ヒーロー達の青春エピローグ

蜂峰 文助

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ヒーロー達の青春エピローグ〜冬の章〜

【第80話】闇が深いなぁ……って、思うよ

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「お茶しかねぇけど……良いか?」
「滅相もないです……勉強のお邪魔して、お茶までいただいてしまって……申し訳ありません……」
「良いよ。ちょうど休憩に入ろうとしてた所だ。ま、オレの入れたお茶だから、皐月が入れたお茶みてぇに美味くは出来ねぇと思うけどな」

 そして、テーブルを挟んで向かい合う剛士と愛梨。
 剛士がお茶を一口啜った後、話を切り出した。

「で? 何だ話って? お前がわざわざオレの所へ来るくらいだ……そこそこな悩みがあるんだろう?」
「……はい……」
「どうした? 太陽と上手くいってねぇ……とかか?」
「……いえ……上手くいってない……んです……」
「ふむ……と、なると。って訳だな?」
「……凄いですね……」
「? 何がだ?」
「たったこれだけのやり取りで……もう――私の相談内容を看破するだなんて……」

 そう……愛梨は理解したのだ……。
 たった二往復のやり取りで、剛士が心の中でおおよその相談内容の見通しを立てていた事を……そしてそれが――ドンピシャであった事を。
 剛士が謙遜するかのように言う。

「普通に予想がつくだろう……そんなに驚く事でもねぇよ」
「……皐月さんが前に言ってました……『剛士くんは、他人の事となると聡い』と……何故あれだけ他人の心理や状況が読めるのに、勉強は出来ないのだろう……と、言ってました……」
「悪かったなぁ! 勉強出来なくて!!」
「私も……そう思います……」
「いや、お前も思うのかよ……」
「何でそこまで推理力があるのに……勉強の方はさっぱりなんですか? 興味の問題?」
「言葉を変えて同じ事言うな! つーかお前、そんな話しに来たんじゃねぇだろうが!!」
「あ、そうでしたね。うっかりしてました」

 剛士はこの時改めて、(太陽の奴、いつもこんな風にからかわれてんだろうなぁ……)と、彼の事を慮った。
 すると愛梨が心を読み、言う。

「……太陽には、こんなもんじゃありませんよ。もっとからかいます」
「そ……そうなのか……」
「ええ……それはもう、穴掘って埋まりたいと思わせる程……詰めます」
「それはやり過ぎなんじゃねぇか……?」
「それだけ、お互いに心を許してるって証拠ですよー。……だけど……」

 だけど……に続く言葉を、剛士が割り込むように言った。


「心は開けても…………ってか?」


 「はい……」愛梨は頷く。

「彼は……太陽は……比較的、裏表のない人間です」
「……だな」
「思うがままに生きてるし……思った事以外は言わないし……エロいです……そんな素直な所に、私は惚れました。惚れたし……助けて貰いました。『そういう人間もいるんだぞ』って、教えてくれました……。そしたら、私の視野が広がって……パァーっと光が刺してきたような気持ちになりました……。世の中……裏表のある人ばかりじゃない……。彼はそれを、私に教えてくれたんです……」
「確か……『お前は人間の嫌な部分しか見てねぇ、良い所を見るようにしろ』的な話だったよな? 人は自分に都合の悪い所に目が行きがちで、本当に大切にすべきモノを蔑ろにしがち……とか、何とか……」
「はい……よく覚えてますね。流石です」
「まぁ……印象深い言葉だったからなぁ……。オレも確かにって思ったもんだ……。太陽の奴……そんな事も言えんのかって、びっくりしたのを覚えてる」
「素晴らしい記憶力。はて……なのに何故勉強は……」
「おーい、話が逸れてってるぞー。戻せ戻せ話を」
「ありゃ、失礼しました」

 愛梨は続ける。

「そんな素敵な太陽が横に居ても……私はまだ――――彼の事が……いえ……もっと大きく言うならば――――んです……」
「…………」
「そんな自分が……すっごく――嫌なんです」
「…………」

 剛士は理解している。
 この愛梨の悩みが――であるという事を。

 【読心】――他人の心を読めてしまうが故の、恐怖……。

 幾ら太陽を含めた元ヒーロー達に心を許している――とはいえ、やはりまだ、人間という存在に対しての不信感を拭い去る事は出来ていないのだろう……。

 白金愛梨の持つ、心の闇は――根が深い。

 果たして太陽が、そこまで気が付いているのか……? と、剛士が心の中で疑問を持った所で、愛梨が【読心】を使い、その心の声に対してアンサーを述べる。

「太陽には知られたくありませんし……彼はそこまで深く考えていないと思います……あえて目を逸らしてる……といった感じでしょうか? 私も気付かれないように振る舞っていますし…………そもそもコレは、私の問題なんです……私が……私一人で……何とかしなくちゃいけない問題ですので……」
「……ふむ…………要するにお前は、オレに――どうしたら人間を信用出来るようになるのか――の答えを聞きに来た、って事で良いんだな?」
「答え……と言うよりは、その感想が聞きたかったって所です……。こんな私……どう思います?」
「闇が深いなぁ……って、思うよ」
「ですよねぇ……」

 と、苦笑いを浮かべる愛梨。
 剛士が言う。

「それに……自分で解決すべき問題と分かっていて、オレに相談しに来るのかぁ……とも思ってる」
「……それは……その……分からなくて……」
「…………」
「自分でも……もう、どうしたらいいのかが……分からなくて……」
「…………お前はさ……スポーツで例えると、いわゆる監督なんだよ」
「……監督……?」
「普通、恋愛ってのはな? 恋愛し合う者同士が選手……プレイヤーである筈のもんなんだ。向かい合って、力をぶつけ合う。気持ちをぶつけ合う。まぁ……一概にそういうのがベストとは言えねぇが、基本、ベースはそんなものなんだ」
「…………」
「なのにお前は、その選手達がぶつかり合ってるのを俯瞰で見て、操っている……さっきの、『お前の悩みを気付かれないように振る舞ってる』ってのが正にそうだ……お前は、太陽のみならず――。な? 監督だろう?」

 分かりにくい例え話ではあるが、剛士は続けた。

「きっと……太陽をいまいち信用出来ないって言うのは、その『視点の違い』が要因だ」
「視点の……違い……」
「お前は――――太陽と自分をコントロールしようとし過ぎている。太陽以外の、他の人間に対しても……同じだな」
「…………」
「良いか? 白金……【読心】を、万能だとか……絶対に思うなよ? でないとお前は――――一生……選手にはなれない」
「っ!!」
「従って……オレからお前に言えるアドバイスはたった一つだ――――


 選手《プレイヤー》になれ! 白金」


 そして剛士は、こう続けた。

「監督でいるのは、全能感があって楽ではある……だけど、もし――――が発生した時、一気に崩壊する事になるぞ」
「崩壊……?」
「ああ……崩壊だ。そうならない為にも――選手《プレイヤー》になれ――白金」


 そしてその後……。

「お邪魔しました。勉強の邪魔をしてすみませんでした」

 と、頭を下げ、火焔宅から出る愛梨の姿があった。
 剛士は全然気にしていない素振りで「いいよ。気にすんな」と返答する。

「また何か悩んだら連絡ぐらいは寄越せよ。今日くらいのアドバイスならしてやれるからよ」
「はい……ありがとうございます……」
「おう、気を付けて帰れよ」

 と、ここで……。

「あの……最後に一つ、良いですか?」
「? 何だ?」
「皐月さんの事……好きなんですよね?」
「ああ――好きだよ」
「信頼……してますか?」
「もちろんだ――でなきゃ、交わしてねぇよ」
「それもそうですよね……失礼しました」
「こんなもんで良いか?」
「はい。勉強頑張ってください」
「おう、じゃあな」

 剛士が玄関の扉を閉め、愛梨とのお悩み相談は幕を閉じた。

 彼は再び一人きりになった部屋で、万屋家の物と全く同じ内容が記されているカレンダーに目を向ける。

 一月中旬――共通テスト。
 二月――二次試験。
 三月の頭――合格発表。

(白金も……前に歩き出そうとしてる……オレも、そろそろ勝負する頃合だな……)
 そして剛士は小さく呟いた。

「待ってろよ……皐月……」


 一方愛梨は道中、剛士から与えられたアドバイスをもう一度……反芻していた。

「監督ではなく……選手《プレイヤー》になれ……か……よしっ!」

 スマートフォンを取り出し、通話ボタンをタップする。
 相手は勿論――太陽だ。

『もしもーし』
「あ、太陽? やっほー、メリークリスマス」
『いつまでクリスマス気分なんだよ……クリスマスはとうの昔に終わってるよ……』
「そんな昔って訳でもないけどね」
『で、何だ?』
「…………」

 愛梨は、提案する。

「大晦日の日……予定空いてる?」
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