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本編

139:抜き打ち耐性チェック

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 時折現れる高所の魔物や、魔法を使う魔物は検証野郎Zが危なげなく処理していた。鬼人族ということで、弓を引く力は強いのか、中々の威力のようだった。その代わり命中率が高くなるまで相当時間がかかったようだったが。

 物理的に数が多い時は、あぬ丸は敢えて数匹見逃し、その抜けてきた魔物に対してアルプが《暗闇》や《錯乱》を与えて足止めをし、そこをシャケ茶漬けが処理するという危なげない立ち回りを見せていた。

『皆今日初めて組んだとは思えない、見事な連携だな』
「まぁ、今の連携は俺といつもやってるからな。普段は俺が《挑発》でさらに受け持って数を減らしたり、あぬ丸が倒し切るの待つって感じで。今は他にアタッカーがいるから随分楽だけど」
『なるほど』

 鍋の蓋によると、あぬ丸との2人の戦い方をベースにシャケ茶漬けと検証野郎Zが合わせているようだ。いずれにしろ、皆随分とパーティプレイが慣れているように感じる。


「トウのんの〈睡眠〉を付与するってやつも見てみたいなぁ」
『ん? ああ、それは構わないが』
「じゃあ次に遭遇した魔物にやってみてくれよ」
『ああ、分かった。……たった今感知範囲に魔物が現れたが、それにかけてしまってもいいだろうか?』

 ちょうど僕の《勘破》にユヌの北に多く分布しているゴブリン系の魔物が3体、マーカーとして現れていた。

「うん? 俺の《生命感知》の範囲にはまだ何も無いけど……」
「もっと進めばいる」

 首を傾げるシャケ茶漬けにバラムがフォローを入れてくれる。バラムはさらに僕よりも先に魔物が感知出来ているだろう。

「うっす! 兄貴がそう言うなら、進んでみましょう!」
「トウのんはどの辺まで近づけばデバフ入れられるの?」
『今すぐ出来るが』
「「「えっ」」」
「ほう」

 僕の言葉にシャケ茶漬け、あぬ丸、鍋の蓋が固まる。その後少しだけ〈宵暗の帳〉について、存在を感知さえ出来れば相手を睡眠状態に出来ること、僕が解除しない限り10分以上は確実に目覚めない事を説明した。
 説明を聞いた皆の感想はというと……。

「性能えっぐ……」
「さすトウ~」
「敵に回したら勝てる気がしないな……」
「とても面白そうな技ですね」

 と、こんな感じだった。
 ……まぁ、僕も説明していて改めて滅茶苦茶だなと思ったくらいだ。それに望む夢を見せたりだとか、その夢を覗けるだとかというのは説明を省いている。

 ということで、シャケ茶漬け達も感知出来る範囲に入ってから魔物達に秘技をかける段取りになった。
 少し進んだところでシャケ茶漬け達からの合図を受け、秘技を発動する。念の為《解析》でも特殊効果が付いていることを確認して皆へ伝える。

『技をかけた。問題なく睡眠状態になっているはずだ』
「……トウノ君? 詠唱とか、そういうの無いの?」
「トウのん、バトロワもいけたんじゃないー?」
『それは流石に……』
「おい、無駄口叩いてないでさっさと獲物を見に行け」
「あっ、そうっすね! 了解っす!」

 ツッコミ所が多すぎるのは自分でも分かっているところではあるが、既に仕掛けていて一応戦闘状態に入っている為、バラムが諌める。

 素早く魔物の元へ向かうと、無防備に夢の世界を漂っているゴブリンが転がっていた。

「うわぁ、本当にグッスリだぁ」
「ここから何をしても起きないと言っていましたが……」
『そこまでちゃんと検証出来ているわけでは無いが、そのはずだ』
「では今少し検証してみても良いですか? 勿論、メインはダンジョンですからそこまで時間はかけません」
「まぁ、それなら私達はいいよー」
『ああ、構わない』
「……なぁーんか嫌な予感がするが……手短にな!」
「ええ、ありがとうございます」


 ということで検証野郎Zの検証が始まったのだが…………。

 出来るだけダメージの少ない攻撃で何回攻撃されても起きるのか起きないのかを確かめている内はまだ良かった、とだけ言っておこう。

「いやぁ……『検証班のヤベェ奴』の真髄を見ましたわぁ……」
「うっ……久しぶりにレーティングフル解放を後悔した……」
『ああ、久々のグロ耐性チェックだったな……』
「こうなる気がしたんだよ、俺ぁ……」
「皆さん全員レーティングフル解放でしたか。珍しい事もあるものですね」
「猛烈に後悔してるところだけどなー」
『ほほう、彼奴……精霊にも大分嫌われておるようだし、いつかは“こちら側”に来るかもしれないであるな』

 検証野郎Zとバラム、そしてシルヴァ以外は若干グロッキー気味だ。

「思いがけず良い検証が出来ました。ありがとうございます」
『いや、こちらこそ色々と試してくれて助かった』

 検証結果はと言えば、やはり何をしても効果時間が切れるか、僕が解除しない限り“何があっても起きない”と思って良さそう、という事だった。改めて恐ろしい秘技だ。

 ちなみにゴブリン達は既に生命力が尽き、事切れている。

「ま、まぁ……じゃあもう近いから行っちまおう、ダンジョン……」
「そうだねぇー」
『ああ』

 若干パーティ全体のテンションが下がってしまったが、何とか切り替えてダンジョンへと歩みを進めた。



『ここが“ハズレダンジョン”……』

 ひたすら北西の方角に進む事しばらく。周囲を蔦植物に囲まれた洞窟のような大穴の前へと辿り着いた。

「そうー。ここの洞窟の中に入ろうとすると、洞窟の中じゃなくてダンジョンに飛ばされるって感じ!」
『ふむ』


[ダンジョン:金壺の地下道]
始まりの町『ユヌ』の北西の林深くにあるダンジョン。
地下道の何処かに妖精が集めた金銀財宝があるという。

危険度:★★☆☆☆☆☆


 ……何となく、入り口付近の空間を《解析》してみたら出来てしまった。しかも内容が……。

『ここのダンジョンは“妖精”が関わっているらしい……』
『帰るぞ』
「兄貴? 何処行くんすか?」

 報告しないわけにはいくまいと、バラムに《解析》結果の重要な情報を伝えると予想通り、即、踵を返してしまった。

『まぁ、待つである。ここにいるのは多少悪戯好きではあるが、大した事は無いである。この異人らにも対処出来るレベルであろう。それに知っている気配も僅かに感じるである』
『お前の知り合いな時点で厄介な奴だろ。帰る』
『それはそうであるが……まぁ、お主と我、それに主殿がいれば全く問題無い相手であるよ。主殿も異人である。冒険を楽しんでも良かろう』
『…………チッ。分かった』

 バラムが自分の感覚を研ぎ澄ました気配がしてから、シルヴァの意見を呑み、留まる判断をしてくれた。バラムも直感などが鋭いので問題無いと判断したのだろうか。

「どうしたんすか?」
「なんでも無ぇ」
「? そうっすか」
『ところで、もう入っていくのか?』
「あー、その前にネタバレになっちゃうけど、ちょっとだけ事前情報あった方が良いかもぉ?」
『そうなのか』

 ということで、あぬ丸がダンジョン情報を教えてくれる。

「ダンジョンの中は薄暗くてカビ臭い地下道になってるんだけど、まず最初にダンジョンボスらしきオークウォリアーが出てくるんだけど、すぐに背を向けて奥に行っちゃうんだよー」
『へぇ、そうなのか』
「んで、その途中でけしかけられる色んな雑魚敵を処理しつつ、行き止まりでオークウォリアーを倒して終わりーって感じなんだー」
「でもそれだけだし、ドロップもショボいから本当にすぐ過疎ったな」

 最初にダンジョンボスが姿を見せて逃げるのは中々聞かないユニークな演出だと思うが、それだけのようらしい。

「でもトウのんなら何か見つけられるかもしれないから期待してる!」
『それなんだが……このダンジョンは“妖精”が関わっているようだから、確かに他にも何かあるかもしれないな』
「お、早速!」
「ほぅ、結局未だ発見されていない“妖精”ですか」
「流石にちょっとワクワクしてきたな!」
「妖精かぁ……アルストの妖精ってどんな感じなんだろうな?」
『ククク……』
『……』

 実は皆が“徘徊レアボス”と呼んでいる存在も妖精なんだが。


 とまぁ、とりあえず。
 僕達は“ハズレダンジョン”に突入した。


〈ダンジョン『煤けた地下道』を発見しました〉


 …………ん?
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