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本編

132:なるべく穏便に……

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 シャケ茶漬けの知り合いが僕と生産用の名義の『ハスペ』の繋がりに気づいてしまったらしい。僕へ繋がるヒントが全く無いわけでないので、それ自体は構わないのだが……。

 それに正確にはシャケ茶漬けにも別にハスペの正体を明かした事は無いのだが、生産アイテムを何の説明も無く大量に贈ったりしてるので今更か。

「僕と会いたい、か……」
「チッ、そんくらい向こうで適当にあしらっとけよ」
「うーん……」

 シャケ茶漬けもその辺は言われずとも適当にはぐらかしてくれそうではあるが、敢えて僕にこういうメッセージをしてきたということは何か考えがあるのだろうか。
 ……考えても分からないので聞いてしまおう。


 その後、すぐに返信が来たところによると、その知り合いというのがとても好奇心が強い質であるようで、下手に隠すくらいなら明かしてしまって、拡散して欲しくない内容を具体的に伝えて頼む方が良いタイプ、とのことだった。

 ……なるほど。
 まぁ、そういうタイプもいるだろうなと思う。何なら僕もどちらかというとその知り合いに近いタイプなのではないだろうか。

 それにしても、シャケ茶漬けはこの知り合いとやらのことを随分と理解しているのだなぁ、と思った。

「で、どうするんだ?」
「そうだな……ドブネズミの洞穴かなんかで会ってみようかと思う」
「ああ?」

 僕が会ってみると言ったところで、バラムが賛成とは言えなさそうな反応をする。

「シャケ茶漬けが勧めているように、さくっと明かして口止めすれば良さそうだからな。それなら早い方が良いだろう」

 転生もし終わって、今すぐしないといけなさそうな事もとくに無くなってしまったしな。

『我は主殿に賛成である。さっさと其奴は口止めの契約を施してしまうのがいいである』
「……口止めの、契約?」

 シルヴァが僕に賛同してくれたかと思ったら、何やら物騒な雰囲気の事を言ってくる。

『主殿なら契約魔法の元の言葉によって、より強い契約で縛れるであろう』
「契約魔法の元……《古ルートムンド語》による契約というとことか」
『であるな。今の主殿が力ある言葉で書面を作ってお互いが署名すれば、それはそれは強い力で縛られるである』
「なるほど」

 まぁ、ハスペ周りは商業ギルドとも契約を交わしているし、あまり無闇に広められたくはない。応じてもらえるかは分からないが、どうにか交渉して秘匿の契約を交わす事が出来たら、それが一番良さそうだ。

「契約は……商業ギルドで見た事があるから、その文面を《古ルートムンド語》に変換すれば何とか出来そう、か?」
『おお、それは話が早いであるな! 契約魔法は我が見せる事も出来るである』
「じゃあ後で頼む。……その、バラムも、それでいいか?」
「……」

 バラムは腕を組み、眉間に皺を寄せてむっつりとしている、バラムは僕の身の安全を一番に考えてくれているのは流石に分かっているので、ダメだったらシャケ茶漬けには適当に誤魔化すように頼んでみよう。

「……ふん。契約で縛れるってんなら良い。ゴネるようなら契約した方がマシだと思わせるだけだ」
『であるな』
「……なるべく穏便にな」
「そりゃ、そいつ次第だ」

 獰猛な顔をして言う。……シャケ茶漬けのその知り合いには悪いが二つに一つ、だな。

「ふぅむ……いっそ、あぬ丸達にも明かしてしまって、そのまま次のイベントの話でもしようか?」
「……お前」
『ふむ、一気に複数の用を済ませるという事か』
「どうだろう?」
『我はかまわんと思うである』
「……はぁ、好きにしろ」
「ふ、ああ。……ありがとう」

 という事で、あぬ丸達に会って話をしたい旨のメッセージを送って承諾をとり、シャケ茶漬けにドブネズミの洞穴で会う事とあぬ丸達も呼んでもいいかを聞き、問題無いとの事だった。

 全員の合う時間帯を擦り合わせたところ、現実時間の明日の夜頃にドブネズミの洞穴で集合する事になった。


「さて、シャケ茶漬けの知り合いの件はひとまずこれで良いとして、今日は何をしようか……」

 転生も済んだし……って、あ。

「そうだ、僕の見た目の変化を確認していなかったな」

 転生した時は暗くてカメラの感度の都合で、後回しにしたんだった。うーん、システム側で自分の見た目の確認が出来ないものか。要望メールでも出してみるか。

 それは一旦置いておいて、スクショカメラを自分側に向けて自分の容姿を確認する。

「確かに全体的に暗い色になっているな」

 髪や瞳の色、名前が変化したユニーク装備の色が一段暗く深い色に変わっていた。バラムの言っていたように、深みを増したグリーンの瞳の中に赤い光がチラチラと漂っているという、現実ではあり得ないような瞳になっている。

 装備の方はそこにさらに見る角度によって輝きの色が変わる、不思議な光沢感のある布地になっていた。
 そして、ユニーク装備に吸収されてしまったマントもユニーク装備に寄ったデザインや質感になっていた。フードにはフクロウの意匠の仮面が付いている。

「すっかり僕のトレードマークになってしまったな。フクロウは」
「今更だろ」
「それはまぁ、そうなんだが。……む? 盟友の証も少し変わった、か?」

 よく見ると、盟友の証であるイヤーカフとカメオが少し変化しているように見えた。

「こんな宝石のようなものは……無かったような?」
「だな。俺のも少し変わってんな」
『む! 我のはどうであるか!』
「ああ、シルヴァのも同じような変化をしている」

 今まで1種類の不思議な金属だけで出来ていた盟友の証に、所々何らかの宝石が追加されていた。例えば僕のイヤーカフは犬の目の部分にバラムの今の瞳の色のような宝石がハマっている。カメオも同様だ。

 僕を模したと思われる2人の証の方は、本と植物の継ぎ目に僕の目の色の宝石が一粒追加されていた。

「何か意味があるのだろうか?」
「さあな」
『我も主に人間が交わす盟友契約はあまり詳しく無いが、良き方の変化なのではないか?』
「そうかもしれないな」

 そもそも盟友契約は破棄しない限りはメリットしか生まれないように出来ていそうなので、ポジティブな変化として受け取っておこう。

「さて、僕の見た目の確認はこんなものだろうか。あ、バラムも姿の確認をするか?」
「ああ? 俺は別に…………ふむ」

 僕はスクショカメラをバラムに向け、その視点の画面をバラムに見えるように向ける。興味無さそうにしていたが、自分の姿が見えると気になるのか、画面を見て確認している。

「まぁ、見た目はそんなに変わらねぇな」
「能力の方は試したのか?」
「ああ。この山羊のダンジョンが都合が良かったから色々試してみたが、まぁ、悪くなかった。……ただ、装備の性能が少し物足りなくなってきちまった」
『此奴ときたら、復活するからと我の分け身を何回も倒しよってからに』

 シルヴァがやれやれという風に半目で首を振る。

「ほぅ」

 バラムは転生後の能力の試運転にシルヴァのダンジョンを使ったらしい。相変わらずそういう使えそうなものは使う割り切りが早い。

「装備は更新とかするのか?」
「そうだが……長く馴染ませたもんだからな、少し考える」
「そうか。防衛戦の時の武器と防具の交換チケットがまだあるから必要だったら言ってくれ」
「ああ」
『主殿、その『交換チケット』とやらは何であるか?』
「む? そうだな……」

 僕は交換チケットを取り出して、表示される目録にあるものならどれでも好きな物を入手出来る事を説明した。

『ほう! 我には無用の物だが、何とも人が好みそうなアイテムであるな! ふむ、似たような物をダンジョンから出るようにすれば……』

 ダンジョン経営の新たな閃きを得たのか、ブツブツ何やら呟きながら思考の海に沈んでしまった。

 たった今、インベントリを確認していて1つ残った白紙の技能書が目につく。

「……これで《健啖》でもとってみようか……」
「あん? 何でそんなもんに」
「いや……バラムのようにたくさん食べられるのが羨ましく、て……」

 言葉にしてみると食い意地が張っているようで、少し恥ずかしくなってくる。
 バラムは僕の言葉に少し目を丸くした後、ニヤリと笑う。

「そうだな、いつも腹一杯なのに物欲しそうに見てたもんな。ま、お前のもんだ、好きにしたらいいんじゃないか?」
「むぅ。……ああ、好きにさせてもらう」

 揶揄われているのが分かり、自然と口が尖ってしまう。
 もうさっさと使ってしまおう。


〈技能《健啖》を獲得しました〉


「ふんっ」
「揶揄って悪かったから拗ねるなよ」
「拗ねてない」


 しばらく僕の尖った口が元に戻ることはなかった。
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