撮り残した幸せ

海棠 楓

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 食堂は滞在時間十分ほどで退店し、また駅前の噴水まで戻って来た。
「じゃあこれで」
 史郎が改札に向かおうとすると、またジュンが腕を掴んだ。
「史郎さん。まだ怒ってます?」
「怒ってるっていうか、もう君には興味がなくなった。今後一切関わりたくない」
 そう言われたジュンは凍りついたような表情になり、史郎の腕を放した。
「……お願いします、またメールしてください、また会ってください。俺は、史郎さんのこと本当に好きで、今日も何も手につかないぐらい楽しみで」
「そりゃ僕は君に嘘偽りなく接して来たからね。君はいいよ、君はね」
 またも改札に向かう史郎の肩を掴み、ジュンは抱きついた。
 駅前で、である。
「ジュンくん、やめて」
「史郎さん、好きです」
「おじさんをからかわないで」
「本気です!」
 ジュンを振り払って、史郎はジュンの方に向き直った。
「じゃ、君は、こんなおじさん本当に抱けるの? 実際生身の僕を見てどう思った?」
「俺は全然アリですよ! 会ってみてああやっぱり好きだって。なんだったら試してみます?」
 若い子たちはこんな挑発にも軽々しく乗ってしまってワンナイトに持ち込むのだろうなあ、と史郎は白けた。
「その手には乗らないよ。ほんともう、帰るから。良い子はお家へお帰り」
 泣き出しそうなジュンをその場に残して、史郎は今度こそ改札を抜けた。

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