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第六話『霊王に最も近い悪霊』
【9】
しおりを挟む怜は這って美永の上半身に触れる。
冷たい――
ただでさえ色白だった美永の肌が、更に白く……青白く変わっていく。
怜の身体が震える……
「な、に、やって……ん、だよ……」
ぶるぶると、ぶるぶるぶるぶると震える――
「よ、美永さ、ん? わ、わらっ、てよ……い、いつ、も、みた、いな……かわ、い、い、笑顔で……さ……」
しかし返答はない。
美永はピクリとも動かない。
当然だ、何故なら彼女は――
「死んだのだから、動かなくて当然だ」戦場が言い放つ。
「し、んだ……? よ、しながさ、んが……?」
「そうだ、その女は死んだのだ――愛する者を守り……見事な死に様だった。安心しろ、お前もすぐに――」
「みごとなしにざまー? なにそれー?」
怜は笑った。
不敵に笑った。
「ただバカなだけじゃーん……かってにぼくを助けてー、かってに死んでさー……ほーんと、ただのバカじゃーん……ほーんと……」
ブツブツと呟く怜、その姿は――
あの戦場から見ても――不気味だった。
彼の身体に戦慄が走る。
満身創痍のその少年から放たれる禍々しいオーラに、戦場は初めて――
怜に対して恐怖を覚えた。
そして怜は言う……
「ほーんと……よしながさんのー……ばかやろう……」
大粒の涙を流し……怜はそう言って――立ち上がった。
危機感を得た戦場は、すぐさま引き金を引き、怜を殺害しようとする。
黒いレーザービームが、至近距離から怜に向かって放たれた。
怜はソレを、左手で……意図も簡単に弾いて、黒いレーザービームの軌道を強制的に――変えた。
相手にぶつけ返すように――変えた。
「ぐぉおおぉおおぉおおお!!」黒いレーザービームが、戦場の右肩付近に直撃――
右肩付近から大量の出血――
戦場はここで始めて――大ダメージを負った。
「な!? な? 何だ……と……?」狼狽える戦場。
そんな戦場の様子に、お構いなく怜は揺らりと動き出す。
怜の全身が――黄金に輝き出した。
眩い――眩過ぎる程黄金に輝いてる。思わず目を背けてしまう程の――
怜が、戦場の目にも止まらぬ速さで接近する。
そして――
左拳を、戦場の顔面に思いっきり叩き付けた。
「ぐはっ!」戦場はダメージを受ける。
咄嗟に残った左手の拳銃を怜に向けるが、怜はその手を掴む――
「この手……この手がーいけないんだねー?」虚ろな目で、怜は戦場の左手を――
握り潰した。
「ぐぁあぁぁああっ!!」呻き声を上げる戦場。
そこからは怜の独壇場だった。
殴る、蹴る、殴る、蹴る……その繰り返しで、あの戦場を、まるで赤子の手をひねるかのように、ボロボロにしていった。
そんな様子を見ていた冥達は……悲しそうな表情で、戦況を見つめる。
勝てるかも――
いや、そうではない……
悲しいのだ――涙を流して戦う怜を見て――何とも言えない気持ちになる。胸が押し潰されそうな……そんな感覚……
冥は……冷たくなった美永の上半身を抱きかかえた……そして問い掛ける。
「貴方は……ここ迄見越していたの? ……そんな訳無いか……フフッ……」冥も笑った。
そして叫ぶように言う――
「遙! 七尾! 美永さんに回復を!!」
「し、師匠……で、でも……」「せ、せやけど……これはもう……」と、二人は意味が無い事を暗喩して口に出すが……
「良いからやれ!! これは私の命令よ!!」
「は、はいっ!」「お、おう……!」渋々……二人は動き出した。
冷たくなった美永へ回復の御札、そして桃色の風を当てる。
その様子を見届けた後、冥は視線を移す。
苦しそうに――哀しそうに戦う、怜の姿へ。
「怜……」冥の目から涙が零れ落ちる。
「め、冥さん……もしかして……」天地は、冥がやろうとした事に気が付いた様子で……
「それも全て……怜の思い次第よ……でも、念の為の準備……分かってくれるわよね? ……天地……」
「…………うん……」
三月と遙、そして紫貴は「凄い……」と、声を落とす。
怜が一人で戦場を蹂躙している。
全員、総掛かりでも、手も足も出なかった戦場を――
怜が瞬く間に追い詰めていく。
美永の死によって開かれた――怜のポテンシャル――底力――
今の怜の強さは間違いなく――
『霊王』と同等――
戦場も黙って殺られる訳もなく、使えなくなった両手の代わりに拳銃を一丁召喚――
黒いレーザービームを怜へ向け放つ。
「無駄だってば」怜はまたしても黒いレーザービームを拳で弾き返し、戦場の左太腿を奪い去った。
「ぐぉおおぉおおぉおおお!!」
痛みに呻く戦場に、怜は瞬時に近付き――
左手一本で軽々と空中へと放り投げた。
そして怜は、左手に全黄金の輝きを一点集中させる。
その輝きは――巨大に……巨大に膨らむ――
怜は、黄金の龍を放った――
以前より、何倍も――何十倍も大きな黄金の龍が、途轍もなく黄金に輝き、空中を彷徨う戦場の目の前に立つ――
巨大な黄金龍は大きく口を開け――
「ガオォオォオオオォォオオオオォオオオ!!」その口から――直径一キロメートルはあるであろう太さの、ビームを放った。
空中の戦場は、召喚した拳銃にて黒いレーザービームを放ち、応戦するも……黒いレーザービームはその極大で黄金に輝くビームの前に呆気なく消滅。
その極大のビームは――
戦場の身体に直撃――
木っ端微塵に、吹き飛ばしたのだった。
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