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本編

72:かわいい ※大剣使い視点

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 もどかしい犬の体を〈解除〉して、トウノの唇を貪る。昨日まで3日こいつに会ってなかったからか、道中でいつの間にか意識が連れ去られていたからか、こいつの無自覚で不用意な煽りからか……いや、全部だな。自制がかなり緩くなっている自覚はある。

 が、あまり戒めずに衝動のまま強引に口を割りひらいて己の舌でトウノの薄い舌を絡めとる。犬の姿の俺に油断していたこいつは驚きで固まったままだ。

 こいつに息つぎと自覚を持たせる為に、一旦口を離す。困惑した表情だが、目と頬を見れば確実に熱は灯っている。その様と遺跡調査の頃より甘さを増した匂いに、自然と舌なめずりしてしまう。


 “かわいい”


 さっきこいつが俺に向けて言いやがった言葉だが……普段、表情が乏しいこいつが時折見せた色んな表情が浮かぶ。
 本が読めない時に拗ねる顔、酒に酔った顔、普段は鈍臭いくせに指を器用に動かして楽しそうに楽器を演奏する顔、キスはそうでも無さそうなのに手を繋ぐと気恥ずかしそうにする顔、温かく美味い食事をとって嬉しそうな顔……今日の俺を瞳に映してホッとしたような顔……どれも見る度に胸から湧き上がるものがあって貪りたくなったが、そいつをあえて言葉にするなら────。

「は、かわいいな」
「……え? ……んあっ、っんん!」

 服の上からではあるが、太ももの内側を撫でると驚きから声をあげた瞬間に再び口の中に舌を滑りこませる。初めの頃は息つぎもままならなかったが、多少慣れてきたのか鼻にかかった吐息を漏らしながらも時々俺の動きを真似してくる。……それで前は少し我を忘れたが、あれはこいつも悪い。

 より口づけを深める為にトウノの後頭部に手を回しつつ、もう一方を太もも裏に回して一気に抱え上げる。

「んぅ!?」

 急な浮遊感に動揺したのが全身から伝わってくる。落とさねぇから安心しろと宥めるように上顎をくすぐると、すぐに体から力が抜けた。そのままこいつを味わいながら家の中へ戻ると、真っ直ぐ2階へとあがり、手近な俺の部屋、ということになった寝室へと入る。

 ベッドに勢いを殺しつつトウノを寝かせて、先ほどと同じように押し倒す体勢になる。……まだこいつの“準備”が出来ていないから大丈夫なはずだが、一線だけは越えないようにしなければ。

 と、頭の片隅で思いつつも腰やその下まで手を伸ばして感触を堪能する。

「ぁ……ふ……はぁ、う……」

 感じやすいのか、ただ素直なだけなのか、与えた刺激には必ず反応が返ってくる。

 トウノは肉は薄いが、肌が柔らかくて触り心地がいい。今はこの“ユニーク装備”とやらの上から撫で回すだけだが、いつかこいつの素肌を……と少し考えるだけで、もう誤魔化せないほど自分の中心が窮屈になっているのが分かった。

「っ…………はぁ……」
「うぅ? あ…………」
「……」

 無意識に押しつけていたのか、トウノが気づいた。固まって下の方を見ていたが、やがて俺の方を見るとそろりと手を伸ばしたので、とっさにその手を掴む。

「っ、待て」
「……前みたいにしなくていいのか?」
「…………してくれるのか……?」

 大分誘惑に負けた感があるが、これは仕方ないだろと誰にするでもない言い訳が浮かぶ。

「……まぁ、バラムがして欲しいなら」

 少し目をふせて気恥ずかしそうに言うこいつにまた理性が大きくぐらつく。気のせいかこいつの匂いの蠱惑的な部分が強くなった気がする。……こんなものに抗うなんて無理だし、したくない。

「……今日は手じゃなくて、こっちで気持ち良くさせてもらおうか」

 そう言って俺はトウノの腹のあたりを撫でる。

「?」

 ピンと来て無さそうな顔に再び口づけを再開しながら、前を寛げて固くなったものを取り出し、覆い被さっていた己の体をこいつが潰れない程度まで体重をかけて密着させる。片方の腕を腰に回してもう一方は胸の辺り、下に突起があるだろう場所を強めに捏ねる。

「ふっ、……ぁんん……!」

 こいつにはまだ早いだろう強めの刺激に体が大きく跳ねる。その拍子に密着した体がさらに密着し、その間にある俺の中心にも刺激がもたらされた。

「……ん、ん……んん」
「…………くっ」

 ぐっ、ぐっ、ぐっ……

 密着した服越しのトウノの腹に、いつか現実にしてみせる光景を、感触を、夢想しながら一定の間隔で押しつけ続ける。

 ちゅ、ちゅるっ、じゅっ、じゅっ……

 次第に密着した体ごと大きく強く揺するのに合わせて口づけも激しく深くしていく。こいつも腹にくる刺激が多少は良いのか、強く押し付ける度に体を震わせている。そしてそれにまた煽られて高まっていった。

 ぐっ、ぐっ、ぐ、ぐ、ぐ、ぐ……

「っ、はぁ、出すぞっ」
「ぷはっ、う…………んん」
「…………くっ……」

 ドクンッ

 俺の欲望が勢いよく弾け、こいつの服を白く汚す。出した瞬間から少しずつ冷めていく頭で、服を汚したことに罪悪感よりも高揚感を感じている己に我ながら呆れる。

「ん……ぅあ? ……はぁ……きもち、いい……?」
「っはぁ……どうした?」

 トウノの譫言のような声と緩慢な身じろぎに少し体を起こして様子を伺う。

 すると、白く汚したはずのものは薄っすらと残るのみで湿り気すらほとんど残っていない。しかも、今見ている間にも痕跡が消えていっていた。確かこの装備は破壊不可だとか何とか言っていたから、汚れを無くすことが出来ても不思議では無いが……これは吸収しているのか? 
 直感だが、そう思った。

「ぅんん……」

 トウノが腹を中心に緩く抱えるようにして身悶え続けている。まだ、そこまで強く快楽を感じることは出来ないはずだが……いや、そのせいで発散が出来ないのか。

 俺はトウノの顎を掴んで口を吸う。ユヌで魅入られかけていたトウノを落ち着かせた時のように、こいつの中の余分な熱を吸い取る。何故俺にこんなことが出来るのか、“出来る”と分かるのかは謎だが、俺がこいつを苛むものを取り除くことが出来る、それだけで十分だ。

 ……まぁ、今回のはさっき吸収されたものが原因の気がするが。

「ん……ふぅ……」

 あらかた熱を吸い取ってから口を離すと、トウノも落ち着いたようだった。

「…………はぁ、よく分からないが、楽になった。ありがとう」
「……ああ」

 少し蕩けた目で見上げられ、下半身にまた熱が集まりだしそうになるのをぐっと堪えて、トウノの隣に寝転がる。こいつの匂いの落ち着く方に集中すればそのうち治まるだろう。

「あ、そろそろ《不眠》がついてしまいそうだから寝る。ついでに“長い方の眠り”もとるが、朝には目覚めるようにする」
「ああ。言っておくが、図書館には俺も行くからな」
「ふ、分かってる」

 そう言ってトウノは俺に向かって柔らかく微笑んだ。ローザの食事や馬ばかりに向けていた微笑みを俺にも……。

「ん」

 気づいたら、触れるだけの柔らかいキスをトウノにしていた。

「さっさと寝ろ」
「? ああ、おやすみ」

 少しキョトンとした後、とくに余韻も何も無くトウノは“異人の眠り”についた。



 ────こいつを構成する決定的なものがこの世界から無くなったのを感じる。

 この喪失感は慣れそうにない。まだ不快な匂いを感じ続けていた頃は、この体だけでもと思っていたが……まるで足りない。

 シャケなんとかいう異人と、異人の事情などの情報と引き換えに多少俺達と関わることを許容した奴だが、そいつが言うには異人達も根本の感情なんかは俺たちとそんなに変わらないだろうと言っていた。

 だが、こいつには他の異人と少し違う何かがまだあるはずだと俺の直感……嗅覚が告げている。

 それを探り当てて、こいつの微笑みも苦悶も涙もそれを生み出す心も体も何かも手に入れてやる。

 その為にはまだ力が足りないと痛感した。俺は寝ているトウノの右手をとって、人差し指にハマっている指輪を睨みつける。ふざけたことに、こいつらは意識だけのトウノを連れ去ることも出来る。しかも、俺はそれを感知出来なかった。

 それにユヌの東に出た途端、遠巻きにだがエレメント共の声もうるさかった。奴等は俺とあの灰色の力で近寄ることすら出来ないだろうが、どんな搦め手を講じてくるか分からない。

 エレメントと言えば、この家の敷地内は不自然なほど奴等の気配がしない。しかも、ここに来るまでの靄は資格が無い者は迷って辿り着けないようになっている。

 どうやらこの家はトウノにとって相当安全なものになっているらしい。どうやってかは分からないが、あの胡散臭いギルドマスターの計らいというやつだろう。

 ……今度何か“頼み事”をされそうだな。借りをすぐに返せるならその方が良いが。

 ともかく、トウノを横から掠め取ろうとする奴がいるなら、それを叩き潰すだけの力を手に入れなければ。


 こいつは俺のものだ。
 
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