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エピソードFINAL『白金愛梨と万屋太陽』
【第103話】白金愛梨と万屋太陽⑪
しおりを挟む太陽は現在――
剛士、皐月コンビと模擬戦闘の最中だった。
「も……もう駄目……!」
「皐月! もう充分だ! 休んでろ!」
「う、うんっ!」
「オレの炎で――火傷しない所でなぁ!!」
皐月が退避した事を確認すると、剛士は全力で力を発揮する。
【発火能力】――それが、剛士の能力だ。
メラメラと燃え盛る炎の量が増加する。
その熱気は、二十メートルは離れた所にいる太陽の身体にすら、ジリジリと影響を及ぼす。
「……相変わらず、スゲェ炎だなぁ! 火焔先輩!! 受験勉強で訛ってねぇか心配したけど、安心したぜ!!」
「お前相手に遠慮は要らねぇよなぁ!? 太陽!!」
「もちろんだ!! 全力で来いよ!!」
「うおおぉおぉおおおぉおおおーーっ!!」
「うぉおおぉおおおぉおおぉおーーっ!!」
剛士の業火と、太陽の拳がぶつかり合う。
その一方で、二人の闘いの影響を受けない場所に避難している、他の元ヒーローの面々。
そこへ、皐月も合流した。
「はぁ……はぁ……。何なのあの二人……? 強過ぎ……闘いに着いていくので精一杯だったわ……はぁ……はぁ……」
疲労困憊で倒れ込む皐月。
そんな彼女へ、スポーツドリンクを渡し労いの声を掛ける透士郎だった。
「お疲れ様です。むしろ、戦闘タイプでもないのに、よく粘った方ですよ」
「あ、ありがとう……」
「それにしても……」も、大地が言う。
「良くもまぁ……こんだけSランカーと連戦して、疲れも見せずに闘えますよねぇ?」
「私なんて一試合でヘトヘトだよぉー」
姫がそんな弱音を吐く。
「万屋は、根っこが戦闘狂だからね……強い人とやるのが、楽しくて楽しくて仕方がないのよ」
そう言うのは宇宙で。
「くそっ! 私達のコンビネーション攻撃、『ウルトラスケスケハイパーパンチジェネレーション』が決まっていれば勝てたのになぁー! なぁ!? 千草くん!?」
「くっそー、太陽の奴ー、思いっきり殴りやがってぇー……もう、心配なんてしてやんないからなぁー!」
負け惜しみを言っているのは、静と千草だった。
千里眼を使い、太陽VS剛士の闘いを眺めている透士郎が言う。
「剛士さんが押され始めてる……もうすぐ、決着だな……」
「そっかぁ……」と、落胆の声を上げるたのは千草だった。
「今回も一位と二位の入れ替えは無し、かぁー。やっぱエグいなぁ……太陽の奴……」
「それより……あっちは間に合うの? もう……終わっちゃうんでしょ?」
宇宙は計画の進行具合が気になっているようで……。
「本当に愛梨は……来るのかな?」
「来るわよ」
「え?」
「愛梨ちゃんは……絶対に来る。答えを持って……必ず!」
そう断言したのは皐月だった。
その言葉に、宇宙の心が少しホッとした。
「そう……ですよね……」
「うん、だから信じて……待ちましょ」
「……はい。皐月さん……」
するとここで、透士郎が声を上げる。
「あ、どうやら終わったみたいだ」と……。
戦闘現場では――――
剛士の炎の拳を太陽が躱し、カカト落としが決まった所だった。
「ぐっ!!」
よろける剛士。
ここぞと言わんばかりに、太陽が連撃を加える。
トドメの右ストレートをくらった剛士の身体が宙を舞い、地面へと落ちる。
その瞬間――燃え盛っていた炎、全てが鎮火した。
勝負あり。
太陽の勝利。
ゆっくりと、倒れている剛士に近付いていく太陽。
「ありがとうございました! やっぱNo.2の肩書きは伊達じゃないですねぇ!」
「うるせぇよ……最強……」
「にひひっ!」
太陽の差し出された手を取る剛士。引っ張られて起こされる。
「それにしても……コレ一体、何だったんですか? 皆運動不足で運動したかったんですか? それとも、皆久しぶりに模擬戦やりたくなって、オレをサンドバッグにしようとした……とか……?」
「んな訳あるかよ。誰が『最強の超能力者』をサンドバッグにしようとか思うんだよ……。ったく……あーあ……もう少し、時間稼ぎをしたかったんだが……間に合うかなぁ? アイツら」
「時間稼ぎ? アイツら……? 火焔先輩、それってどういう……」
その時――――
太陽の目の前に、忍と月夜が【瞬間移動】で現れた。
少し驚いた太陽だが、とっさに状況を理解したつもりになる。
「お! 次はひょっとして月夜が相手なのか? 良いねぇ! No.2の後は、No.3ってか? 良いぜ! やろうやろう!!」
「バーカ、あんたみたいな戦闘狂と模擬戦なんてする訳ないでしょ? そもそも火焔さんが勝てない時点で、私に勝ち目なんてないんだから、やらないわよ」
「何だそれ!? お前! それでもオレの妹か!?」
「敵を知り己を知れば百戦危うからず――って事。言っておくけど私、勝てない勝負はしない女なの。それに――――
もう……時間稼ぎする必要もないしね」
「は?」キョトンとする太陽へ、月夜が更に一言。
「後ろ……振り返ってみなさい」
「へ? 後ろ……?」
太陽が振り返るとそこに――――
白金愛梨の姿があった。
時が止まったような感覚を……太陽は味わった。
先日――別れた筈の元カノが……そこに居たからだ。
「愛……梨……? お、おいおい、月夜! これってどういう――」
「話したい事があるんだってさ」
「話したい事!?」
「そ」
月夜は剛士に肩を貸しながら言う。
「そんな訳で、お邪魔蟲は撤収する事にしますか。火焔さん」
「……だな」
「ってな訳で土門、【瞬間移動】お願いしまーす」
「心得た」
「お、おいっ! お前ら!!」
【瞬間移動】で、その場から立ち去る、月夜、剛士、忍の三名。
こうしてこの場には……太陽と愛梨の二名だけが残された。
気まずい雰囲気が流れる。
沈黙が続く。
「あ……あのっ…………!!」
その沈黙を破ったのは……愛梨だった。
「つ……月夜ちゃんが言ったように……私……太陽くんに、話があって……その……」
「………………」
すると太陽が動き出した。
ゆっくりと歩き、無言のまま、愛梨の横を通り過ぎる。
愛梨はショックだった。
これは……自分と話す気がないという意思表示なのかと、疑ってしまった。
しかし――どうやらそうではないようで……。
太陽はこの場所に設置されているベンチに、どかっと座り。無言のまま、手招きをした。
ベンチの空いているスペースをポンポンと叩き、『ここに座れ』と合図を出す。
その意図を汲み取り、愛梨がゆっくりと近付き……ベンチの空いたスペースに座った。
その瞬間、バチーンッ! と乾いた音がした。
「いったぁーい……!」
太陽が愛梨の額に、手厚いデコピンをかましたのだ。
「前にも言ったろ? くん付けなんてよそよそしい呼び方するなって」
「だからって、何もデコピンする事ないじゃない!」
「仕方ねぇだろ……色々とお前には溜まってたんだよ……」
「それは……ごめんなさい……」
風が吹く……まだ少し肌寒く感じる……風が……。
「で? 話って何だ?」
「あ、えーっと……」
「それと、この状況は一体何だ? 何が起こってるんだ? 何故オレは、Sランカー共と模擬戦闘を連戦させられたんだ? 今のこの状況と関係あんのか?」
「え!? 模擬戦闘してたの!? ここで!?」
「ああ」
「Sランカーの全員と!?」
「お前と月夜以外のな」
「その全員に勝っちゃったの!?」
「まぁな。伊達に最強名乗ってねぇよ」
「すご……」
愛梨もつい先程、月夜と模擬戦闘ならぬ本気の殺し合いを行っていたから分かる。
ソレが、どれ程凄い事なのか……。
身に染みて……知っている。
「で? どうなんだ?」
「え……えっと……先ずは、太陽く……コホン、太陽がここで模擬戦闘をさせられてたであろう理由から、説明するね」
「おう」
愛梨は、忍が企画したという『恋愛振り返りツアー』についての説明をした。
その経緯を……行った事を……概要を……説明した。
「なぁーるほどなぁー……って事は、全員グルか……やられたなぁ……忍め……模擬戦闘の時もっとボコボコにしてやれば良かった……」
「何で太陽……が、模擬戦闘やらされていたのかは、分からないけど……」
「そりゃ、時間稼ぎの為だろ? それと多分――気を使ってくれたんだろうな……」
「気を……?」
「皆……オレが模擬戦好きなの知ってるから、熱中させて……嫌な事を考えさせないようにしてくれたんだろ? 多分だけどな……」
「ああ……そういう事か……」
「…………」
申し訳なさそうに……俯いていた顔が、更に俯いてしまう愛梨。
太陽が言う。
「で? 愛梨の話ってのは何なんだ?」
「ああ……その事、なんだけど……さ……」
「ん?」
「さっきの……『恋愛ツアー』で、私……皆に、色々と教えて貰ってさ……その……間違ってたなぁ……って、思って……」
「間違ってた?」
「うん……えーっと……その……あれ? 何言おうとしてたんだっけ……? あれ? えへへ……上手く言葉が、出て来ないや……おかしいな……」
「…………」
「え……えっとね? だから……」
「愛梨、顔を上げろ」
「え?」
「良いから、兎に角顔を上げて、前を見てみろ」
「前……? あっ……!」
愛梨が顔を上げたその先には――――
辺り一面に、桜が咲いていた。
満開の桜が、辺り一面を……鮮やかな桃色に染めている。
パラパラと舞う桜の花弁が綺麗で、神秘的な光景だった。
「綺麗だろ? 以前来た時には、見られなかった光景だ」
「う……うん……。凄く綺麗……凄く……素敵……」
「だろ? こんなスゲェ良い景色に、ここまで気付いてなかったんだぞ? お前。パニクり過ぎだ。もっと落ち着けよ。俯いてちゃ心が上向かねぇし、そりゃ言葉も出て来ねぇっつーの」
「太陽……」
「ん?」
満開の桜に後押しされるように……愛梨の口から……自然に……言葉が溢れ出てくる。
「私が……ワガママになっても、好きでいてくれる?」
「当たり前だろ」
「私が……プレゼントを選べない女でも……嫌じゃない?」
「嫌じゃない」
「私が……変なプレゼントを買っても……失望しない?」
「しないよ。お前から貰った物なら、きっと何でも嬉しいしな」
「私が……実は、紅しょうが嫌いって知ったら……幻滅する?」
「する訳……って! えぇ!? お前! 紅しょうが嫌いなの!?」
「私が……実は大晦日の時、紅しょうが焼きそば内心嫌がってたのを知ったら……見捨てる?」
「見捨てる訳ねぇだろ!! つーか言えよ! 嫌いなら嫌いって! 無理すんなよ!!」
「……私が……救いようのないバカでも……傍にいてくれる……?」
「当たり前だろ? それで離れるくらいなら、そもそも付き合ってねぇよ」
「…………ぐすっ……私がぁ…………ごめん……って言ったらぁ……許して……くれる……?」
「もちろんだ。言ったろ……? いつまででも、待つってさ」
「……うっ……うぅ……ぐすっ……太陽ぉ……」
「何だ? 愛梨」
「わ……私……ぐすっ……やっぱり……太陽の事がぁ……大好き……なのぉ……だから……だからぁ……! 私に……もう、一度……チャンス、を……」
「愛梨」
「っ!?」
太陽は……泣きじゃくる愛梨を、優しく抱き締めた。
優しく……包み込むように……。
愛梨の涙が……止まらなくなる。
「う、うわぁぁあーん! ごめん……ごめんなさぁい! 私……私本当はぁ……! 太陽と、別れたくなかったのぉ……! 大好きなのに……大好きだったのにぃ……! 私がバカだからぁ……! 傷付けちゃって……ゴメンなさい……!!」
「傷付いてたのは……お前も同じだろ? バカやろう……」
「……ぐすっ……太陽……」
「なに……?」
「私……太陽の事が……大好き……! 離れたくない……! もう……二度と……」
「ああ……オレもだ……オレも、もう二度と……離れたくない……」
「ずっと一緒に……いて欲しぃ!」
「ああ……ずっと一緒だ……ずっとずっと……もう絶対に……離さないからな……」
「……ぐすっ……うん……!」
満開の桜をバックに……。
二人は誓いの口づけを交わした。
もう二度と……離れ離れに……ならないように。
そんな願いを込めて……。
「おーおー! 熱いねぇー、あの二人」
と、茶化すような事を言ったのは透士郎だった。
「上手くいって良かったわね……忍くん」
「……ああ。本当に、良かった……ぐすっ……」
少し涙ぐんでいる忍を見て、皆も同じように……泣きながら、笑っていた。
思う存分泣き笑いした後……月夜は再び、復縁した太陽と愛梨へと視線を向けて、小さく小さく呟いた……。
「良かったね……兄貴……そして……愛梨さん……」
冬が終わろうとしていた……。
さぁ――間もなく、二度目の春が……やって来る。
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