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エピソード5『泡水透士郎と万屋月夜』
【第77話】泡水透士郎と万屋月夜⑦
しおりを挟む透士郎が月夜へ想いを告げた丁度その頃。
皐月と剛士は、学校の図書館を利用し一緒に勉強をしていた。
ふと、皐月が言う。
「透士郎くん、無事に月夜と会えたかしら?」
「そりゃ会えただろ? アイツの目を使えば、空港内にいる月夜見付ける事なんざ朝飯前だろ」
「そうね……そうだと良いのだけれど……」
「そうに決まってる。透士郎はやる奴だからな。……ん? って事は、今日ネタばらしか?」
「うん、そうみたい」
皐月が笑って頷いた。
剛士がペンを置き、頬杖を着く。
「太陽の奴、馬鹿な癖にそういう所には悪知恵働くんだよなぁ……相変わらず、変な奴だ」
「そういう所は、剛士くんも同じでしょ?」
「……うるせぇ、ほっとけ……」
少し嬉しそうな剛士は「何にせよ……」と言葉を繋げる。
「ネタばらしの後の、太陽の身が心配だな……」
「月夜怒るでしょうね」
「あと、透士郎もな…………知ってて、黙ってたオレ達も痛い目に合うかもしれねぇな」
「それはないでしょ。だってこのネタばらしは――月夜や透士郎くんにとって、『良い事』なのだから。生け贄となるのは、太陽だけよ」
「太陽が生け贄になるのは確定なのか……」
「当然でしょ? 良い事とはいえ――騙してたのは、そこそこ罪が重いわよ」
「…………だな」
場面は変わり――
空港内での、月夜と透士郎。
突然の透士郎の告白を、間近で見ていた又旅と市一はポカンとしている。
片や月夜は、とても幸せな気持ちだった。
固めていた決心が……激しくブレてしまう程に……。
しかし――
「ありがとう、透士郎さん……。凄く嬉しいわ……でも――――今すぐには、その言葉に返事は出来ない」
月夜の気持ちは、変わらなかった。
「分かってくれるわよね?」
「もちろんだ。オレだって今すぐ答えが欲しかった訳じゃない。どうしても言わなきゃってのと、伝えなきゃって気持ちと……そして――――
最後に一目――お前の顔が見たかったから」
だから――オレはここに来たんだ。と、透士郎は言った。
それもまた、月夜にとって嬉しい言葉だった。
(本当に……この人は……欲しい時に、欲しい言葉をくれるんだから……そういう所が…………)
月夜は笑って答える。
「この一件が終わったら――改めてもう一度、『その言葉』を聞かせてくれる? その時に、返事をさせて貰うわ」
「おう! 何度だって言ってやるよ。何年経とうと、もう……オレの気持ちは変わらねぇからな」
「……うん…………ねぇ、透士郎さん」
「何だ?」
「ありがとう。そして――いってきます」
「どういたしまして。そんでもって――いってらっしゃい」
月夜は再度振り返り、今度こそ改札へ向かい歩き出そうとする。
だが――又旅と市一の足は止まったままだ。
「? どうしたんですか? 早く飛行機に……」
「どうしたもこうしたもないよぉ!! え? え? 月夜ちゃんと、透士郎くんが!? えぇーーっ!! ラブ? ラブラブなのぉ!? しかも同棲の誘い!? こんなドラマチックな展開で、何で返事をしないのぉ!? 良いの? それで良いのぉ!?」
「良いんですよ……コレで。さ、早く行きま……」
「お前達……何か、勘違いしていないか……?」と、ここで声を上げたのは、あべこべスーツ姿の市一だった。
キョトンとする月夜と透士郎。
勘違い――とは?
「いや……月夜と出会った時から不自然に思っていたんだ……その荷物の量……明らかに多いな……と……」
「へ? いや……当然でしょ? 二年もの間、海外で過ごすんだから、コレでも厳選して来た方なのだけど……?」
「は……? 二年……?」
眉をひそめる市一と又旅。
又旅が恐る恐る……真実を述べる。
「え……えっとぉ……私達が、月夜ちゃんに頼んだのは……ちょっとした【念動力】に関するデータ収集の為の実技実験に協力して欲しいってだけ、だったのだけれどぉ……三日程度のぉ……あれぇ?」
「へ? 実技実験……? データ収集……? ポルターガイストの討伐に、二年程参加するんじゃ……?」
「それはない……」市一が言う。
「【霊騒々】は、我々の組織お抱えの兵器だけで充分対応可能と見てる……念の為、君からデータを集めるつもりだったのだが……二年……? んん? どこで情報の食い違いが発生したんだ……? 又旅……君、ちゃんと伝えたのかい?」
「伝えたよぉ! ちゃんと伝えたよぉ! 太陽くんにぃ! ちゃんと連絡調整は、彼が間に入って伝えてくれてた筈だもん!!」
「ふむ…………ならば何故……?」
ここまでの話を聞いて、月夜と透士郎は理解した。
市一はそんな二人に問い掛ける。
「む……? どうかしたのか……? 何か分かったのか……? 二人共……」
月夜と透士郎は、顔を真っ赤にして身体をプルプルと震わせている。
月夜が答える。
「い……いえ……何でもありません……。さ、行きましょう……何も気にせず、飛行機に乗りましょう……」
「いや……せっかくだし、泡水透士郎の気持ちに今すぐ返事をしてあげれば良いのではないか……? 実験が終わった後でなくとも、今……」
「良いですから! もう放っておいてくださいっ! どうせ三日後には帰って来ますんで!」
「そ……そうか……青春だな……」
「そんな訳で行ってくるからね! すぐ帰ってくるから! 返事はその時にね! じゃあね透士郎さん!」
「お……おう……」透士郎もまた、恥ずかしそうに返答した。
ズカズカ小走りで去る月夜を追い掛ける形になった、市一と又旅。「月夜ちゃん待ってよぉー!」と又旅が声を上げながら、月夜達は飛行機に乗るべく去って行った。
月夜と透士郎が心の中で叫ぶ言葉は同じ――――
((嵌められたぁー!! やりやがったなぁー!! あの野郎!!))
そんな訳でネタばらし。
太陽は今、万屋家に同級生の面々を招き、優雅にお茶会のようなものを開いていた。
その最中、「ヘックショイッ!」と太陽が大きくくしゃみをした。
「お、誰かが噂をしてやがる。月夜と透士郎だな?」
「驚くだろうねぇ……二人共」
と、苦笑いの愛梨だった。
千草が言う。
「犬飼さんと猫田さんには、このドッキリの事伝えてんの?」
「んにゃ? 敵を騙すには先ず味方から……あの二人にも、このドッキリの事は内緒にしてるよ」
「あー……なら、あの二人も驚いてるだろうなぁ……」
千草が苦笑いを浮かべる。
続いて口を開いたのは忍だった。
「そもそも……月夜と透士郎は敵ではないだろう……。あの二人の背中を押したいのであれば、わざわざこんな回りくどいやり方をしなくても、他に方法があったのではないか?」
「ごもっともだが……まぁ、せっかくこんな機会があったんだ。ちょっと利用してやろうって悪戯心が働いちまってな。いやぁー、楽しかったなぁー。どこから情報操作が漏れねぇか、ヒヤヒヤもんだったぜ」
満面の笑みでピースする太陽。
忍の顔が引き攣る。
「いや……すんごい下衆な動機でビックリしたんだが…………」
「まぁまぁ、細かい事は良いじゃねぇか忍。結果として、透士郎が勇気出す気になったんだ。終わり良ければ全て良し――だぜ!」
「そうよ忍くん」と、宇宙が太陽に同調する。
「細かい事なんて考えても無駄よ。今は祝福すべきよ、泡水と月夜さんの関係をね。例えこの後――――万屋がどんな目に合ったとしても、今は祝福をすべきだわ」
「へ? オレがどん目に合うってんだよ? 星空」
「あら? 考えてなかったの? ここまで手の込んだ仕掛け、ネタばらしされた後、腹が立つに決まってるじゃない? 当然、その矛先は、貴方に向けられるに決まっているでしょう?」
「あ……」
どうやら太陽は、そこまで考えが至っていなかったようだ。
「え……? じゃあ、ちょっと待って……? って事はオレ……月夜が帰って来る三日後には……」
「見るも無惨な目に合うのは確定ね。ドンマイ万屋」
宇宙のドンマイに続いて。
千草が――「どんまーい」と一言。
忍が――「ドントマインド」と一言。
愛梨が――「太陽どんまい!」と一言。
「そんなぁーーーーっ!! 嫌だぁーーーーっ!!」
月夜と透士郎による報復を恐れた、太陽の悲鳴が、万屋家にこだましたのであった。
そんな彼の様子をニコニコと見つめる面々の中で……。
一人だけ、暗い表情をしている人物がいた。
その人物とは――
(凄いよなぁ……報復《こうなる事》を恐れず、大切な人達の為に行動出来るだなんて……)
愛梨だった。
(本当に……太陽くんは凄い……。私には――――到底真似できないないや……。……絶対に……真似できないや…………)
彼女のそんな意味深な独白に、周りの仲間達は気付く訳もなく。頭を抱えている太陽を見て、キャッキャウフフと和気藹々とした雰囲気が包んでいた。
何にせよ、三日後には答えが出る。
太陽の策略のかい……もしくは、犠牲のかいあって、透士郎と月夜の関係が大きく動いた事には間違いない。
果たして――二人の結末や、如何に?
いよいよ秋の物語がクライマックスを迎える。
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