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本編

119:いざ遺跡へ

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 触り合いが終わった後、バラムも1,2時間だけ寝ると言って、有無を言わせず僕の体を抱えてベッドに潜り込んでしまった。

 僕の方は既に最低限の〈睡眠〉は終えているので手持ち無沙汰だ。なので、視線操作だけで確認出来る攻略サイトや掲示板を流し読みしてみる。

 ……やはりダンジョンアナウンス直後はプレイヤー達が結構荒れてしまっていたようで、ギルドに押し掛けるプレイヤーが後を絶たなかったらしい。……不可抗力だったとはいえ、ちょっと、いや大分申し訳無い。

 ただまぁ、シルヴァのダンジョンが無事発見されたようだし、ギルもダンジョンの調査依頼を出すと言っていたので徐々に落ち着くだろう。

 それにしても、シルヴァのセリフの『知恵や秘宝』か……『ダンジョン』という響きから魔物とのバトルとトレジャーハントのようなイメージが先行していたが、場所によっては本や書物がたくさん出るようなダンジョンがあったりするのだろうか。
 それならば少し行ってみたい。戦闘はバラムとシルヴァにお任せになってしまうが。……うぅん、もう少し僕も戦闘サポートが出来ないものか。

 と、頭を捻っている内にバラムが起きたので、バトル時の僕の立ち回り方針についての思案は一時中断となった。



 起きてきたバラムはすっかり酒の影響から脱したようで、少し気まずそうにしていた。……気まずい事なんて何かあっただろうか……ペリカンくんか? そう思って聞いてみたら違うらしい。少し僕に甘え気味になってしまったのが、気になるようだ。

 うーん……まぁ、確かに少し甘えているような気がしたが、しかし触り合いの時はいつもそんな感じだったような気もする。まぁ、これは本人がどう思っているかの問題だろうし、これ以上触れないのが得策だろう。

 そうこうしている内にいつの間にか僕の部屋にシルヴァが現れていて、全員集合のようになっていた。

『おはよう、主殿』
「おはよう。いつの間に出てたんだ?」
『何、主殿と夜狗の小僧との睦み合いを邪魔する気は無いのでな、しばし外に出ていたである』
「睦……まぁ、気を遣わせて悪かった」

 今度は僕が気まずい気持ちになる。バラムはシルヴァに対しては思うところが無いのか、何ならまだ僕を抱えてるし、髪とかうなじに鼻を当てて、多分吸っている。

『ククッ、我らにとっても益のある事、気にするでない』
「うん?」

 ……それは、バラムとの触り合いが……?

「俺はこいつにしたいからしてるだけだ、お前ぇらの為じゃねぇ」
『であろうな。それでこそ夜狗と言うものよ。お主も我も友も好きなように主殿について行くまでである』
「……チッ」

 ……何となくまた微妙な空気になってしまったな。とりあえず。

「朝食でも食べに行くか?」
「……そうするか」


 ということで、下に降りてローザの旦那さんの温かで美味しい食事に舌鼓を打った。気づいたら、旦那さんやバラム、シルヴァにまで顔をじっと見られていたが……口にご飯でも付けてしまったのだろうか?と手を当てるがとくにそのような物は無かった。

「? 僕の顔に何か付いているか?」
「………美味そうに食べてくれるな」

 旦那さんがほとんど動いたところを見た事が無い表情筋を僅かに緩めて言う。

「実際、とても美味しいからな」
「…………そうか。これも食べな」
「これも美味しそうだ。ありがとう」

 旦那さんに本心からそう言うと、湯気の立つキッシュのように見える料理を出してくれた。一口食べてみると、外側はサクッとしていて、中はまろやかで食感も風味も良い。

『そうは見えなんだが、中々のたらしであるなぁ、我らが主殿は。お主も苦労するのぅ』
『…………うるせぇ』

 美味しいとは言っても既に一食分食べているので、二切れ食べるのが限界だった。半分以上余ってしまった分をバラムがペロッと三口くらいで平らげる。むむ、僕もバラムくらい食べられたらたくさんの食事を楽しめるだろうか。

 バラムの持つ技能にあった《健啖》があれば僕もたくさん食べられるだろうか? 行動習得出来れば良いが、1枚残った白紙の技能書の使用も検討してみよう。


 朝食を終え、バラムも僕、そしてシルヴァも、大してかからない準備を終えて遺跡へと向かうべく町の南門から出立した。

 ちなみに今回は旦那さんが弁当を持たせてくれた。食べるのが楽しみだ。

 黒馬に変身したシルヴァにバラムが跨り、フクロウに変化した僕がバラムの鎧と首元の僅かな隙間に収まり顔を僅かに出している、という状態だ。

 どうやら遺跡の方は防衛戦の折にある程度開放されてしまった影響で、むしろ以前よりも強い魔物や野盗が棲みつきやすくなっているとのことだった。その魔物や野盗が稀に旧関所の外でも目撃情報があるようで、残念ながらそれぞれの安全の為にアンバーに乗って向かうのは見送る事となった。

 まぁ、アンバーが傷ついてしまうのは僕も本意では無いのでこれは仕方ない。

 ちなみに、宿屋から南門に向かう際はバラムの頭の上に乗っていたのだが、顔見知りらしい門番にめちゃくちゃ揶揄われてしまっていたので、色々と試行錯誤した結果このポジションに落ち着いた。見映え的には肩とかに留まれたら良いんだが、鎧がツルツルとして留まりづらかったり、いざという時の可動域の問題で肩に留まるのは早々に諦めた。

 道中は当然のようにバラムとシルヴァに絡んで来るような魔物はおらず、シルヴァの足の速さもあってすぐに崩れた関所へと辿り着いた。

 門があった場所の手前に欠け月の写しがあったので、それに触れておいてから辺りを見回す。

『崩れたままになっているんだな』
『中にある欠け月で異人が転移して来るからな。直しても関所として機能させづらいってんで放棄された。保存すべき遺跡も色々崩れちまったしな』
『なるほど……』

 なんとなく、バラムに同行してもらって来た時の傭兵達の和気藹々とした様子を思い出してしんみりとしてしまう。

『なに、関所で寝ずの番をする必要が無くなって楽で良いって言ってたぞ』
『ふ、そうか』

 しんみりとしていた僕を察したのか偶々か、此処にいた傭兵達のものらしい言葉を教えてくれる。確かに、町との距離もそれなりにあるこの場所で詰めなくても良いというのは、普通に面倒が無くなって良いとも言えるのかもしれないな。

 関所としての機能が無くなっているので、今度は下馬する必要は無く、そのまますんなり遺跡群のエリアへと入って行く。

『強いっつっても魔物は大した問題じゃない。問題は野盗だ。あれからどのくらい増えて、どのくらい手を組んでるか分からん』
『ふむ、いつの時代も種族が違えども、数の増えたならず者は厄介なようであるな』
『異人が依頼を受けて数を減らしていたりとかはしないのか?』
『さあな。例えその時減っても何処からともなく湧いて来る。そんなもんだ』
『であるなぁ』
『そうか……』

 以前に野盗に身をやつした者は魔物と同等に扱われると聞いてはいたが、やはり誇張でも何でもないようだ。

 しかし《梟の視覚》や《梟の聴覚》はもちろん、《勘破》でも今のところ何の異変も感じ取れないが────。

『いるな。俺の直感と嗅覚がそう言ってる』
『此奴がそう言うのであれば、出るであろうのぅ。気を引き締めるであるぞ主殿』
『分かった』

 バラム達がそう言うのであれば、戦闘勘が微塵も無い僕としては大人しく従うのが一番の貢献というものだろう。《勘破》に敵性マーカーが出現した瞬間に〈淡き宵の訪い〉を発動するくらいの心持ちでいよう。
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