69 / 70
生まれた街で
第69話
しおりを挟む
真司の生まれた街に到着したのは、すっかり夜も明けて、東から朝日がまぶしく差しこむ頃だった。
「ここで待ってれば登校中の晃司に会えるだろ」
晃司の家のそばで真司だけを降ろし、要の車はどこかへ走り去った。
真司の心臓は今にも口から飛び出そうだ。消えてしまいたいとさえ思ったほどだ。もちろん晃司に会いたいなんて思うはずもなく、適当に時間をつぶして、会えなかった、と言って戻るしかない、そう考えていた。
「――真司?」
心臓を鷲掴みにされたような気分だった。この聞き覚えのある、低い声は……。
恐る恐る振り返る。
「やっぱり……」
晃司だ。真司を見て、どうしていいか分からない、といった顔をしている。
晃司は別れたときよりもずっと、大人びていた。身長もさらに伸びているし、髪も前より少し長めだ。予想通り、ここらで一番の進学校の制服が似合っている。
「おいっ、相変わらずだな」
片時も想い続けて止まなかった晃司が今、目の前で普通に動き、話している。そう思うと真司の顔が涙の洪水と化すのも無理はない。
「こ……晃司……」
涙声でそっと晃司の名を呼んでみた。昔は当たり前だったことが、今は違う。話してくれるだけで、見てくれるだけで、名を呼べるだけで胸がいっぱいになる。
真司の大泣きが一段落ついたのを見計らって、晃司が口を開いた。
「なんか突然家出するわ、帰ってきたと思ったらすぐまた出てったわで、おばさん心配してたぞ。――俺だって心配してたよ」
最後の言葉が真司を我に帰らせ、真司は背を向けた。
「な、なんで晃司が俺のこと心配するのっ、俺は晃司に……」
言いかけた時、晃司が真司の正面に廻って顔を覗きこんだ。
「真司……幼馴染を心配すんのは、当然だろ?」
幼馴染――『もう戻れない』とあの時言われた、本来あるべき関係。
「ここで待ってれば登校中の晃司に会えるだろ」
晃司の家のそばで真司だけを降ろし、要の車はどこかへ走り去った。
真司の心臓は今にも口から飛び出そうだ。消えてしまいたいとさえ思ったほどだ。もちろん晃司に会いたいなんて思うはずもなく、適当に時間をつぶして、会えなかった、と言って戻るしかない、そう考えていた。
「――真司?」
心臓を鷲掴みにされたような気分だった。この聞き覚えのある、低い声は……。
恐る恐る振り返る。
「やっぱり……」
晃司だ。真司を見て、どうしていいか分からない、といった顔をしている。
晃司は別れたときよりもずっと、大人びていた。身長もさらに伸びているし、髪も前より少し長めだ。予想通り、ここらで一番の進学校の制服が似合っている。
「おいっ、相変わらずだな」
片時も想い続けて止まなかった晃司が今、目の前で普通に動き、話している。そう思うと真司の顔が涙の洪水と化すのも無理はない。
「こ……晃司……」
涙声でそっと晃司の名を呼んでみた。昔は当たり前だったことが、今は違う。話してくれるだけで、見てくれるだけで、名を呼べるだけで胸がいっぱいになる。
真司の大泣きが一段落ついたのを見計らって、晃司が口を開いた。
「なんか突然家出するわ、帰ってきたと思ったらすぐまた出てったわで、おばさん心配してたぞ。――俺だって心配してたよ」
最後の言葉が真司を我に帰らせ、真司は背を向けた。
「な、なんで晃司が俺のこと心配するのっ、俺は晃司に……」
言いかけた時、晃司が真司の正面に廻って顔を覗きこんだ。
「真司……幼馴染を心配すんのは、当然だろ?」
幼馴染――『もう戻れない』とあの時言われた、本来あるべき関係。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
人の恋路を邪魔しちゃいけません。
七賀ごふん
BL
この学校には恋仲を引き裂く悪魔がいる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
男子校に転入した智紀は優しいクラスメイト、七瀬と出会う。しかし会った初日に、彼の裏の顔とゲスい目的を知ってしまい…。
天真爛漫転校生×腹黒で強気な生徒会長。
会長の弟くんの話は別作品で公開中。
表紙:七賀ごふん
温厚寮長をやっていますがこの度プッチンします。
するめ烏賊
BL
全寮制男子校の寮長を務めている伊部銀次郎(いべぎんじろう)は、編入生のマリモの日々の付きまとい行為と寮内で起こす問題にほとほと困っていた。
その件のせいで生徒指導部や理事長、各種委員会に始末書の提出や報告をしなければならず、趣味に没頭すら出来ない日々。
そんなある日、マリモが舎監室に飾っていた大切な写真を壊し───────
───────プッチンしました。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
元会計には首輪がついている
笹坂寧
BL
【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。
こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。
卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。
俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。
なのに。
「逃げられると思ったか?颯夏」
「ーーな、んで」
目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。
交わらない心
なめめ
BL
(小説大賞用に改正)
高校一年の初夏、千晃は校内一の美女に振られた現場をゲイで美形なクラスメイトの優作に目撃された。それ以来、好奇心で近づきすぎず離れすぎずな友人関係を築いてきた。
高校三年を迎えたある日、優作は2つ下の下級生に恋心を抱き始めたのを知り、千晃は次第に嫉妬している自分に気づきはじめ·····。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる