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第六話『霊王に最も近い悪霊』

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 怜は這って美永の上半身に触れる。

 冷たい――

 ただでさえ色白だった美永の肌が、更に白く……青白く変わっていく。

 怜の身体が震える……

「な、に、やって……ん、だよ……」

 ぶるぶると、ぶるぶるぶるぶると震える――

「よ、美永さ、ん? わ、わらっ、てよ……い、いつ、も、みた、いな……かわ、い、い、笑顔で……さ……」

 しかし返答はない。

 美永はピクリとも動かない。

 当然だ、何故なら彼女は――


「死んだのだから、動かなくて当然だ」戦場が言い放つ。

「し、んだ……? よ、しながさ、んが……?」

「そうだ、その女は死んだのだ――愛する者を守り……見事な死に様だった。安心しろ、お前もすぐに――」

「みごとなしにざまー? なにそれー?」

 怜は笑った。

 不敵に笑った。

「ただバカなだけじゃーん……かってにぼくを助けてー、かってに死んでさー……ほーんと、ただのバカじゃーん……ほーんと……」

 ブツブツと呟く怜、その姿は――


 あの戦場から見ても――不気味だった。

 彼の身体に戦慄が走る。


 満身創痍のその少年から放たれる禍々しいオーラに、戦場は初めて――



 怜に対して恐怖を覚えた。


 そして怜は言う……

「ほーんと……よしながさんのー……ばかやろう……」

 大粒の涙を流し……怜はそう言って――立ち上がった。


 危機感を得た戦場は、すぐさま引き金を引き、怜を殺害しようとする。

 黒いレーザービームが、至近距離から怜に向かって放たれた。


 怜はソレを、左手で……意図も簡単に弾いて、黒いレーザービームの軌道を強制的に――変えた。

 相手にぶつけ返すように――変えた。


「ぐぉおおぉおおぉおおお!!」黒いレーザービームが、戦場の右肩付近に直撃――


 右肩付近から大量の出血――

 戦場はここで始めて――大ダメージを負った。

「な!? な? 何だ……と……?」狼狽える戦場。

 そんな戦場の様子に、お構いなく怜は揺らりと動き出す。


 怜の全身が――黄金に輝き出した。


 眩い――眩過ぎる程黄金に輝いてる。思わず目を背けてしまう程の――

 怜が、戦場の目にも止まらぬ速さで接近する。

 そして――


 左拳を、戦場の顔面に思いっきり叩き付けた。

「ぐはっ!」戦場はダメージを受ける。

 咄嗟に残った左手の拳銃を怜に向けるが、怜はその手を掴む――


「この手……この手がーいけないんだねー?」虚ろな目で、怜は戦場の左手を――


 握り潰した。


「ぐぁあぁぁああっ!!」呻き声を上げる戦場。


 そこからは怜の独壇場だった。

 殴る、蹴る、殴る、蹴る……その繰り返しで、あの戦場を、まるで赤子の手をひねるかのように、ボロボロにしていった。


 そんな様子を見ていた冥達は……悲しそうな表情で、戦況を見つめる。

 勝てるかも――

 いや、そうではない……

 悲しいのだ――涙を流して戦う怜を見て――何とも言えない気持ちになる。胸が押し潰されそうな……そんな感覚……

 冥は……冷たくなった美永の上半身を抱きかかえた……そして問い掛ける。

「貴方は……ここ迄見越していたの? ……そんな訳無いか……フフッ……」冥も笑った。

 そして叫ぶように言う――

「遙! 七尾! 美永さんに回復を!!」

「し、師匠……で、でも……」「せ、せやけど……これはもう……」と、二人は意味が無い事を暗喩して口に出すが……

「良いからやれ!! これは私の命令よ!!」

「は、はいっ!」「お、おう……!」渋々……二人は動き出した。

 冷たくなった美永へ回復の御札、そして桃色の風を当てる。

 その様子を見届けた後、冥は視線を移す。


 苦しそうに――哀しそうに戦う、怜の姿へ。


「怜……」冥の目から涙が零れ落ちる。

「め、冥さん……もしかして……」天地は、冥がやろうとした事に気が付いた様子で……

「それも全て……怜の思い次第よ……でも、念の為の準備……分かってくれるわよね? ……天地……」

「…………うん……」


 三月と遙、そして紫貴は「凄い……」と、声を落とす。

 怜が一人で戦場を蹂躙している。


 全員、総掛かりでも、手も足も出なかった戦場を――


 怜が瞬く間に追い詰めていく。


 美永の死によって開かれた――怜のポテンシャル――底力――

 今の怜の強さは間違いなく――


『霊王』と同等――


 戦場も黙って殺られる訳もなく、使えなくなった両手の代わりに拳銃を一丁召喚――

 黒いレーザービームを怜へ向け放つ。


「無駄だってば」怜はまたしても黒いレーザービームを拳で弾き返し、戦場の左太腿を奪い去った。

「ぐぉおおぉおおぉおおお!!」

 痛みに呻く戦場に、怜は瞬時に近付き――


 左手一本で軽々と空中へと放り投げた。


 そして怜は、左手に全黄金の輝きを一点集中させる。

 その輝きは――巨大に……巨大に膨らむ――


 怜は、黄金の龍を放った――


 以前より、何倍も――何十倍も大きな黄金の龍が、途轍もなく黄金に輝き、空中を彷徨う戦場の目の前に立つ――

 巨大な黄金龍は大きく口を開け――


「ガオォオォオオオォォオオオオォオオオ!!」その口から――直径一キロメートルはあるであろう太さの、ビームを放った。


 空中の戦場は、召喚した拳銃にて黒いレーザービームを放ち、応戦するも……黒いレーザービームはその極大で黄金に輝くビームの前に呆気なく消滅。

 その極大のビームは――


 戦場の身体に直撃――


 木っ端微塵に、吹き飛ばしたのだった。
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