68 / 106
秋の終わり間近に
【第67話】それは有りかも
しおりを挟む千草と静の一件を終え、数日が経過していた。
風が冷たい。
秋が間もなく終わりを告げようとしている。
そのある日の休日――
トントントン……と、万屋家の階段を下りる音が聞こえて来た。
太陽だ。
休日になると彼はいつも、遅い時間に起きてくる。
グーダラグーダラ夜更かしをして、ボサボサの頭でだらしなく、眠そうな眼で起きてくる。
「おはよー」
「あんたねぇ……また夜更かししてたの? 糞人間過ぎない? いい加減生活リズムを整えなさいよ。早死するわよ」
リビングに入るが早々に、月夜から辛辣なアドバイスを受けた。
しかしそんな辛辣は、太陽にとって日常茶飯事であり、特段気にする事もなく、「へいへい」と軽くあしらった。
この反応が、いつも月夜は気に入らない。
自分が先程飲み終えたお茶のペットボトルを念動力で浮かし、太陽へ向けて放つ。
「いてっ」空のペットボトルは太陽の頭に当たる。
「朝っぱらから何すんだ!」
「もう既に、昼っぱら、なんだけど?」
「あん?」
太陽が時計を確認。
時刻は十二時を過ぎていた。(ありゃりゃ……?)と思う。
月夜が、ようやく気付いたかと言わんばかりに溜め息を吐く。
「つーか休日の度に夜更かしって、一体何してんのよ……エッチな動画でも見てんの?」
「バカ! 中学生がR18の話なんてするんじゃない! 心が汚れてしまうぞ!」
「……それは実体験からのお言葉?」
「…………」
何も反論出来ない太陽であった。
「エッチな動画は、最近見てねぇし……そういう事、もしてねぇよ……前に、『それは愛梨に失礼だろ?』って、忍や千草に言われた事あるからよ」
「……いや、聞いてないんだけど……うわぁ……兄貴の下ネタ事情なんて聞きたくなかったわ……最悪の休日の幕開け方だわ……」
「ちなみに前は一日十発抜いてたぞ」
「…………」
無言のまま念動力を使用し、リビングから包丁が二本飛び出して来た。
フワフワと二本の包丁を浮かせながら一言。
「刺すぞ?」
「分かった! 分かったから月夜! それだけは勘弁してくれ! 包丁は痛いんだ!」
「…………」
「無言はやめろ! 何か返事を返せ! いつ包丁が飛んでくるのかと不安になるだろうが!!」
「…………はぁ……」
と、月夜が溜め息をついた。
それと同時に、二本の包丁は台所へと戻って行き、元あった場所へ収納された。
「分かってくれたか……? 月夜……」
「何も分かんないし、あんたをここで刺しまくってやっても良かったけど、めんどくさいからやめた」
「…………」
めんどくさいので刺すのをやめたそうだ。
それはつまり、めんどくさくなければ躊躇なく太陽を刺していた事になる。
恐ろしい妹だった。
太陽は考えるのをやめた。
「ところで、昨日は何で夜更かししてたの?」
「ん? ああ、それは――」
「あー……やっぱいい」
「何で?」
「どーせ、白金さんとイチャイチャイチャイチャ電話してたんでしょ? 知ってる知ってる」
「バカっ、違ぇよ」
少し照れ臭そうな太陽。
「昨日は、千草と電話してたんだよ」
「千草……あのエロアフロと?」
「ああ……最近アイツ、静が可愛い可愛いうるさくてな……ずーっと惚気け聞かされてた」
「惚気け? ふぅーん……へぇ……あのエロアフロが惚気けねぇ……」
ニヤニヤとする月夜。
対して、困ったもんだと言わんばかりにため息混じりに太陽が言う。
「あの一件から、惚気けが酷くなっちまってな……胸焼け起こし…………」
「……? 何よ、話が止まったけど、どうしたのよ?」
「月夜……ありがとうな」
突然のお礼に、キョトンとする。
「はぁ? いきなり何のお礼よ、気持ち悪いからやめて」
「いや……そういえば、あの一件について、お前にお礼を言ってなかったなと思ってな」
「あの一件……? ……ああ、暴走族のやつね」
「それ」
「ふむ…………ん? 待って? だとしても、お礼を言われる意味が分かんないのだけど」
「お前、あの一件の時、静と千草の為に走り回ってくれたみたいじゃねぇか。千草の尻叩いてくれたの、お前なんだろ? ありがとう」
「……何よ……むず痒いわね……」
月夜は気まずそうに顔を伏せる。
太陽は追撃。
「お前のおかげで、オレの親友が、大切な彼女を失わずに済んだ……本当にありがとう」
「分かった分かった! 分かりましたとも! だからもうソレやめて!」
「照れ屋さんめ」
「照れてないわよ! 気色悪いの!」
気色悪いと言われ、少し凹んだ太陽だったが、気を取り直し「そういえば……」と、話を変える。
「今の中学メンバーで……彼氏いないの――お前だけじゃね?」
月夜の身体が、ピクっと動いた。
瞬間――太陽の頭部に衝撃が走る。そして、カランカランと物体が床に転がった。
お鍋だった。
ベッコリと凹んでいる箇所がある。恐らく今、太陽の頭部に当たった箇所だろう。
「いってぇ……何すんだよ!」
「あんたが変な事言うからよ」
「口で言え! 口で!! お鍋飛ばして語るんじゃねぇよ!!」
「あら? 包丁の方が良かった?」
「お鍋で良い!!」
「それはそれで良いの?」
「まったく……。…………」
ここで太陽は、ふと、こんな話を持ち上げた。
「透士郎――――」
それは――別に太陽が、月夜の恋心に気付いていたとか、そういう訳でなく……たまたま相手のいない同士だった為、偶然出た名前だった。
「透士郎なんてどうだ? アイツも彼女いねぇし。お前と仲良さげ……だ……し…………」
話しながら――太陽は気付いた。
その真っ赤な顔を見れば、一目瞭然だった。
(月夜が――透士郎へ、恋心を抱いている)
あ、コレは痛い所ついてしまった! と、危機感を覚える太陽。
ヤカン……もしくは、包丁が照れ隠しで飛んで来ないか確認するも、その様子はない。
再び振り返ると、月夜が真っ赤な顔をして頷き、小さくこう呟いた。
「……そうね……それは有りかも」
その呟きを耳にした事で、太陽は確信した。
(そういう事だったのか……)と。
月夜に近付き、頭を撫でる。
「な……何よ、急に……!」
「なぁ、月夜……」
頭を撫でながら……一言。
「頑張れよ――応援してるからな」
一方その頃……。
太陽が布団の上に置き去りにしていたスマートフォンに、一通のメッセージが映し出されていた。
送信者名は――
『日本超能力研究室』
要件は――
『万屋太陽様、ご無沙汰しております。
現在、海外で暴れている【霊騒々】という能力者への対策に御協力を得たく、連絡させていただきました。
つきましては、【霊騒々】の上位互換である【念動力】を持つ、妹様。
万屋月夜様の力を借りたいと思っている次第であります。
詳しい事は後日。
ご連絡お待ちしております。』
雲行きの怪しいメールだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる