79 / 106
エピソード5『泡水透士郎と万屋月夜』
【第78話】泡水透士郎と万屋月夜⑧
しおりを挟む衝撃のネタばらしから三日後……。
万屋月夜は、帰って来た。
元々、二年もの間海外へ滞在すると思っていた為、パンパンのキャリーバッグを引き摺り。
気まずそうな表情で、帰って来た。
何が気まずいって、あちこちに別れの挨拶を済ましていたからだ。
感動的な別れの挨拶を……お別れ会たるものも開催してくれた。にも関わらず、実は二年ではなく三日でしたぁーなんて、どの面下げて言えば良いのだろう。
まぁ……そのお別れ会を企画したのが、静達中学メンバー出身の元ヒーロー達であったのは幸いだった。
一般のクラスメイト達だったら、恥ずかしさのあまり不登校になってもおかしくなかった……。
何食わぬ顔で登校したら、気まず過ぎる雰囲気間違いなしであった……。
本当に幸いだった……と、月夜は胸を撫で下ろす。
それと同じくして、疑問が浮かぶ。
(静達は、どこまで知っていたのかしら? ひょっとして全て知っていたのかしら? だとしたら……あのお別れ会の時、どんな心境だったのかな? 顔では悲しそうな顔していても、心の中では大爆笑してたんじゃ……そう考えると……立つわね……腹が!)
月夜の表情は、怒りで満ち溢れていた。
その目が、メラメラと燃え滾っている。
「月夜ちゃん! ありがとねぇー!!」
改札を越えた所で、又旅に抱き締められた。
「それと変な感じになっちゃってごめんなさぁい!! まさか太陽くんがそんな面白――コホン……酷い企みを企てていただなんて私知らなくてぇ!! 本当にごめんなさぁい!」
「猫田さん……今、面白い企みって言おうとしてました?」
「してないわぁ」
「説得力がないなぁ……」
何せ又旅は、行きの飛行機の中で事情説明をした際、腹を抱えて息が出来なくなる程爆笑していたのだ。
少なくとも彼女は、この一件を『面白い企み』と、思っている事は間違いない。
「ま……まぁ? でも、こうして帰って来れた訳だしぃ……太陽くんに、酷い事するのはやめてあげてね? ねぇ?」
「死ぬまで殺し続けます」
「怖い!! ワンワンくん! 月夜ちゃんが怖いわぁ!! 鬼の目をしてるぅ!!」
月夜の般若のような顔を目の当たりにし、市一の後ろに隠れる又旅。
市一が溜め息を吐く。
「何にせよ……感謝するぞ万屋月夜……この三日間、有意義な時間となった……。お前から取れたデータは、間違いなくポルターガイスト撃破に役立つ事だろう……。誇れ、お前はまた世界を救ったのだ……」
「あ……いえいえ……それはその……恐縮です」
「一時的とは言え、お前を再び……こちらの世界へ引き寄せた事を詫びよう……青春の邪魔をして済まなかった」
「いえいえ……こちらこそ、お役に立てて良かったです。頑張ってくださいね――世界平和の為に」
「……ああ。ありがとう……」
市一が笑って頷いた。
すると又旅が、トンっと月夜の背中を押した。
前に転げそうになる月夜
又旅と市一が手を振っている。
「青春――――頑張ってねぇ」
「幸せになれよ……ヒーロー……」
その言葉を受け、深々と月夜は頭を下げた。
「はい!! ありがとうございます!!」と、頭を下げた。
そして走り出す。
月夜を見送る又旅と市一。
少し感慨深そうにしている。
「大人になったねぇ……月夜ちゃん……」
「そりゃそうさ……子供は大人になるものだ……」
「まさか、月夜ちゃんと透士郎くんがねぇ……驚いちゃったわぁ……。他の皆もぉ、あの二人みたいにくっ付いたりしてるのかしらぁ? 例えばぁ……太陽くんと愛梨ちゃんとかぁ、皐月ちゃんと剛士くんとかぁ」
「さぁな……。まぁ……奴らは奴らで、青春している事だろう……」
「うん、そうだと良いわねぇ」
「さ……帰るぞ。オレ達は、そんな彼女達の為に世界を守らねばならんのだ……」
「うん!! あの子達や……そして――――
この子の為にも……ねぇ……」
そう言って又旅は、自らの少し大きくなった腹部に優しく触れた。
市一もまた、そんな彼女の腹部を一瞥した後……。
「……そうだな」
優しく……微笑んだのであった。
一方その頃――月夜は、足を止めていた。
空港内のロビーで、目当ての人と出会えたからだ。
目当ての人――最愛の人――――泡水透士郎と。
気まずそうに微笑み合った後……二人は見つめ合う。
そして先に口を開いたのは透士郎だった。
二度目となるその言葉を口にする。
「月夜……。
オレはお前が好きだ――愛してる。この一件が終わったから……一緒に暮らしてくれないか?」
しかしここで、透士郎は訂正する。
「ま……一緒に暮らすのは却下だな、まだ早いか」
「そうね。それは後々考えましょ」
「そうだな。……で? もう一個の方は?」
「そんなの……決まっているじゃない――――
私も……透士郎の事が好きよ。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」
「ああ……こちらこそ」と、透士郎は月夜を抱き締めたのであった。
しばらく抱きしめ合った後、抱擁が解かれる。
顔を合わせて月夜と透士郎は声を揃えて言う。
「「さて」」と……。
「「恋人になってはじめての共同作業といきましょうか」」
その共同作業とは――
「あのクソ馬鹿クソエロ糞あんぽんたんな糞兄貴を――――」
「あのクソ腰抜けポンコツ猿知恵野郎の太陽を――――」
「「ぶっ殺す!!」」
禍々しい言葉とは裏腹に……月夜と透士郎は楽しそうだった。
二人の手は、しっかりと結ばれている。
固く硬く……握り締められている。
二人は歩幅を揃え走り始めた。
はじめての共同作業を成し遂げる為に――
輝く未来へ向かう為に――
この後……太陽が散々で無惨で凄惨な目に合う事になるのだが……それはまぁ一先ず置いておいて。
いよいよ秋が終わり。
本格的な寒さが街を包み込んでいた。
春夏秋冬――最後の季節が、到来する。
エピソード5『泡水透士郎と万屋月夜』――〈完〉
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる