97 / 106
エピソードFINAL『白金愛梨と万屋太陽』
【第96話】白金愛梨と万屋太陽④
しおりを挟む通話ボタンを押すと声が聞こえて来た。
通話相手の犬飼市一ではない……女性の声が。
『良いんですよ……これで……』
声の主は――――
「愛……」
「「「しぃーーーーっ!!」」」
声を上げようとした太陽の口を全力で塞ぐ、忍、宇宙、透士郎の三名。
コクコクと、(分かった)と頷く太陽。
そう……その声の主は、愛梨だった。
愛梨は続ける。
『太陽は……私と離れても、幸せになれますから……。私と一緒にいたら……彼は不幸になっちゃいますもん……』
『何故そう思うのぉ?』
今度は違う女性の声が聞こえて来た。又旅だろう。
『未来の事なんてぇ、誰にも分からないじゃなぁい』
『……分かるんですよ』
『その理由……貴重な【読心能力】のサンプルの一つとしてぇ、もの凄く興味深いわぁ。教えてくれるぅ?』
『……猫田さんは……歴代【読心能力】者の末路を、当然ご存知ですよね……?』
『もちろぉん』
『だからです』
『はぁ?』
『私が変われない……という事は……歴史が証明しているんです……』
『え? ひょっとしてぇ……それが理由ぅ?』
『いえ……これは理由の一つです……他にも幾つか……』
『へぇー……聞きたい聞きたいぃ』
『…………あまり、言いたくないです……』
するとここで、通話相手本人である市一が声を発した。
『白金愛梨、これも【読心能力】に関する重要なデータだ……。研究に協力すると約束してくれたよなぁ? だったら話せ……』
否――これは全く……研究に関係がない。ただの雑談だ。
研究という名目にかこつけて、情報を引き出そうとしているだけだ。
誰の為に?
決まっている――
愛梨と太陽――――二人の為に、だ。
愛梨は渋々答える……。
『私が……駄目な人間だから……です』
『駄目な人間? 愛梨ちゃんがぁ?』
『はい……私は……ズルをしてきました……。太陽の心を読んで……彼に嫌われないように……呆れられないように……見捨てられないように……彼の心に沿った私を演じて来ました……。だけど……そんな自分が嫌で……何度も変わりたい……そんなズル賢い自分を変えたいと……努力してきました……。けれど結局……私は最後まで【読心】に頼り……挙げ句……プレゼントを……選ぶ事さえ、出来なかった……』
『ズル賢い……ねぇ……』
『【読心能力】者という仮面を外した私は……ただのワガママで強欲で嘘吐きな……駄目な女なんですよ……。私は……こんな自分を隠したくて……太陽くんや……他の皆にも……嘘をついて生きて来たんです……そんな自分が嫌で嫌で仕方なくて……こんな私が……良い奴じゃない私が……太陽くんを幸せになんて出来る訳がない、から……』
『でもぉ? あなた結構、太陽くんをからかって遊んでたわよねぇ? アレはどうなのぉ?』
『アレは……太陽も、楽しんでいたので……ちゃんと、一線は越えないように……慎重に線引きはしてたつもりです……』
『ふぅーん……太陽くんもって事はぁ、あなたも結構楽しんでたんだぁー』
『…………はい……楽しかったです……』
『あら、素直ねぇ。愛梨ちゃん可愛いー』
『本当に……楽しかったです……彼と一緒にいれた時間は、充実していました……。特に……付き合ってからの毎日は……幸せで死ぬかと思いましたもん……』
『…………』
『だけど……私が幸せだと感じれば感じる程……嘘をついてる事の後ろめたさや、罪悪感に耐え切れなくなって……』
『な、る、ほ、どぉー。そのストレスがぁ、プレゼント選びで爆発しちゃったって訳ねぇ』
『……はい……。きっと……遅かれ早かれ……きっと、こうなってたんだと思います……。だから……別れるなら早い方が良いと思って……。こうなる運命だったんです……だから、歴史が証明しているんです……。だって、【読心能力】者は……幸せに……なれないんですから……』
ここで――――太陽の我慢が限界を超えた。
「犬飼さん!! オレに――愛梨と話をさせてくれ!!」
「おいっ! バカ太陽」
「ちょっ! あんたねぇ!」
そんな太陽を止めようと、透士郎と宇宙が動くが、「待て! 二人共!」と、忍が二人を制止した。
「コレは――太陽が、文句を言うべきだ」
と。
すると……電話先から、声ではない物音が聞こえ始めた。
ウイーン……ガチャンッ! という物音が。
『え? 犬飼さん……? どうしたんですか? 急に鍵が――――閉まりましたけど……?』
『……ああ、お前が逃げないようにな。退路を断たせてもらった』
『え? 退路……?』
『スピーカーにする、言いたい事を言え――――
万屋太陽』
『え?』と驚きの声色を愛梨が出したのと同時――太陽が声を上げた。
「ふざけんじゃねぇぞ愛梨!! 何が、歴史が証明している、だ!! 何が、【読心能力】者は幸せになれない、だ!! 何が――――オレを幸せに出来ない、だ!! お前がオレに嘘をついてた? 馬鹿野郎が!! それも含めてお前だろうが!! オレはそんなお前のそばにいても……幸せだったんだよ!!」
『……た、太陽……何で……?』
「何でもへったくれもあるか!! そもそも! ズル賢い本当の自分? そんなもん! 遠くの昔に知ってるわ!! 何隠せた気になってんだよ!! オレはお前がズル賢くて! 性格が悪い事なんて!! 出会った時から知ってんだよ!! 勘違いするな! その上で――オレはお前を――――白金愛梨を選んだんだ!! あまりオレを――見くびるんじゃねぇぞ!!」
『っ!! 太……陽……』
「だが――――お前が! 心底、そんな自分自身に嫌気がさしているって事は伝わって来た!! そう思うのは! お前の自由だからなぁ!!」
『でも……でもぉ……私は……変わりたくても……変われないんだよぉ…………私は、人を信じられない……人は裏切るものだと……知っちゃってるから……』
「うるせぇーーーーっ!!」
『っ!』
「そういう理屈は良いんだよ!! 過去よりも! 今!! 今を考えろ!! 過去の自分が駄目でも――今の自分を信じろよ!! 変わりたいと本当に思ってるのなら――諦めんじゃねぇよ!!」
太陽は続ける。
昂った感情を――抑え切れない。
「それによぉ! もう――そこにいる犬飼さんや、猫田さん! こっちにいる忍や星空、透士郎も、とっくに気付いているだろう事を言わせてもらうけど!! 愛梨! お前は――自分の事を嫌な奴だと思ってやがるな!?」
『……う、うん……』
「このっ……!! あんぽんたんが!!」
『…………っ!!』
「良いか!? よーく聞けよ愛梨!! お前は……余計なお世話だが、『オレの事を思って』別れようって言ったんだよな!? オレが幸せになれないからって――余計なお世話してくれたんだよな!?」
『……だ……だって……』
「あのなぁ――――そんだけ自分を犠牲にして! 他人の事を慮れるような奴が! 嫌な奴な訳ねぇだろうがぁ!!」
『…………っ!!』
「良い奴に――決まってんだろ!!」
太陽のその言葉を耳にし。
忍や宇宙、透士郎が笑い合い。
遠くにいる市一と又旅も、笑い合った。
愛梨の目からは……涙が、零れ落ちている。
太陽は言う。
「愛梨……オレは決めたぜ……! 今回オレは……お前に告白しない!! オレの方からは絶対に――寄りを戻さない!! オレはお前を――――甘やかさない!!」
『…………っ!』
「お前が納得したら……納得出来た時に――――お前の方から再度告白しに来い!!
オレはその時を――いつまででも、待っててやるから!!」
『……っ!!』
「ほぉーら……お前が早く寄りを戻しに来ねぇと、お前の大好きなオレが幸せになれねぇぞー。分かったか? 愛梨――これが嫌な奴だ! オレは、お前の為になら嫌な奴にも平気でなってやる!! 不幸にだって、何度でもなってやる!!」
『……何で……そこ、まで……』
「決まってんだろ!! オレの幸せには――――お前が必要だからだよ!!」
『…………っ!』
「だから――――お前が変わりたいと思うのなら……そうでなきゃ、オレと一緒に居られないと思うのなら!! つべこべ言わずに! 余計な事考えずに! 変われ!!」
『……そんな……できるなら……してるよ……』
「出来なくても、やれ!!」
『………………太陽はまだ……こんな私を……信じて……くれるの……?』
「はぁ? 当たり前だろ? ただし、出来るだけ早く頼むぞー。二十五迄にはオレ、結婚したいからさ」
太陽は……そう言って、笑った。
先程までの勢いが嘘のように……優しく笑い、そう……声を掛けた。
「そんで子供も欲しいなぁー。出来れば女の子。お前に似た、可愛い女の子が良い。性格はオレに似た方が良いなぁー、お前は見るからに面倒くさそうな性格してるからなぁー」
『……太陽…………』
「何だ? 愛梨。名前ならもう決めてる……」
『私も変わりたい……変わって……ずっと……
あなたの傍に……いたいよぉ……』
その言葉に……太陽が答える。
「その気持ちがあれば大丈夫だよ……愛梨……。何も心配なんていらない。お前は必ず変われる……。必ずな……」
『……うん……ありがどう……』
「ずっと待ってるからな」
『うん……』
「じゃあ……またな」
『うん……』
通話が途切れた。
スマートフォンを仕舞いながら、太陽がニカッと笑う。
「もう……大丈夫そうだ。後は、愛梨が乗り越えるのを待つだけだ」
宇宙と透士郎が、やれやれ……と言った風に苦笑する。
「貴方が声を上げた時にはヒヤッとしたけれど……まぁ、あなた達らしい話の纏まり方ではあったわね」
「それな。でもそこは、やっぱ流石太陽って感じだったぞ。褒めて遣わす」
「偉そうに……」と、太陽は笑う。
「さて、話に一段落着いたら、腹が減ってきたなぁ。忍、何か食うもんあるか?」
「食うもん……? ……ふむ……今は切らしているな。太陽、何か買って来てはくれぬか?」
「えぇーっ! 何でオレがー!?」
「つべこべ言わずに行って来い」
「あっ!? ちょっ、おいっ!」
忍が【瞬間移動】で、太陽をコンビニ付近まで飛ばした。
この場には忍と宇宙、そして透士郎の三人が取り残されている。
「別に万屋に行かさなくても、私が行ったのに……」
「…………」
「……忍、くん……?」
忍が口を開く。
「宇宙、透士郎……お前達は、さっきの話を聞いて、どう思った?」
「どうって……あの二人らしい、なと」
「オレもだ」
「そうか……」
「何? どうかしたの?」
「気になる事でもあるのか? 忍」
「拙者は……」と、忍は自分の見解を述べる。
「このままでは、ダメだと思う」
透士郎が「理由、聞いても良いか?」と反応。
「根本的な問題が何一つ解消されていないからだ……。拙者の考えだと、解決までに大幅な時間が掛かるか……早く解決出来ても、また同じ事が起こる――だけの気がするんだが……どうだ?」
「……言われてみれば……そうね……時間があれば、解決しそうな問題ではあるけれど……」
「そうなると……学校はどうするんだ?」
「あ……そっか……」
その忍の言葉に、ハッとさせられる宇宙。
透士郎が答える。
「でも……太陽は、『ずっと待ってる』って言ってたんだから……それはもう……覚悟してるんじゃねぇか?」
「そうかもしれないが……拙者としては……太陽と白金には、仲良く、学校生活を送って欲しい……と、思うんだ」
「んな事言っても、本人達がそれで納得してるんだから。もう、オレらにはどうしようも……」
「何か……考えがあるのね?」と、宇宙が察した。
「…………ああ」頷く忍。
「考え……? どんな考えだよ?」
「確実に上手くいく保証はないが……試す価値はある、考えだ」
「だからそれは、どんな考えなのかって聞いてんだけど?」
「……『総力戦』だ」
「へ?」
忍は言い放つ。
「拙者達――――元ヒーロー全員の言葉で――白金の心を強制的に開かせる。そんな、考えだよ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
JC💋フェラ
山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
寵愛のテベル
春咲 司
恋愛
世界に寿命があることを、そこで生きる人々は知らない。たった一人を除いては。
舞台は六年前の大戦を境に、様々な天災に見舞われるようになったクライネ王国。
第二王女ハーミヤは、世にも珍しい容姿をした美しい騎士ルドルフと出会う。
徐々にルドルフに惹かれるハーミヤ。しかしルドルフは自らを罪人だと言って、彼女に近づきすぎることを厭う。
彼の犯した罪。それは世界さえも壊してしまうたった一つの愛だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる