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エピソードFINAL『白金愛梨と万屋太陽』

【第97話】白金愛梨と万屋太陽⑤

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 三月六日の夜――

 愛梨は用意された『日本超能力研究室』の寮部屋の中で、物思いに耽っていた。

(太陽は……待ってるって言ってくれた……。こんな私を……。信じてくれているんだ……。…………期待に……応えたいなぁ……でも、どうすれば…………)

 彼女の人間不信は相当なものだ。
 好きな人に『変われ』と言われて、おいそれと変われるようなものではないのだ。
 それで変われたとしたら、これまでの苦悩は一体なんだったんだ? という話にもなる。

(あー……どうしよ……人間不信って、どうすれば治るのかなぁ……? どうすれば、人を信用出来るようになるんだろう……? どうすれば……どうすれば……うーん……分かんないよぉー! そもそも、人間が皆が皆腹黒だからいけないんだよ!! どうして日本政府は、腹黒な奴は死刑! みたいな法律作らなかったんだろう? 理解出来ないわ! 全くもって、理解不能よ! そうだわ! こうなったら、私が総理大臣になって、その法律を作ってしまえば良いのよ!! そうすれば、腹黒な人達はいなくなって! 心が綺麗な人だけが生き残り! 私も心置きなく人を信じれるように――――って! アホなの私は!? そんな思想は悪役以外の何者でもないじゃない!! 悪は成敗されてお終いなのよ!? そんな人生ごめんだわ! あぁ……駄目だ……思考が空回りしちゃってるよぉ……)

「白金……お前、ひょっとして滅茶苦茶な事考えてないか?」
「そうなの……総理大臣になって日本の法律を変えちゃおうとか、訳の分からない事ばっかり考えちゃって……思考回路が太陽しちゃってる……」
「それは大変だな……病院で診てもらった方が良いんじゃないか?」
「そうね! 早速救急車を呼んで病院に――――って!! 何でここに……忍くんがいるのぉ!?」

 部屋の中に忍がいた。
 日の暮れた女子部屋に、何食わぬ顔で不法侵入していた。

「何でって……【瞬間移動】を使って入ったが? マズかったか?」
「当たり前でしょう!? それに私今、侵入方法を聞いた訳じゃないから!」
「そうなのか?」
「そうよ! それに、彼女いる身で女の子の部屋に二人きりは、マズイでしょう!! また宇宙と揉めたいの!?」
「いや、その辺は問題ない。宇宙にはちゃんと了承を得ている」
「え? あ……そ、そうなんだ……」
「それに、拙者が何か間違った行動をしないように、透士郎に【千里眼】で覗いて貰っているからな。万事抜かりはない」
「この部屋覗かれてるの!?」
「ああ! 透士郎の【千里眼】から逃れる術はないぞ」
「信じられない!! 私のプライバシーはどこへいったの!?」
「まぁまぁ、落ち着けよ白金」
「これで落ち着いてなんかいられないわよっ!!」
「……まったく……騒がしい奴だ」
「誰のせいよっ!!」

 珍しくツッコミに回り、主導権を握られてしまっている愛梨。
 忍の天然……恐るべしである。

「ま、拙者が帰れば、透士郎の監視も解除となるだろうから、そこは安心してくれ」
「そりゃそうでしょう……一日中監視なんてされた日には、話の流れぶった切ってでも、太陽と月夜ちゃんに連絡するからね」
「百%その心配はないから安心しろ。あくまでもこの監視は、拙者を見張る為のものだ」
「そ、そう……なら良いけど……」

 ホッと胸を撫で下ろした。
 そして、話は本題に入る。

「コレを――――お前に渡す為に来たんだ」
「手紙……?」

 訝しみながら、忍からの手紙を受け取る。

「お前の【読心】を前に、隠しても仕方がないので正直に言うが、拙者達は、お前と太陽に一刻も早く寄りを戻して欲しいと考えている」
「……そう……でも……」
「その為の手助けを出来れば、と思い……拙者達は、その企画を考えた、という訳だ」
「企画……?」
「詳しい事は、その手紙に書いてある。指定の日時にそこへ集合してくれ。あ、服装は絶対に『戦闘服』な? 忘れないように。
 では――心を読まれる前に……さらばっ!」
「ちょっ! 忍くん……! …………行っちゃった……」

 愛梨の手元には、渡された手紙が残されている。

「企画って…………一体何を企んで……」

 手紙の封を切り、中身を確認。
 書かれた文章を見て――愛梨は目を向いた。

「え……? こ、これって…………」



 一方その頃――忍は【瞬間移動】にて、宇宙と透士郎……そして、のいる忍宅へと戻っていた。

「忍くん、お疲れ様」
「うむ。抜かりなく、渡して来たぞ」

 「そうみたいだな」と透士郎が答えた。

 月夜がコピーしていた手紙を読みながら、やれやれ……といった表情を浮かべている。

「それにしても……よくもまぁ、こんなバカバカしい事考えたものね……これ、本当に効果あるの?」
「ん? 拙者は『いける』と思ったから提案したのだが……駄目そうか? それならそうと早く……」
「はいはい、分かった分かった。やります、やりますよーだ」

 月夜が、まるで降参したかのように頷いた。
 「それに……」と、彼女は続ける。

「あのバカには……直接言ってやりたい事もあるしねー……良い機会だわ」
「だろう? 拙者の計画には、何の抜かりもない」

 ドヤ顔の忍。

「それと、バカ兄貴の方にも、前にドッキリ喰らわさせられた借りがあるから……その借りを返せると思ったら、むしろ楽しみでウズウズとしてきたわ」
「ん? それってポルターガイストの時のやつか? アレって確か……日本に帰って来た当日に、透士郎と共に仕返ししてなかったか? 太陽が泣きながらバラバラになったシーン、今でも瞼の裏に焼き付いているのだが?」
「それはそれ、これはこれよ」
「そうか。それなら仕方ないな。企画ぶっ壊さない程度になら好きにしていいが……程々にな」
「りょーかい」

 月夜の承諾を終え、忍が改めて話を纏める。

「さて、そんな訳で。企画実行は、全員の予定が合う――。この日に、全てを終わらせよう……。もちろん、締め括りは――


 ハッピーエンドだ」

 「おぉーっ!」と、この場にいるメンバー、宇宙、透士郎、月夜の声が揃った。





 そして……時は進む。

 三月九日――

 どんな物語にも……終わりはあるのだ。


「何で集合場所がここなの?」

 先日渡された手紙に書かれていた日時――そして、集合場所ピッタリに到着した愛梨は、その場所で待ち構えていた忍へ出会い頭に疑問を投げ掛けた。
 その集合場所とは――廃工場だった。

 かつて……元ヒーロー全員が出動し、暴走族と戦った――思い出の場所。

 忍が疑問に答える。

「特に理由はない。人目に付かなさそうな場所だったから選んだ――それだけだ」
「人目に……? ああ……なるほどね……」

 腑に落ちなかったが心を読んで、愛梨は納得したようだった。
 この場所を選んだ理由を。
 そんな訳で――パンっと忍は手を叩き、考えた企画を始める事にした。

「それでは早速始めようか、白金……拙者が考えた企画――――



 『元ヒーロー達の恋愛エピソード反省カップルツアー』を!」


 長ったらしく、ダサい企画名ではあるものの……。
 始まった――

 土門忍――彼が考えた、一世一代の大博打企画が……。

 今――始まった。





 一方……丁度その頃――

 太陽はと言うと……。

「おい透士郎……いきなり『行きたい所がある』なんて言うからついて来たが……その場所が何でなんだよ! 嫌がらせか?」
「んにゃ? ちゃんと理由はあるぞ。桜が見たかった、のと……それと……」

 透士郎が、目の前でストレッチを始める。

「最近……運動不足でなぁ……。ちょっと、暴れられる場所を探してたんだよ……なら――――思いっ切り暴れられるからなぁ……!」
「はぁ?」
「お前もここ最近……色々とストレス溜まってんだろ? 発散したくねぇか?」
「発散? どうやって……?」
「運動で――だよ」
「あん? このいっぱいの桜の木使って、懸垂でもしようってのか?」
「違う違う……オレ達にとっての運動っていやぁ、やっぱコレだろう?」

 そう言って、透士郎は上着と下ジャージを脱ぎ捨てた。
 あらわになる

「お前……それ……」
「ほれ、太陽、お前の着替えだ」
「え!? 何でお前が、オレの戦闘服を持ってんだよ!?」
「朝一で月夜に届けて貰ったんだ」
「月夜が!?」
「ああ……そんな訳で、さっさと着替えろ」
「ここで着替えろってか!?」
「大丈夫。、ここにはオレ一人しかいねぇよ。だから安心して着替えろ……」
「はぁ……つー事はアレか? 戦闘服《コレ》に着替えるって事は、お前の言う運動ってのは……ひょっとして……」
「ご名答!! 久々にやろうぜ――――


 !!」


 こっちはこっちで……面白そうな事が始まっていた。
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