89 / 106
エピソード6『火焔剛士と万屋皐月』
【第88話】火焔剛士と万屋皐月⑥
しおりを挟む配られた試験問題用紙を前に、剛士は目を閉じる。
思い浮かぶのは皐月の顔だった。
(オレはひょっとしたら……一生、皐月《あいつ》に頭が上がらないのかもしれないな……。ワガママで……自由奔放で……そして何より綺麗な……あの女に……。お陰で、共通テストの時とは違ってベストコンディションだ。頭の中は晴れた空みたいにスッキリしているし……視界も良好。あのスケジュールを見せられた時は正直、大丈夫か? と不安になったものだが……杞憂だったようだ……)
「時間になりました。それでは――始めてください」
他の受験者達が、一斉に問題用紙を引っくり返す音が聞こえる。
剛士も少し遅れて問題用紙を引っくり返した。
(落ちる気がしねぇ!)
ペンを持つ手に力が入る。
(今からオレが書く一文字一文字が、未来への第一歩!! 絶対勝つ!! そして……オレは皐月と――――)
…………………………。
……………………。
………………。
…………。
……。
――――そして、三月一日……。
合否発表の日。
万屋家では……。
リビングのソファーに座り、スマートフォンを祈るように掲げている皐月の姿があった。
そんな彼女の姿を、太陽と月夜は離れた食卓から見つめている。
「今頃火焔さん……合格発表の掲示板見てるんだよね……?」
「ああ……今頃合否の確認が取れている頃だろうな」
「ううー……緊張してきたぁ……」
「何でお前が緊張するんだよ……」
「だってぇ! この日の為に、火焔さんも皐月姉も、頑張って来たんだよ!? 受かって欲しいじゃん!!」
「何言ってんだよ、受かるに決まってんだろ……結果は決まってんだから、ドンと構えてりゃ良いんだよ」
「そ……それはそうだけど……ん? んん? あーっ!! 兄貴もコップ持つ手が震えてるー!! 兄貴も緊張してんじゃんかぁー!!」
「きっ、緊張なんてしてねぇよ!! こ、これはその……武者震いだよ!!」
「ぷぷっ、兄貴ダッサァー!! あんだけカッコイイ事言ってたのにぃー! このCHINGA野郎ー!」
「そのネタは二度と口にするな」
「マジギレだぁー!! 兄貴がマジギレしてるー!!」
等と、太陽と月夜が馬鹿なやり取りをしているにも関わらず。
一瞥もくれず、皐月は祈り続けている。
(お願いします……神様……お父さん……お母さん……! どうか剛士くんを……合格に……!)
そしていよいよ――その時がやって来た。
ピロンッ! という、メッセージの着信音が鳴ったのだ。
電話じゃなくてメール? という事は……? と、嫌な予感が三人を襲う。
合格なら喜んで電話を掛けてくる筈だから――という固定概念からきた嫌な予感ではあるが……。
「も、もしかして、アプリとかの広告じゃない?」
「しっ! 黙ってろ月夜……」
「……う、うん……」
太陽が真剣な表情で、月夜を口止める。
ゴクリ……と、唾を飲む二人……。緊張感が走る。
皐月が言った……。
「剛士くんからだ……」
と。
「メッセージの内容……確認するね……」
果たして合否は……。
スマートフォンを操作し、皐月が剛士からのメッセージを確認する。
そしてその瞬間……。
「……あ……あぁ……」
大粒の涙と共に……手に持っていたスマートフォンを落とした。
カツン! と、虚しい音が響き渡る。
「そ……そんなっ! そんな馬鹿な!!」
慌てて駆け寄る太陽と月夜、落ちているスマホを拾い上げ、メッセージを確認する。
「火焔先輩は頑張ったんだ! 落ちてる訳――――っ!!」
太陽と月夜は、そのメッセージの内容を確認した事で、皐月の涙の意味を理解した。
メッセージにはこう書かれていた――――
『サクラサク』
「皐月姉……! これって……!」
「合……格したって……事?」
太陽と月夜が……号泣する皐月へ、恐る恐る……問い掛けた。
すると皐月は、泣きじゃくりながら……頷いた。
「……うんっ……!」
次の瞬間――――
「やったぁぁぁああぁあああぁぁあぁあーーっ!!」
「受かったんだぁーーーーっ!! うわぁぁああぁあーーっ!!」
歓喜の声が万屋家に巻き起こった。
「良かったな! 皐月姉!!」
「……うん……本当に……良がっだ……良がっだよぉ……うえぇぇん……!」
「皐月姉ぇ……」
皐月の、その嬉し涙に吊られて泣いてしまう太陽と月夜。
彼女もきっと不安だったのだろう……。
共通テスト後に、自分から提案したとは言え、剛士のやり方を曲げた事実は揺るぎのないものであった。
だからこそ……これで落ちてしまったら……と、考えていたのだ。
不安で不安で仕方がなかったのだろう……。
肩の荷が降りた……それ故の涙も、含まれているのかもしれない。
「皐月姉ぇー!! 良がっだねぇー!!」
最初に月夜が皐月へ飛び掛った。
「やったなぁ! 皐月姉ぇー!!」
続けて太陽が飛び掛る。
可愛らしい妹と弟に抱き締められた。
優しく……皐月も抱き締め返す。
「ありがどう……二人共……あなた達のおかげよ……本当に……ありがとう……」
抱き合う万屋家の三人。
太陽がここぞと言わんばかりに、皐月と月夜の胸に手を当てている(揉んではいない)が、今はそんな事気にしない。
暫くそうして、余韻に浸っていると……。
ピロン! と、皐月のスマートフォンが再度音を立てた。
すかさず、メッセージを確認する。
『あれ? 返事がないぞ?
分かりづらかったかな? 合格って意味な?』
ピロン! と、更にもう一通のメール。
『おーい!
皐月生きてるかぁー! 返事しろー! おーい!』
メールを見て、三人はクスッと笑ってしまう。
「あははっ、火焔さん女々しぃー!」
「ほら、皐月姉。いつまでも泣いてないで、返信してやれよ。待ってるぞ……火焔先輩が」
「……うん!」
皐月は涙を拭いて、スマートフォンにコメントを打ち込む。
『生きてますよ(笑)
おめでとうございます!
本当に嬉しい(т-т)』
送信……。
するとその数秒後に返信があった。
「うわっ、火焔先輩返信早っ!」
「むふふ……こりゃ、あの人今、スマホに齧《かじ》り付いてやがんなぁ?」
「ねぇねぇ、皐月姉! 何て帰ってきたの?」
「慌てないの、今確認するから………………え……?」
皐月が目を見開くと、太陽と月夜がそのメッセージの内容を確認。
「あらまぁ……」
「お、コレって……良かったなぁ、皐月姉!」
ニヤニヤしている太陽と月夜。
片や、顔を真っ赤にさせている皐月。
「ちゃ、茶化さないでよ二人共っ!!」
メッセージの内容はこうだった。
『ありがとう。オレも嬉しいよ。
ところで……。
明日予定空いてるか?
会って伝えたい事があるんだが……』
……いよいよ、火焔剛士と万屋皐月の物語……。
そのクライマックスが……近付いてきていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました
鹿乃目めのか
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。
ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。
失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。
主人公が本当の愛を手に入れる話。
独自設定のファンタジーです。
さくっと読める短編です。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
追放されましたが、私は幸せなのでご心配なく。
cyaru
恋愛
マルスグレット王国には3人の側妃がいる。
ただし、妃と言っても世継ぎを望まれてではなく国政が滞ることがないように執務や政務をするために召し上げられた職業妃。
その側妃の1人だったウェルシェスは追放の刑に処された。
理由は隣国レブレス王国の怒りを買ってしまった事。
しかし、レブレス王国の使者を怒らせたのはカーティスの愛人ライラ。
ライラは平民でただ寵愛を受けるだけ。王妃は追い出すことが出来たけれど側妃にカーティスを取られるのでは?と疑心暗鬼になり3人の側妃を敵視していた。
ライラの失態の責任は、その場にいたウェルシェスが責任を取らされてしまった。
「あの人にも幸せになる権利はあるわ」
ライラの一言でライラに傾倒しているカーティスから王都追放を命じられてしまった。
レブレス王国とは逆にある隣国ハネース王国の伯爵家に嫁いだ叔母の元に身を寄せようと馬車に揺られていたウェルシェスだったが、辺鄙な田舎の村で馬車の車軸が折れてしまった。
直すにも技師もおらず途方に暮れていると声を掛けてくれた男性がいた。
タビュレン子爵家の当主で、丁度唯一の農産物が収穫時期で出向いて来ていたベールジアン・タビュレンだった。
馬車を修理してもらう間、領地の屋敷に招かれたウェルシェスはベールジアンから相談を受ける。
「収穫量が思ったように伸びなくて」
もしかしたら力になれるかも知れないと恩返しのつもりで領地の収穫量倍増計画を立てるのだが、気が付けばベールジアンからの熱い視線が…。
★↑例の如く恐ろしく、それはもう省略しまくってます。
★11月9日投稿開始、完結は11月11日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
彼女に二股されて仲間からもハブられたらボッチの高嶺の花のクラスメイトが高校デビューしたいって脅してきた
すずと
青春
高校生活を彼女や仲間たちと楽しく過ごしていた枚方京太はある日、彼女が他の男といる現場に遭遇してしまう。
彼女の二股が発覚したあくる日、京太が二股をしたことになり仲間たちから卑下されてハブられてしまう。
楽しかった高校生活から一変、二股クソやろうのレッテルを貼られてしまい、暗い高校生活となってしまった京太。
高校2年の5月。
京太は高嶺の花のクラスメイト、東堂優乃の着替え中に教室に入ってしまった。
着替えを見られた優乃は、慌てながらも京太に近づいて、スマホでなぜかツーショットを撮りだした。
「わ、わたしを高校デビューさせてください。さもないとこの写真をばらまきます」
彼女に二股されて仲間からもハブられたらボッチの高嶺の花のクラスメイトが高校デビューしたいって脅してきた京太の新しい高校生活が幕を開ける。
5度目の求婚は心の赴くままに
しゃーりん
恋愛
侯爵令息パトリックは過去4回、公爵令嬢ミルフィーナに求婚して断られた。しかも『また来年、求婚してね』と言われ続けて。
そして5度目。18歳になる彼女は求婚を受けるだろう。彼女の中ではそういう筋書きで今まで断ってきたのだから。
しかし、パトリックは年々疑問に感じていた。どうして断られるのに求婚させられるのか、と。
彼女のことを知ろうと毎月誘っても、半分以上は彼女の妹とお茶を飲んで過ごしていた。
悩んだパトリックは5度目の求婚当日、彼女の顔を見て決意をする、というお話です。
どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。
kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。
前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。
やばい!やばい!やばい!
確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。
だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。
前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね!
うんうん!
要らない!要らない!
さっさと婚約解消して2人を応援するよ!
だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。
※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。
同期の御曹司様は浮気がお嫌い
秋葉なな
恋愛
付き合っている恋人が他の女と結婚して、相手がまさかの妊娠!?
不倫扱いされて会社に居場所がなくなり、ボロボロになった私を助けてくれたのは同期入社の御曹司様。
「君が辛そうなのは見ていられない。俺が守るから、そばで笑ってほしい」
強引に同居が始まって甘やかされています。
人生ボロボロOL × 財閥御曹司
甘い生活に突然元カレ不倫男が現れて心が乱される生活に逆戻り。
「俺と浮気して。二番目の男でもいいから君が欲しい」
表紙イラスト
ノーコピーライトガール様 @nocopyrightgirl
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる