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本編

124:勢い余って

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 まさに猫、というように目を細めた中身がサポートAIになってしまった黒猫に僕は問う。

「それで、キャラクタークリエイトのサポートAIがどうして今ここに?」
『さっきまでいたこの体の子がここの転生の儀の担当者なんだけど、色々条件が噛み合ったからトウノに会いたくて来ちゃった!』
「来ちゃった、って……」

 ここの担当者で無いなら来てはダメなのでは、というかやはりこれはバグなのでは……? 

『ちょっと待って、待って! お願いだからバグ報告メールとかはもう少し待って! トウノに会いたかったのも本当だけど、担当者が君の事を分かって無さすぎて選択肢に不備があったから来たんだよ!』
「選択肢に不備?」
『そうそう! 君は今、闇人族、精人族、貴人族、幽人族、巫人族の中から幽人族を選ぼうとしていただろう?』
「そうだな」
『君はその種族に納得しているかい?』
「この選択肢の中でなら」
『確かに、この選択肢は君が今回挙げた“死にづらさ”はあるだろう。でも、君が以前僕に語ったプレイスタイルの面で言ったらどうだい?』
「それは……」

 勿論、今でもサポートAIに語ったプレイスタイルでいけるものならいきたい。しかし、未だ底の知れない図書館を既に発見しているので、そこだけで1年、もしくは数年は楽しめるだろう。

 そして何より。

「そもそもこの世界のあらゆる書物を読みたい、というのに適した種族なんかあるのか?」
『無いよ!』
「……」

 じゃあ今までの問答は何だったんだと半目になってしまう。やはりバグ報告をしてさっきの黒猫の中身に代わってもらってさっさと転生を済ませてもらうべきか……。

『だから、トウノに適した種族を作っちゃおう!』
「そうか………………はい?」

 黒猫が胸を張ってドヤ顔をしながら、とんでもない事を口にした。

「そんな……種族を作るとか出来るのか?」
『そりゃあ、普通は難しいけどね。トウノの今までの爆笑……こほん、興味深いプレイと現在のステータスなら可能だよ』

 明らかに「爆笑」と言い切ってからわざとらしく言い直していたが……まぁ、いいだろう。

「ふぅん……じゃあ、その種族にしてくれ」
『でもなってみるまでどんな種族になるかは分からないというデメリットが……って、うん?』
「だから、その新しく作る種族にしてくれ」
『……今も言った通り、選択してその種族になってみるまではどんな種族になるのか、どんな特性になってどんな弱点が出来るのかは分からないんだけど?』
「ああ。でも今までの僕の行動と望みを参照された上で作られるんだろう?」
『それはそうなんだけど、トウノは意外なところで思いきりがいいね』

 言葉では意外だと言っていても、猫の表情は心底面白そうに、楽しそうに目が三日月の形をしていて、僕がこの選択肢をとる事が初めから分かっていたというように感じられた。

 僕としても種族をオーダーメイドしてくれると言うなら否やは無い。…………“種族をオーダーメイド”って中々パワーのあるワードだなとは思うが。まぁ、先にも言った通り、たくさん読書出来る当ては既にあるので、これで微妙な種族になったとしてもそんなに影響は無いだろうという考えもある。

『むむむ、本当はもう少しトウノとお喋りしていたいんだけど、本来の担当者もうるさいし、早速新たな種族へと転生させよう!』
「ああ」

 やっと転生へと進めるようだ。しかし、具体的にはどうするんだ? と首を捻っていると周囲を漂っていた星雲のようなものが動き出し、僕の周囲に集まってぐるぐると回りだす。

『このまま元の空間に戻ったら転生出来ているはずさ!』
「そうか」
『その間、君のやりたいプレイや望みを思い描いていると、より望む種族になれる“かも”ね!』
「ふぅむ……」

 僕のプレイスタイルは変わらず『出来るだけたくさんのこの世界の読み物が読みたい』だが……バラムやシルヴァの負担軽減の為に、もう少し死にづらくなりたい。あと精霊等に絡まれづらくなりたい。


 ……そういえば、作られた種族は普通に考えれば、このアルスト世界で僕1人だけの種族になると思うのだが、それはどういう括りになるんだろうか?
 首を捻ろうとして再び体が動かず操作不能になっているのに気づく。

 気づけば視界いっぱいに星雲が広がってチカチカとする視界の中、徐々に気が遠くなっていく。

 遠のく意識の中、心底楽しそうな声がぼんやりと聞こえる。



『あっはっはっは! まさか、彼がここまで君に執着していとも簡単に運命を変えてしまうとは流石に読めなかったけど、だからこそ面白い! これからも彼等と共に“知”と“血”を貪欲に啜り、遍く“地”に“智”を満たしていくと良い!』



〈只人族からユニーク種族『底根そこつね族』に転生しました。これにより一部ステータスや装備に変化が起こります〉
〈称号【揺籃】が【縁覚えんがく】に変化しました〉
〈職業『揺籃編纂士』が『縁覚編纂士』に変化しました〉
〈ユニーク装備[揺籃の編纂士装束]がユニーク装備[縁覚の編纂士装束]に変化しました〉
〈技能《揺籃編纂士トウノの旋律》が《縁覚編纂士トウノの旋律》に変化しました〉
〈種族特性により技能《底根の根》を獲得しました〉
〈種族特性により技能《変化》を獲得しました〉


 …………いや、ちょっと待って欲しい。

 サポートAIの気になり過ぎる言葉や怒涛の勢いで流れだした通知にツッコむ暇もなく────そこで僕の意識は暗闇に沈んだ。



 ………
 ………………
 ……………………



 遠くで、大きな犬が吠えるのが聞こえた気がして意識が浮上する。

 目を開け、辺りを見回すと、夜の闇に沈んだ遺跡の中央に立っていた。手にはヴァイオリンと弓が握られている。転生の儀を行う前の場所へ無事に戻って来れたようだ。

「転生出来たみてぇだな」
「ん……」

 不意に顎を優しく捉えられて、促されるまま上を向くとすぐ傍にバラムがいた。光の具合か錆色の目が普段よりも若干赤みを帯びて見える。

「何か変わっただろうか」
「そうだな……さらに良い匂いになった事以外は全体的に少し暗い色になったか?」
「そうなのか」

 容姿の方はまた改めて明るい所でスクショカメラで見てみよう。匂いは……バラムにしか分からないものだと思うのでスルーで。

「後は目に……何か、赤く光る欠片みたいなものが散ってるな」
「ほぅ」

 それは何か現実にあまり無さそうなファンタジーならではな感じがする。……とはいえ、僕の視界はとくに何も変化が無いので、見た目だけの変化のようだ。これも後で確認してみよう。

『流石主殿であるな! たった1回の転生で人の枠を超えるとは!』
「…………うん?」

 シルヴァが近寄ってくるなり、またしても聞き捨てならない事をぶっ込んできた。

「“人の枠を超える”とは……?」
『うむ? 言葉通りの意味であるが。気配からそう思ったのであるが、違っていたであるか?』
「…………まぁ、確かに……種族名に『人』は入ってないが」
『おお! やはりそうであったか!』
「……確認なんだが、種族名に『人』が入ってないと人系種族じゃないのか……?」
『うむ! その通りである!』
「…………」

 僕は片手で頭を抱える。

 …………どうやら、勢い余って人系種族を辞めてしまったらしい。…………いや、ここまでぶっ飛んでしまうとは流石に思わなかったのだが、サポートAI?

 何故かフード姿の方のサポートAIが笑い転げているイメージが過る。

『ちなみに主殿に引っ張られたのか、そこの夜狗の小僧も正真正銘の『夜狗』に転生してちゃっかり人の枠を超えたである』
「えっ」

 シルヴァの言葉に思わずバラムの方を見る。

「まぁ、転生はした」

 とくに何の感慨も無さそうに言う。

「もしかして、瞳の色がいつもより赤く見えたのは転生して種族が変わったからだったのか?」
「かもな。自分じゃ分からんが」

 そう言われてみると、髪もダークブラウンからさらに黒髪に近づいているように見えなくも無い。その他はぱっと見はとくに変わった点は見られないが……。

「夜狗になっても犬の耳とか尻尾が生えるわけじゃないんだな」
「あ゙あ゙?」
『ククク、夜狗を犬獣人と混同しようものなら地の果てまで追い回していたものだったのぅ。懐かしい』
「それはすまない」

 どうやら夜狗だからと言って獣要素が入るわけでは無いようだ。

「『狗』にはなれるようになったがな」
「ん? うわっ」

 そう言うやいなや、バラムの姿が黒く歪んだかと思うと、いつか見たグレーハウンドのような、しかし大きさが僕の身の丈程もある黒い犬が現れた。


 なんと、転生によって変化のアンクレットが無くても変化が出来るようになったらしい。
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