゃ何とでも言えるもんな、とジュンのせいですっかり疑心暗鬼に陥ってしまった。
 適当に条件だけ合致する相手何人かとやりとりを交わしてみたけれど、どの相手もなんだかしっくりこない。性急に会おうともちかけられてげんなりする。もともと交流を深めるのが目的のアプリではなくやることやるためのアプリなのだから、そちらのほうが普通なのに、会話のやりとりを楽しみたくなっている自分に気づく史郎だった。
 ジュンとのやりとりは楽しかった。根掘り葉掘りという嫌な感じではなく、互いに自然といろいろなことを尋ねたり教え合ったりした。何がと問われるとわからないのだが、そのひとつひとつの会話がとても楽しくて、いうなれば『しっくりきた』のだろう。

 用無し扱いされているというのにまだ女々しく思い出しては苛立つので、例のアプリを削除することにした。きちんと退会手続きをしないと会員情報が誰からも閲覧できる状態のままとなってしまうので、退会手続きをするためだけに、ものすごく久々に、アプリを起動した。
 メッセージボックスには二桁に上る新着数が記されており、もうやめるのだから見なくても良いか、と一瞬は思ったが、一応確認だけはしておこうと、メッセージボックスを開いた。もしかしたら、新たな出会いが……という、ほんの少しの淡い期待を込めて。
 ――全部、ジュンからだった。
 交換した連絡先を登録する前にスマートフォンを壊してしまい、連絡手段がここだけになってしまったという旨を知らせるメッセージ。それが一通目。その後も何度も何度も事情を説明する同様のメッセージ、の下に、怒ってますか、会って欲しいです、好きです、返事ください、と毎回なにかしらくっついている。ほぼ毎日、一日一通のペースで送られてきていた。
「……しょうがないなあ」
 もちろんこのまま無視してアプリを消すことだってできるわけだが、悔しいけれど史郎にはできなかった。せめてもの抵抗よろしくしばらく時間をおいてから、最新の受信メッセージに返信をした。


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