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第五話『美永姫美の不幸』
【6】
しおりを挟む七尾と紫貴、美永の周りを大量の拳銃が取り囲む。
その数は百を超えているだろう。
「あらあらまぁ、大層なお迎えやなぁ……」と、七尾は慌てる事なく、笑みを浮かべ言う。
「七尾……」
「言われんでも分かっとる、任せときぃ」紫貴の言葉を聞かずとも把握している七尾は、チラッと背後の美永にも目を向ける。
「…………まだこの女子も殺す訳にはいかんしなぁ……しゃーなしに護ったるわぁ」
当然、その大量の拳銃はただ取り囲むだけではない。
拳銃は、撃つ為にある。
「そぉーれ、舞え――灰色の風」そう言いつつ七尾が扇子を仰ぐと、三人の周辺の風が透明から灰色へと変色し、三人の周りを取り囲んだ。
その一秒後――
パァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァンパァン――!!
百を超える拳銃が、一斉に三人に向けて発砲を始めた。
しかし、その雨のように降る銃弾が三人の身体を貫く事はなかった。
一弾足りとも。
全て、七尾の灰色の風に防がれてしまっているのだ。
「……紫貴や」
「了解、後はワイが殺るわ」紫貴はポケットから手裏剣風に折られた紙を八枚程、取り出す。
それを慣れた手付きで左右へと投げる。
どうやらこの灰色の風は、外からの攻撃には強いが、内からは自由自在に物を出せるようだ。
鉄壁の防御と、その鉄壁から繰り出される攻撃――無敵に近いコンビネーションである。
投げられた紙手裏剣が、見事に、銃弾の隙を付き、八枚、バラバラの位置まで飛び終えた。
その位置は、拳銃がズラリと並んでいる場所と同じ位置だ。
「爆ぜろや、死んでまえ」紫貴がそう言った瞬間――
八枚の紙手裏剣がそれぞれの場所で大爆発を起こした。
もちろん、周囲に並ぶ百の拳銃達を巻き込んで。
爆風が三人にも襲い掛かるが、灰色の風に守られている為――無傷。
徐々に煙が晴れる……周囲を取り囲んでいた拳銃は、一丁足りとも、残っていなかった。
「さぁ、しょうもないお遊びに付き合ってもうたの、先へ進みましょか」七尾は灰色の風を解除しつつ、そう言って、風を押し進める。
進みながら七尾は「あんさんも、ウチらの所に来て正解やったのかもしれへんなぁ?」と、美永へ問い掛ける。
「は? 何が……?」
「ウォーホッホッホ! 愚かやなぁ……? 今のウチらの戦い見たやろ? 強いやろ? そんなウチらに守って貰えるんやから、ラッキーやろ。あんな弱い奴らと共にここに来とったら、あいつらと一緒におまはんもお陀仏してたかもしれんからなぁ? 感謝しいやー、ウチらに」
「……まぁ……はい……」美永は頷いた。
美永は生きる為に、逆らわず、頷いたのだ。
彼女は、本当の答えを敢えて述べなかった。
彼女は……怜や冥――彼らの本当の力を知っている。
確かに七尾、紫貴コンビの戦闘は凄かったが、怜や冥と出会った時程の衝撃は無かった。
あの、絶望的な……圧倒的な力――程の迫力は、微塵も感じなかった。
この三人の中で、唯一、美永がだけが――本当の答えを知っていたのだ。
だから彼女は信じている。
彼の顔を、思い浮かべながら――
願っている――
――幽野は、必ず来てくれる! 必ず!
「さぁ! 進むでぇー!」七尾が扇子を振りかざし、ぐんぐんぐんぐんぐんぐんぐんぐんぐんぐん風を前に進める。
「覚悟しときや! 『拳銃の悪霊』はん!」
パァアアン!!
「…………は?」
突然の銃声と共に、七尾の左脇腹から血が流れた。
大量の血が……
「七尾ぉ!!」咄嗟に近付こうとする紫貴。
「来んでええ!!」七尾はそれを遮り、すぐ様灰色の風で周りを囲み、防御を整える。
そして負傷した左脇腹を、桃色の風で包み込む。
どうやら治癒能力のようだ。
息を切らし、応急処置しつつ、七尾は思考する。
何や!? 何が起こったんや!? 拳銃の姿は確認でけへんぞ!? ひょっとしてさっき潰し残しがあったんか!? …………いや、それは考えられへん……だとするなら、反撃が遅過ぎる……となると――
見えへん所から狙われとる!?
「七尾! 大丈夫か!?」
「大丈夫や……それより……周りに拳銃おらんけ……?」
「それがワイも確認したけど無いねん……一体何がおこってんねん!?」
「分からん! けどこのまま突っ込むで! 灰色の風を解除したのが間違いやったわ、速度は落ちてまうが解除せず、このまま行くで!」
「け、けど、それやとお前の体力がもたんのちゃうか?」
「他に方法がないやろが!! 見えへんような所から撃たれとるんやぞ!? 回避のしようがないやろがい!! おどれ、ここでメソメソ引き返せっちゅうんか!? ここまで来て、腰が引けたんか!? あぁ!?」怒鳴る七尾。
そんな七尾に対して、
「…………」
紫貴は無言で、心配そうに見つめている。
七尾はそれが苛ついたのか、「チッ」と舌打ちをし、最早特攻の様に、前へ前へと突き進む。
彼女達にとっての絶望が――
目の前に控えている事も知らずに……
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