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エピソードFINAL『白金愛梨と万屋太陽』

【第94話】白金愛梨と万屋太陽②

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 太陽と愛梨の破局。

 その事実を……宇宙が情報共有の為、一斉送信した。

 他の元ヒーロー達に知れ渡る。

 姫と大地。

「ええーっ!? 愛梨さんと太陽さん、別れちゃったのぉー!?」
「ああ……どうやらそうみたいだな……。…………」

 千草と静。

「うっ、嘘だろぉー!? 何でー!? 何でなの静ーっ!?」
「多分……愛梨さんにも思う所があったのだと思う……それにしても……極端ね……」

 皐月と剛士。

「剛士くん……これ……」
「ああ……オレの所にも、星空から連絡来たよ。……ついにこの時が来ちまったか……」

 透士郎と月夜。

「月夜……」
「分かってる……。…………あのバカ……」


 そしてその頃、太陽は……夢を見ていた……。
 白金愛梨と、初めて会った時の夢だ。

『はじめましてだね。万屋太陽くん』
『あん? 確かテメェは……転校して来た……。ん? つーかお前、何でオレの名前知ってんだ? 名乗ったか? オレ』
『名乗ってないわよ。私も持ってるのよ……不思議な力。貴方と同じような……ね……』
『あ?』
『いえ……訂正するわ……と同じような、力をね……』
『……何もんだ? ……テメェ……』
『私の名前は、白金愛梨……ただの貴方のクラスメイトよ。万屋太陽……くん。うふふっ……』
『……何がおかしいんだ?』
『貴方……本当に、良い目をしているわ。人を嫌悪し、嫌っていそうなその目……私、親近感が湧いて大好きよ』
『はぁ? …………オレはお前の事――大嫌いだけどな』
『あらま? ざーんねん、振られちゃったわね』
『抜かせ』
『ま、貴方とは、今後長い付き合いになりそうだから……よろしくね? 万屋くん』
『……よろしくなんてしねぇよ……』
『え?』
『二度とオレに近寄るな――怪我したくないんだったらなぁ』
『……冷たい人ね……。でも――そこが良い』

(オレと愛梨の出会いは最悪だった……。でも……そこから沢山積み上げて来たんだ……。積み上げて……喧嘩して……仲直りして……仲良くなって……そしてようやく、恋人になれたんだよ……! なぁ? 良いのか? 愛梨! こんな感じで終わっちまって! 良いのかよ!? 愛梨!!)

 夢の中の太陽は、遠くに見える愛梨の背中に手を伸ばす。
 届かない背に、手を伸ばし――

 た所で目が覚めた。

「愛梨っ!!」

 目が覚めた場所は、布団の上だった。

「あれ? オレは確か……帰り道で、愛梨に振られて……眠たくなって……あー! でも良かったー! 全部夢だったのかぁー!! 良かったぁー!!」
「いいや……全部現実だ」

 そんな風に現実を突き付けたのは、忍だ。

「へ? ……忍……? 何でお前が……」
「ここにいるのかって? 何故なら、ここは拙者の部屋だからだ」
「…………なるほどな……」

 太陽は、悲しそうな表情で俯いた。

「やっぱオレ……振られたんだな……」
「夢であって欲しかったか?」
「そりゃそうだろ……くそっ……」
「……悔しいのか?」
「当たり前だろ!!」

 怒鳴るように、太陽は言う。

「愛梨に……また、あんな顔をさせちまった!! オレは彼氏なのに! 愛梨の一番傍にいた筈なのに!! 何も出来なかった!! 何も手を貸してやれなかった! 何やってんだオレはよぉ!! バカにも程があるだろうが!!」
「……落ち着け」
「落ち着いてなんていられるか!! 今すぐにでも、もう一度愛梨に――――」
「落ち着け! バカ太陽!!」
「っ!!」

 動き出そうとした太陽を、寝技で締め付け抑え込む忍。

「離せ忍!! どけよ!! オレは今から愛梨に……!!」
「今会いに行って何になる!? また同じように拒絶されるだけだぞ!?」
「んな事、やってみないと分からねぇじゃねぇか!!」
「結果が分かりきってるから止めているんだ!! 冷静になれ!!」
「冷静になんて――なれる訳がねぇよ!! オレは……」
「っ!!」

 太陽が全力で、忍の抑え込みを解こうとしている。
 こうなってしまうと、忍では彼を止められない。
 単純な……パワーの差だ。

「オレは愛梨の事が――――大好きなんだよ!! 諦めて……たまるかぁ!!」
「くっ!」

 拘束が解かれ、自由になる太陽。
 即座に動き出す。

 「っちぃ!」忍は【瞬間移動】を使用し、走る太陽の頭へ蹴りを入れ、顔面から転倒させる。
 あまりの勢いに、床へ穴が空いてしまったが、一先ず今は気にしない。

「邪魔すんな!! 忍!!」
「駄目だ。今は絶対に――行かせない」

 再び忍は、太陽を押さえ付ける。

「邪魔されても……オレは絶対に、諦めねぇからなぁ……! 絶対に……もう一度愛梨と…………っがふっ!」

 忍が力強く、太陽の頭を踏み付けた。
 太陽の顔面が床を更に砕いて、より深くめり込んだ。

「誰が……諦めろなんて言ったんだよ」
「な……何しやがんだ、しの…………うおっ!」

 太陽の胸ぐらを掴んで、忍は全力で引き寄せた。
 鋭い目付きで一喝する。

「誰が!! お前に諦めろなんて言ったんだ!? 拙者はお前に――落ち着けと言ったんだ!! 諦めろなんて一言も言っていない!! だから落ち着けよ! バカ太陽!!」

 普段あまり声を上げない性格である忍から、大声での一喝を受け。
 衝撃で目を丸くしてしまう太陽。
 少し……冷静になれた様子だ。

「で……でも……忍、さっき、もう会うなって……」
「どんな聞き間違いをしているんだよ……会うなと言ったんだ……。今、何を言っても無駄、だとな……」
「あ……そういう事ね……」
「……はぁ……やっと落ち着いたか……」

 胸ぐらから手を離す忍。

「とりあえず、お茶入れるから椅子に座れ……ゆっくり落ち着いて話そう……」
「お、おう……」


 そんな訳で、お茶タイム。
 ズズ……と、音を立て、忍の入れたお茶を飲む太陽。

「うん……やっぱり、忍の作ったお茶は美味いなぁ……」
「茶化すな」
「おだけに?」
「つまらないギャグを言える程度には落ち着いて貰えて、何よりだよ」
「…………。なぁ……今日って何月何日だ?」
「三月六日……お前の誕生日の翌日だ」
「結構寝てたんだな……オレ……」
「催眠弾くらったのだから、無理もない」
「てゆーかオレら、学校サボってんじゃん。オレはともかく、お前まで」
「当たり前だろう……親友のピンチを目の当たりにして学校なんか行けるか」
「…………サンキュ」
「礼には及ばない」

 そう言って忍もお茶を一口口にする。

「さて……お前は何か勘違いしていたようだが。拙者は微塵も……お前に、白金を諦めろなどとは思っていない。拙者はもちろん、宇宙も、そしてもだ」
「他の皆……?」
「ああ……。皆、白金が間違ってる、という意見で一致している」
「いや……ちょっと待ってくれ……。オレと愛梨が別れた話って……今、どこまで回ってんの……?」
「む? 全元ヒーローに周知済み、だが?」
「マジ?」
「マジだ」
「うわぁー! 恥ずかしい!!」

 顔を真っ赤にして両手で隠す太陽。
 そんな彼におかまいなく、忍は続ける。
 スマートフォンを取り出し、操作した後、とある画面を彼に見せる。

「情報共有に抜かりはない。ちゃんと、振られた際の会話を一言一句逃す事がないように録画もしてある。コレを、全員に送っている」
「オレの振られたシーンが明確に皆に配られているって事!?」
「? そうだが……?」

 忍のスマートフォンから声が流れる。
 『意味分かんねぇよ!! 意味分かんねぇ!! だったらこれからも楽しい思い出を作っていけば良いだけの話だろうが!! 汚れないように……手を取り合っていけば良いだけの話だろうが!!』という、かの振られ現場のワンシーンの太陽の声が。

「うわぁー!! 恥ずかしい! 死にたいよぉー!! うわぁぁああんっ!!」
「え? 駄目だったか?」
「ダメに決まってんだろぉ!? ああー! 消えたい!! 消えてなくなりたいよぉーーっ!! うえぇえぇえええぇぇーんっ!!」
「しかしこの方が正確に状況を共有……」
「お前は鬼か! 鬼なのか!?」
「鬼……? 拙者は人間だが……」

 忍は天然なのである。
 「ともかく」と、忍は逸れた話を戻した。

「白金愛梨は間違っている――――というのが、拙者達全員の共通認識だ。お前が手を貸せと言うのなら、拙者達は喜んで手を貸そう」
「…………それについては、ありがとう……頼もしいよ……」
「うむ。素直で良い」
「で?」
「む?」
「これから先どうすんだよ? 今はダメって事は、ダメじゃなくなるように何か動くんだろ?」
「そうだな……それを今考えている所だ」
「そっか……今考えてるのか…………しゃーねぇな、オレも考えるとするか」
「ああ……お茶でも飲みながらな」

 静かにお茶を飲む二人。
 考えているのだ。
 膠着状態の現状を打破する為の、策を……。
 
 愛梨の中に、根強く残る闇を……祓う方法を……。

「うーん……どうすれば……愛梨に、分かってもらえるのだろうか……」
「……何をだ?」
「いや、あいつが『別れよう』って言い出したのは、オレへのプレゼントを選べなかったから――だろ? 別にどんなプレゼントを渡されても、オレは嬉しかったんだぜ? それを愛梨は勘違いをして……」
「? プレゼントなら貰っただろう?」
「へ? オレ何か貰ったっけ?」
「別れの言葉を」
「……お前……それ本気で言ってる……?」
「……違うのか?」

 何度も言うが、忍は天然なのである。

 ここで、ピンポーンとインターホンが鳴った。
 同時に「入るわよー」という声。
 ガチャリと玄関が開く音がして、足音が聞こえて来る。

 途中、「え? 何これ?」という声を上げ、そのままその人物は、二人のいるリビングへと入って来た。

「忍くん、床に穴空いてるけど……何があったの?」

 現れたのは、忍の彼女である宇宙だった。
 彼女の素朴な疑問に、忍は答える。

「太陽が暴れたので押さえ付けていたんだ」
「あー……なるほど……。で……万屋、起きたのね」

 「おかげさまでな」と太陽が返答。

「早速、今仕入れた情報を話すけれど。どうやら愛梨ったら、『学校やめる』って先生に直談判してたみたいよ」
「はぁ!? 学校を!?」

 太陽が狼狽える。

「ええ……。まぁ、先生も流石に引き止めてたみたいだから、現状、退学にはなっていないわ」
「そっか……良かった……」
「何も良くないわよ……現状ってだけで、今後学校をサボり続けたら、充分に退学の可能性はあるわ。一刻も早く、この現状を何とかしないと……」

 「白金は? 家に行ったんだろ?」と、忍が問い掛ける。

「行ったのだけれど……家にはいなかった。管理人を洗脳して、中も見せて貰ったけど、もぬけの殻だったわ」
「管理人を洗脳!? そこまでしたのか!?」
「当然よ。緊急事態だもの」

 何食わぬ顔でそんな事を言う宇宙を見て、太陽は思った。

 (こいつら……とんでもねぇカップルだな……)と。

「もぬけの殻……という事は、白金はもう……あの家に帰ってくる気はない……という事か……」
「電話にも出ないわ……百回くらい鬼コール鳴らしてみたけど、一度も出なかった」
「そうか……となれば……彼女は一体どこへ……?」

 ここで、太陽がハッとした。
 催眠弾で眠らされる直前に見た、人影……。
 導き出される答えは一つ。

「『日本超能力研究室』――――多分、愛梨はそこの寮にいると思う……」
「『研究室』の寮に?」

 「私もそう思う。断定は出来ないけど」と宇宙も同様の考えのようだ。

 太陽が言う。

「断定出来ないのなら……断定すれば良い」
「どうやって?」
「透士郎に連絡を取ろう。あいつの【千里眼】なら――――確実だ」
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